屋久島空港

【視点】昭和を彷彿させる屋久島空港は「本当に世界自然遺産の空港なのか?」

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荷物は手運び トイレは黄ばんで悪臭  鹿児島県の工事で仮設バス停に屋根なく観光客は雨ざらし

屋久島観光協会、県に配慮し「早く工事が終わることを願っています」

雨に打たれながら傘を手に路線バスを待つ観光客ら=2025年11月5日、屋久島空港、屋久島ポスト撮影
雨に打たれながら傘を手に路線バスを待つ観光客ら=2025年11月5日、屋久島空港、屋久島ポスト撮影

屋久島空港に降り立って感じるのは、「ここは本当に世界自然遺産の空港なのか?」という疑問だ。

屋久島町は「観光立島」を掲げ、観光を島内産業の柱に据えている。だが、老朽化した空港ターミナルに入ると、そこには遠く古い「昭和時代」を彷彿させる光景が広がり、とても観光客を歓迎しているとは思えない。


国鉄の駅トイレを思い出す悪臭

まずは、預けた荷物の受け取りだ。どこの空港でもお馴染みの、荷物を回転寿司のように運ぶ「ターンテーブル」が見当たらない。少し待っていると、空港の係員が荷物を一つひとつ受け取り台まで運んでくるので、とても時間がかかる。大変な作業で気の毒だが、それをひしめき合って待ち続ける観光客も大変だ。

やっとわが荷物と再会して、ちょっと男性トイレに立ち寄ると、鼻をつくようなアンモニア臭が漂ってくる。その昔、JRの前身である国鉄の駅でトイレに入ると、同じような悪臭で閉口したのを思い出す。そして、空港の黄ばんだ便器を眺めながら、「せめて掃除ぐらいはしっかりしてほしい」と言いたくなる。


世界遺産登録から32年、老朽化したまま運営

屋久島が世界自然遺産になって32年。これほど長きにわたり、よくこんな空港ターミナルで国内外から観光客を迎えてきたものである。空港を管理する鹿児島県も、県を代表する観光地の玄関口なのだから、もっと早く整備するべきだったのではないか。さらに、空港機能施設事業者としてターミナルの管理や旅客サービスをする民間会社には、設備の拡充やトイレを含めた施設の清掃をしっかりしてもらいたいものである。

上空から望む屋久島空港=屋久島ポスト撮影
上空から望む屋久島空港=屋久島ポスト撮影

県、住民らの改善案にゼロ回答で工事継続

そんな屋久島空港でいま、路線バスの停留所が屋根のない野ざらし状態となり、乗客が雨や日差しを避けられない状況が続いている。停留所がある歩道の屋根の補修工事をするため、歩道前の車道に停留所が仮設されたからだ。

屋久島空港の施設補修工事で仮設された路線バスの停留所。屋根のない野ざらし状態となっている=2025年10月13日、屋久島ポスト撮影
屋久島空港の施設補修工事で仮設された路線バスの停留所。屋根のない野ざらし状態となっている=2025年10月13日、屋久島ポスト撮影

工事は9月末から始まり、12月上旬まで2カ月以上も続く。すると、住民や観光業者から声が上がった。

「雨の多い屋久島で、大きな荷物を抱えた観光客を雨ざらしの状態で待たせるわけにはいかない」

「せめて仮設の屋根を設置できないのか」

ところが、これらの声を屋久島町議会の渡辺千護町議が県屋久島事務所に伝えても、事態は一向に改善にされない。仮設の屋根は「強風で飛ばされる可能性があるため設置できない」と断られたという。

そこで、渡辺町議が別の案を出してみた。

「空港ターミナルの出入口近くにある一般車両の乗降車スペースに仮設停留所を移せば、乗客はターミナルの軒下でバスを待ったり、雨に濡れずに荷物を運んだりすることができる」

だが、この提案についても県屋久島事務所は、バス会社の理解が得られなかったとして、すぐに対応できないと断ってきたという。

つまり、屋久島を訪れる観光客に「工事が終わるまで我慢しろ」ということである。

屋久島空港ターミナルの出入口付近に仮設の停留所を移せば、乗客は軒下でバスを待つことができる=2025年11月5日、屋久島ポスト撮影
屋久島空港ターミナルの出入口付近に仮設の停留所を移せば、乗客は軒下でバスを待つことができる=2025年11月5日、屋久島ポスト撮影

ターミナル出入口付近にバス停があれば雨がしのげるのに……

雨が降りしきる11月5日午前、屋久島空港に立ち寄ってみると、リュックサックを背負った観光客らが傘を手に、じっと雨に打たれながらバスの到着を待っていた。もしターミナルの出入口付近に停留所があれば、大きな軒下で雨をしのぎながら待てると思うと、観光客のみなさんには申しわけなく思った。

雨のなか傘を手に路線バスの到着をじっと待つ観光客ら=2025年11月5日、屋久島空港、屋久島ポスト撮影
雨のなか傘を手に路線バスの到着をじっと待つ観光客ら=2025年11月5日、屋久島空港、屋久島ポスト撮影

このような状況に対して屋久島観光協会は、県に依頼をして補修工事の予算が「やっとついた」として、取材に「早く工事が終わることを願っています」と答えた。完全に腰が引けた、県に配慮するコメントであり、そこには観光客に対する思いは全く感じられない。そもそもだが、空港管理は県の所管であり、歩道の屋根が壊れたのであれば、県が積極的に補修するべきものだ。

屋久島町の観光まちづくり課も10月初めに県屋久島事務所に改善を求めたきり、その後は何も要望はしていないとみられる。

屋久島空港前の歩道に設置された屋根の補修工事で組まれた足場。工事の影響で、路線バスの停留所は歩道前の車道に移された=2025年10月13日、屋久島ポスト撮影
屋久島空港前の歩道に設置された屋根の補修工事で組まれた足場。工事の影響で、路線バスの停留所は歩道前の車道に移された=2025年10月13日、屋久島ポスト撮影

屋久島空港の「蟻の一穴」は大きな墓穴に

屋久島は観光客の「リピーター率」が低いことで知られているが、この屋久島空港の施設管理や補修工事をめぐる対応をみただけでも、その原因は容易に推察できる。町や県、観光協会など屋久島観光に関わる公的な団体が、観光客の目線に立った判断ができていないのだ。

「蟻の一穴」とは、どんなに強大な組織であっても、ほんの小さなミスや不手際が致命傷となり、その組織を揺るがすような大事態になることを意味することわざだ。これをいまの屋久島観光にあてはめると、屋久島空港に空いた穴は一つや二つではなく、いずれそれらが大きな墓穴になっていくことは明らかである。

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