【視点】屋久島町の婚活事業にみる人権意識の希薄さ/屋久島ポスト
対象年齢の上限、女性40歳なのに男性45歳は問題では?→ 町職員「女性は若い方がいい」「意見として聞いておく」
問われる屋久島町議会の対応

「町報やくしま」(2025年10月号)に掲載された「屋久島で出会う縁結びバスツアー」を紹介する記事の一部。対象年齢が男性25~45歳、女性25~40歳とされていた
屋久島への移住を希望する男女を募集しているのに、なぜ女性だけ対象年齢の上限が40歳で、男性より5歳も若く設定されているのか?
屋久島町が主催する「屋久島で出会う縁結びバスツアー」で、そんな差別的な参加条件をつけて、町が全国から参加者を募っていた。町の広報誌「町報やくしま」10月号で募集記事を目にして、これは「おかしい」と思い、すぐに担当の観光まちづくり課に取材をすると、こんな理由で年齢差を設けたという。
「業務委託した専門業者の知見から、その年齢幅が最もバランスがいいということで設定した」
専門業者の知見から「バランスがいい」とは、あまりに抽象的な説明だった。そこで、さらに深掘りして尋ねると、担当職員はズバリと言った。
「今後の島への移住と定住を考えたときに、子育てやマンパワーということを考えると、なるべく若い女性に来ていただいた方がいい」
それなら男女とも若い方がいいのに、なぜ男性だけは45歳まで受け入れるのか?
そんな疑問を投げかけると、その先の答えは返ってこなかった。
東京都国立市、市民の苦情で男女とも同年齢に
少子高齢化を背景に、いわゆる「婚活イベント」を実施する地方自治体などの公的団体は多いが、それらの大半は男女の対象年齢を同じにしている。その理由は、屋久島町のように女性だけ若く設定すると、女性差別につながるとの配慮からだ。
2023年に東京都国立市が実施した婚活イベントでも、対象年齢の男女差が問題になった。当初は「男性28~49歳」「女性23~44歳」としたところ、市民から苦情が出たことで市が謝罪して、対象年齢を男女ともに23~49歳に変更したのだ。

【左】東京都国立市が「市報くにたち」(2022年12月5日号)に掲載した婚活パーティーの案内記事。対象年齢が「男性28歳~49歳、女性23歳~44歳」となっていた=朝日新聞デジタル記事(2023年2月18日付)より【右】「市報くにたち」(2022年12月20日号)に掲載された「お詫びと訂正」。対象年齢を男女とも「23歳~49歳」としたうえで、市民に対して謝罪をしている=国立市ウェブサイトより
国立市議会「出産可能年齢の条件は問題」と市長に申入書
市民からの苦情に対して、国立市議会の議員たちも問題を看過せず、しっかりと市民に寄り添った。
朝日新聞の報道(2023年2月18日付)によると、市議10人が「性別に年齢差をつけただけではなく、そこに上限を設けたこと、また女性の出産可能年齢を条件としたことでこの事業が少子化対策と捉えられることは問題」として、市長に再発防止を求める申入書を提出。市幹部は同紙の取材に「出産可能年齢と受け止められかねないという点で、人権への配慮が足りなかった」と話したという。
この国立市の対応で感じるのは、市民からの苦情に対する「感度」の高さだ。小さな市民の声であっても、市役所は迅速に対処した。そして、市議会は市長に再発防止策を求めて、市民の意見を市政に反映させている。

国立市・婚活パーティーのチラシの一部。対象年齢は男女とも23~49歳に変更された
町、他自治体の例を知り一転して同年齢に変更
その一方で、屋久島町の「感度」は極めて鈍い。
まず、取材に職員は「業務委託した専門業者の知見」を持ち出し、主催者である町としての説明責任は果たさなかった。これに対して、「男女で対象年齢に差を設けると、差別になるのではないか」と押し戻したが、職員からは「それはあなたの意見として、聞いておきます」と突き放され、取りつく島がまったくなかった。
そこで担当職員ではなく、観光まちづくり課の幹部に対して、先例である国立市の対応について説明した。さらに、地方自治体などが主催する婚活イベントで、その大半が男女の対象年齢を同じにしていることを伝えた。
すると、観光まちづくり課の対応は一転した。当初は男性「25~45歳」、女性「25~40歳」だった参加条件を、男女とも「25~45歳」に変更したのだ。

屋久島町が主催する縁結びツアーを紹介する旅行会社のウェブサイト画面。屋久島ポストの取材後、対象年齢が男女とも25~45歳に変更された
委託業者への「丸投げ」体質
いま、これらの経緯を書き留めた取材メモを読み返して思うのは、業者に委託業務を任せきりにする屋久島町の「丸投げ」体質だ。専門業者の提案であっても、各地方自治体などが主催する婚活イベントの実施状況を調べれば、男女で対象年齢に差を設けることが差別になることはわかったはずだ。
町民の声を蔑ろ 続く住民訴訟
さらに問題なのは、町民の声を蔑ろにする町職員の姿勢だ。この婚活イベントの問題に限らず、取材で意見を伝えることは多いが、ほぼすべての職員から「それはあなたの考えだ」「意見として聞いておく」と言われ、まともに聞き入れてもらえない。今回のように善処されることは極めて稀で、町民の小さな声は無視されているのが現状である。
それゆえに、町の公費の使い方をめぐり、住民訴訟が続いている。
町長交際費で国会議員らに高額な贈答を続けていても、一方的に町は「町長の裁量権の範囲だ」と主張して、まったく改めようとはしない。
海底清掃事業に寄付金を1700万円も投じたのに、潜水した時間がわずか計2時間だけでも、町は具体的な成果を示さないまま、「大量のごみを集めて大きな成果があった」と言い張っている。

9月の改選後に初めて開かれた屋久島町議会の臨時会=2025年10月1日、屋久島町役場の議会棟、屋久島ポスト撮影
12月定例会「もう問題は解決した」では許されない
どれも町役場が町民の声を蔑ろにしてきた結果だが、それをただ傍観している屋久島町議会の責任も大きい。国立市議会のように多くの市議が自ら動くことはなく、町民から意見や異論が出ても、大半の町議は耳を傾けることはない。
その意味で、この婚活事業の年齢問題は、屋久島町にとっては「氷山の一角」である。町幹部は「男女とも同じ年齢にしたのだから、もう問題は解決した」と開き直るだろうが、町民の声を真摯に聞く気持ちが育たなければ、また同じような問題が起きることは明らかである。
12月に開かれる屋久島町議会は、9月の改選から初めて迎える定例会だ。新たに選出された町議14人は、どんな思いでこの婚活事業の年齢問題を話し合うのだろうか。
屋久島町の人権意識が問われる問題である。「もう解決済み」では許されない。
