屋久島町議選2025

海底清掃事業なのに潜水2時間だけ、4件目の訴訟へ【御用議会の四年間】⑦/屋久島町議選2025

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町、1700万円の大半は観光ガイド冊子と動画の制作費 → ごみ回収の実費や総量は報告せず

海底清掃事業問題・住民訴訟

屋久島町役場=2025年6月、屋久島ポスト撮影

 屋久島町がふるさと納税の寄付金1700万円を投じて、海底に溜まったごみを清掃すると知ったのは、新年度予算を審議する2022年3月の町議会だった。

 町議の間では、海底清掃よりも事業の広報活動に使う予算が多いことを疑問視する声が出たが、予算案は全会一致で可決された。だが、「屋久島の環境を守って欲しい」と全国から託された寄付金を事業費に充てるため、町がどのように予算を支出するのかが注目された。

ごみ回収の総量、報告書に記録なし
 そして、すべての事業が終了したのちの2023年9月、屋久島ポストが町の情報公開制度でこの事業の記録文書を手に入れると、驚きの事実がわかった。海底清掃をすると公言して1700万円を支出したにもかかわらず、実際に海底に潜って活動したのは、合計で2時間だけだったのだ。さらに事業の実施報告書を開くと、海底から回収したごみの総量も記録されておらず、具体的な成果がわからなかった。

屋久島町がJTBパブリッシングに制作を委託した観光ガイド冊子のグルメ情報ページ。「島のめぐみをいただきます」と題して、特定の飲食店を詳しく紹介している(※モザイクは屋久島ポストが加工)

環境保全事業なのにJTB「るるぶ」酷似の冊子制作
 それでは、1700万円もの寄付金は何にどう使われたのか?

 そこで、この事業の業務委託先で、旅行大手JTBの出版部門を担うグループ会社「JTBパブリッシング」(本社・東京都江東区)が町に提出した事業支出の「御見積書」を確認した。すると、屋久島の観光情報や魅力を伝えるガイド冊子と動画の制作費に、1700万円の大半が使われていたことがわかった。ガイド冊子には島のグルメ情報などが掲載され、同社が毎年発行している観光ガイドブック「るるぶ」と内容が酷似していた。10分のユーチューブ動画については、冒頭で海底清掃活動の紹介をしているが、残りは島の自然の魅力を伝える観光ガイドのような内容だった。

JTBパブリッシングが屋久島町に提出した海底清掃事業の見積書(※黒塗りは屋久島町、モザイクは屋久島ポストがそれぞれ加工)

渡辺町議「寄付した方々の期待を裏切ることになる」
 これでは「はりぼて」のように、表向きは海底清掃事業をしていると見せかけて、実際にはJTBパブリッシングが得意とする観光広報事業をしているも同然だった。そこで、屋久島ポストがこれらの事実について2023年12月に報じると、町議の渡辺千護がこの問題を町議会一般質問で取り上げた。

「1700万円も使ったのに、なぜ海底清掃が2時間だけなのか」

「実際に海底から回収したごみの総量と、それに要した実費を示してほしい」

「『屋久島の環境を守って欲しい』と託された寄付金を観光広報事業に使うのは、寄付した方々の期待を裏切ることになるではないか」

海底清掃事業について一般質問をする渡辺千護町議(中央)=2024年3月11日、屋久島町役場議会棟、同町議会YouTubeチャンネルより

町、回収したごみの総量は「適正に管理している」
 これらの指摘に対し、町長の荒木耕治ら町幹部は、業務を委託したJTBパブリッシングの見解を示すばかりで、事業主体としての説明責任を果たすことはなかった。

 まず、海底清掃では「大きな成果」があったとしたうえで、この事業の業務委託契約が、単価や数量に左右されない「総価契約」であることを理由に、廃棄実費については回答を拒否した。また、実際に海底から回収したごみの総量については、同社が業務を再委託した業者が「適正に管理している」とだけ述べ、具体的な数量を明らかにすることはなかった。

 使途が環境保全に指定された寄付金で海底清掃をしたのに、ごみの回収実費を公表できないというのは、いったいどういうことなのか。さらには、海底清掃が主目的の事業なのに、どのくらいのごみを集めたのか、その総量を報告しないことは許されるのか。

屋久島町議会の一般質問で、海底清掃事業について答弁する荒木耕治町長=2024年3月11日、屋久島町役場議会棟、同町議会YouTubeチャンネルより

海底清掃の実績ないのに優先的に随意契約
 荒木ら町幹部は無責任な答弁を続けたが、やがてさらに驚きの事実が判明した。渡辺が独自にJTBパブリッシングに質問状を送ると、それまで同社には、海底清掃事業を手がけた実績が一度もないことがわかったのだ。

 町はこの事業を委託する際に、同業他社が参加する競争入札を実施せず、優先的にJTBパブリッシングと特命随意契約を結んだ。それはつまり、町が同社について、実績が豊富で「余人をもって代えがたい業者」と判断したということだ。だが、実際には海底清掃の実績がないとなれば、特命随意契約を結ぶ根拠がなかったということになる。

議会、研究しない「研究員」に人件費273万円も黙認
 ところが、渡辺がいくら問題を指摘しても、町幹部はこの事業が適切に実施されたと主張し、荒木を支持する多数派の町議たちが異論を唱えることもなかった。

 さらに、この事業は2023年度も寄付金2000万円で継続され、「主任研究員」「研究員」と称する人件費に273万円を支出したが、実際には何の研究もしていなかったことがわかった。また、「経理担当職員」には実働12日で計66万円の予算を計上し、日給5万5000円という「破格」の人件費が支払われていた。

 この高額な人件費についても、渡辺は町議会で問題提起したが、町長派の町議たちは一切相手にしなかった。

2023年度の海底清掃事業で屋久島町に提出された見積書には、「主任研究員」「研究員」「経理担当職員」の人件費が計上されていた(金額は税抜き)

全国の善意を思い住民訴訟を提起
「こんないい加減な寄付金の使い方をしていたら、屋久島の自然を守りたいと願って寄付していただいた多くの善意を裏切ることになる」

 そう危惧した渡辺は2024年8月、2022年度に支出した1700万円を荒木ら町幹部に賠償請求するよう求めるため、町を相手に住民訴訟を提起。2025年7月までに5回の口頭弁論を終え、いま現在も鹿児島地裁で法廷闘争を続けている。

鹿児島地裁=屋久島ポスト撮影

 補助金不正請求事件、町長交際費問題、そして町営牧場の過重労働死問題。これまで屋久島町が提訴された案件は、どれも町議会が荒木ら町幹部の主張を容認または黙認し、問題を解決せずに放置したものばかりだ。そして、さらに海底清掃事業の問題までもが裁判となり、これで2022年以降に提起された訴訟は計4件になる。

 行政監視は地方議会の責務である。もし、屋久島町議会(議長・石田尾茂樹)がその責務を全うし、しっかりと荒木町政を監視していれば、どの訴訟も避けられたであろうことは、言うまでもない。

◇     ◇     ◇

 9月21日に投開票される屋久島町議選を前に、新たに選ばれる町議たちに期待を寄せながら、現議会の4年にわたる任期を振り返ります。

※この連載は敬称略で掲載します。

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