町幹部がニセ領収書で不正精算、それでも見逃す町議会【御用議会の四年間】②/屋久島町議選2025
副町長「見積もりの領収書」、議長「予約の領収書」と釈明 → 町議会、ニセ領収書15枚判明も百条委設置案は全否決
出張旅費不正精算事件

屋久島町議会=2025年6月、屋久島ポスト撮影
2021年9月の屋久島町議選で当選した町議たちには、改選前の町議会が放置してきた「大きな宿題」が残されていた。2019年末に発覚した町長、荒木耕治の出張旅費不正精算をきっかけに明らかになった、副町長や町議会の議長らによるニセの領収書を使った旅費の不正精算である。
副町長、領収書7万2220円 → 実費2万6110円
当時、副町長だった岩川浩一は2017年4月に名古屋へ出張した際に、航空券代として7万2220円の領収書で旅費の精算をした。ところが、現屋久島ポスト共同代表の武田剛が取材をすると、実際に支払ったのは2万6110円で、領収書の額面より4万6110円安かったことが判明。この領収書について、岩川は「見積もり段階で旅行会社から受け取った」などと釈明した。
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岩川浩一副町長が出張旅費精算で提出したニセの領収書。額面が7万2220円とあるが、実際には2万6110円だった
議長、領収書9万3980円 → 実費4万1300円
また、町議の岩川俊広は、議長を務めていた2019年5月に東京へ出張した際に、航空券代として9万3980円の領収書で旅費の精算をした。ところが、武田が取材をすると、実際に支払ったのは4万1300円で、領収書の額面より5万2680円安かったことが判明。この領収書について、岩川は「予約した際に旅行会社からもらった」と釈明した。
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岩川俊広町議が出張旅費精算で提出したニセの領収書。額面が9万3980円とあるが、実際には4万1300円だった
副町長・議長・副議長のニセ領収書、町議会は一切不問
さらに当時の副議長も、実際の航空券代より高い額面の領収書で精算していたことがわかった。副町長に議長、そして副議長までもがニセの領収書で不正精算をするという、屋久島町としては前代未聞の事態となった。
ところが、町政を監視するはずの屋久島町議会は、この問題を一切不問にした。一部の町議から不正調査をする調査特別委員会(百条委員会)の設置案が2度にわたって提案されたが、町議会はいずれも反対多数で否決。町長派の石田尾茂樹(現議長)と岩山鶴美は、「それぞれが自己申告すればいい」などと主張して、ニセ領収書の不正調査に反対した。

ニセ領収書の不正調査をする百条委員会の設置案に対する採決結果を表示するモニター画面=2020年3月23日、屋久島町議会
さらに会計課長もニセ領収書で不正精算
その後、2021年11月に創刊した屋久島ポストが、この領収書問題について取材を続けると、さらに新たな事実が判明した。町役場や町議会の幹部だけでなく、一般職員にもニセの領収書が出回っており、そのなかには「町の金庫番」として会計管理者を務める会計課長も含まれていた。
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会計課長が出張旅費精算で提出したニセの領収書。実際の航空運賃より高額な金額が記載されている
元議長、出張中に私的な家族旅行
そして町議会からは、また別の元議長による不正精算が判明した。
町議の日高好作は、議長を務めていた2016年5月に東京へ出張した際に、屋久島と東京の往復航空券代の領収書を添付して、宿泊費や日当なども含めて計9万7900円の旅費を受け取った。ところが、日高は出張中に家族と私的な旅行で石川県を訪ねており、領収書を発行した旅行会社には、日高に航空券を販売した記録が残されていなかった。
そこで、屋久島ポストは本人に事情を尋ねようとした。だが、日高は「日高好作がやりましたと、書きたいなら、書いてください」「話すか話さないかは私の権利」などと言って、頑なに取材を拒否した。

虚偽領収書のコピーを前に「話すか話さないかは私の権利」と主張して、説明を拒否する日高好作町議=2022年5月24日、屋久島町役場、屋久島ポスト撮影
【動画】https://youtu.be/e-NVOgs2tDA
町議会、町ぐるみの不正疑惑も不問
日高から詳細な事情は聴けなかったが、この取材によって、不正精算に使われた領収書は少なくとも15枚あり、いずれも町内にある同じ旅行会社から発行されていることがわかった。そして、ニセの領収書による不正精算は、役場と議会を含めた「町ぐるみの不正」である疑いが高まった。
ところが、それでも町議会は、15枚もあるニセの領収書に背を向けた。
2022年6月に開かれた定例会では、町幹部を追及する真辺真紀が百条委設置案を提案したが、反対多数で否決された。採決前には討論があり、百条委設置に反対する町議の中馬慎一郎は、この問題を町監査委員が調査をしていることを理由に、「(百条委員会で)調査するとなれば、議会が認めたいまの監査委員を罷免する必要がある」と主張。だが、町議会と監査委員はそれぞれが独立した機関であることから、この中馬の討論は傍聴者の失笑をかった。

ニセ領収書の不正調査をする百条委員会の設置案に反対討論する中馬慎一郎町議(手前)。後ろは日高好作町議=2022年6月22日、屋久島町議会、同町議会YouTubeチャンネルより
【動画】https://youtu.be/hthIkhAP2ZY
不正精算の元議長2人、自ら百条委反対の茶番劇
そして、もう一つ大きな失笑をかったのは、自分自身もニセの領収書で不正精算をしていたにもかかわらず、元議長の岩川と日高が退席もさせられずに、この採決に加わっていたことだ。自分たちに対する不正調査に自ら反対するという、まるで茶番劇のような展開だったが、2人は電子採決で「反対」のボタンを押し、百条委設置案の否決にしっかりと貢献した。

ニセ領収書の不正調査をする百条委員会の設置案に対する採決結果を表示するモニター画面。岩川俊広町議と日高好作町議も採決に参加して「反対」のボタンを押した
多数派町議、刑事事件の案件は議会で審議できない!?
だが、それでも一部の町議は諦めなかった。
真辺らは同年12月に開かれた定例会でも百条委設置案を提案し、「特に前副町長や元会計課長、歴代の議長3人が使ったニセ領収書については、説明責任を果たしておらず、うやむやのまま放置することは許されない」と賛同を求めた。
これに対し多数派の内田正喜は、調査対象に刑事事件となった案件が複数含まれていることから、「司法の場で決着したものを、議会が新たに証言を求めることが許されるのか」と述べ、「三権分立の基本原理に反する」として反対した。
刑事事件になった案件は、地方議会で審議が一切できない――。そうなると、現職議員が刑事事件で有罪になっても、地方議会はその議員に対し一切の責任を問えなくなるが、それはあり得ないことである。

ニセ領収書の不正調査をする百条委員会の設置案に反対討論する内田正喜町議=2022年9月20日、屋久島町議会、同町議会YouTubeチャンネルより
計5回否決、旅費不正めぐる百条委設置案
しかし、それでも採決では反対多数となり、ニセ領収書の不正調査をする百条委設置案は否決となった。ただし、一つだけ救いだったのは、この採決に岩川と日高の2人が参加しなかったことだが、いずれにしても町議会の判断は変わらなかった。
荒木に端を発した出張旅費不正精算事件をめぐり、約3年間で百条委設置案が提案されたのは5回となった。そして、そのすべてが反対多数で否決され、いま現在でもニセ領収書が発行された経緯は一切わからないままだ。
ニセの領収書で不正精算をしていいはずはない。だが、それでもすべて不問にするのが、いまの屋久島町議会ということである。

ニセ領収書の拡大コピーを示して、百条委員会設置案の提案理由を説明する真辺真紀町議=2022年6月22日、屋久島町議会、同町議会YouTubeチャンネルより
【動画】https://youtu.be/XDMsNTEuIHM
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9月21日に投開票される屋久島町議選を前に、新たに選ばれる町議たちに期待を寄せながら、現議会の4年にわたる任期を振り返ります。
※この連載は敬称略で掲載します。