町政監視の責務は司法に丸投げ【御用議会の四年間】①/屋久町議選2025
町、虚偽報告で国から補助金1億1800万円 → 町長派議員は沈黙 住民訴訟で町幹部の責任追及
国庫補助金不正請求事件

屋久島町議会=2025年6月、屋久島ポスト撮影
2021年9月、屋久島町議選で住民代表となった新たな町議たち。3カ月後、その16人を待っていたのは、町による国庫補助金の不正請求をめぐる議会審議だった。
屋久島町が2020年度に実施した口永良部島の水道工事で、国に虚偽の工事完成日を報告して、補助金1億1800万円を不正に受け取っていたことが、屋久島ポストの報道で発覚。それを受け、町が虚偽の実績報告書を提出していた事実を国と鹿児島県に報告したため、この補助金不正請求事件が12月定例会の大きな議題となったのだ。
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屋久島ポストの鹿島幹男共同代表(右)の取材を受ける屋久島町の荒木耕治町長=2021年12月1日、屋久島空港、屋久島ポスト撮影
工事完成の4カ月前に業者へ代金「前払い」
定例会に先立つ11月26日の全員協議会では、町長の荒木耕治ら町幹部が虚偽報告の事実を知ったのちも国と県に報告せず、11カ月間にわたって問題を放置していたことが判明。さらに、すべての工事が終わったのが9月だったにもかかわらず、それより4カ月前に工事代金を業者へ「前払い」していたこともわかり、複数の違法行為が疑われる事態となった。
だが、全員協議会に出席した町議の大半は、荒木ら町幹部に質問や意見をすることはなかった。一部の町議からは「第三者委員会で調査すべき」「工事代金の前払いは大罪だ」といった声が出たが、荒木を支持する町長派の町議たちは約50分間、じっと顔を伏せて沈黙を続けた。

国庫補助金の不正請求事件について、屋久島町議会の全員協議会で説明する荒木耕治町長(右)。左は日高豊副町長(当時)=2021年11月26日、屋久島町役場議会棟、屋久島ポスト撮影
国、補助金適正化法違反で1668万円の返還命令
続く12月7日には定例会本会議が開かれ、この水道工事の決算が全会一致で不認定となり、町は再発防止策を講じることを求められた。しかし、荒木は「口永良部島での実施で協力支援が受けにくい状況だったことに加え、新型コロナウイルス感染症の発生など予想できない事案が重なった」と釈明。虚偽報告の事実を国と県に報告しなかったことや、工事代金の「前払い」については、一切触れることはなかった。
そして、その後も町長派の町議たちは、荒木ら町幹部を追及することはなく、第三者による不正調査の実施を求めることもなかった。
だが、補助金を出した国は違った。
2022年3月、厚生労働省が補助金適正化法の違反を認定し、町に補助金の一部である約1500万円の返還命令を出したのだ。それを受け町は、不正に補助金を受給し続けた期間に発生した加算金も含めて、約1668万円を国に納付した。

屋久島町が国に提出した水道工事の検査調書。工事が未完成だったにもかかわらず、「契約図書に基づき良好に施工されている.(合格)」と記載されている(※黒塗りは屋久島町、モザイクは屋久島ポストがそれぞれ加工)
町、工事業者に責任転嫁し議会も容認
虚偽の実績報告で返還命令を受けたのであれば、それは町の責任だと思われた。ところが、荒木ら町幹部は町の責任を否定した。補助金返還となった法的責任は、工期内に工事が終えられなかった工事業者にあるというのだ。
それに対し、工事を請け負った業者は屋久島ポストの取材に、「担当職員には工事が終わっていないことを伝えたのに、予算を繰り越さないで、すべての工事が終わったとする虚偽報告を国に出したのだから、すべては町の責任だ」と訴えた。
これを受け、一部の町議は「町が業者に事情聴取をした記録を議会に開示してほしい」と求めたが、町は頑なに拒んだ。そして町は、工事を請け負った6業者に対して計約1668万円を賠償請求し、それを大半の町議たちが容認してしまった。

屋久島町議会の全員協議会で、国に返還した補助金1668万円を工事業者に賠償請求したことを説明したのち、委員会室から退室する日高豊副町長(中央=当時)=2022年8月1日、屋久島町役場議会棟、屋久島ポスト撮影
住民訴訟、町長に135万円の賠償責任を認定
町役場の不正に対して、住民の代表が集う町議会が見て見ぬふりをする。
そんな由々しき事態に、2021年9月で町議を引退した小脇清保は黙っていなかった。現職最後となった8月の定例会で、国への虚偽報告について問いただしたのに、荒木ら町幹部が何ら回答せず、実質的に無視されていたからだ。
2022年8月、小脇は町を相手取り、荒木ら町幹部に約1668万円を賠償請求するように求める住民訴訟を提起。最高裁まで約2年半にわたって争った末の2025年3月、加算金として町が納付した約135万円について、荒木に賠償責任があることを認めさせた。
その一方、約1500万円の補助金については、もともと受給できなかったもので、それを返還しても町に損害はないとして、小脇の請求は棄却された。だが、町が国に虚偽の実績報告書を提出する際に、担当職員が町幹部の決裁を受けず、公印を勝手に押して「独断で提出」していた事実などが判明。住民訴訟によって、町の杜撰な事務手続きの実態が浮かび上がった。

一審の判決文を手に報道陣の取材を受ける元屋久島町議の小脇清保さん(右)=2023年9月6日、鹿児島市山下町の鹿児島地裁前、屋久島ポスト撮影
町長に寄り添うだけの「御用議会」
もし、住民訴訟が提起されていなければ、荒木の賠償責任も、職員の杜撰な事務手続きも、何もわからないままだった。本来であれば、町議会が強い調査権を有する調査特別委員会(百条委員会)を設置すべきところだったが、大半の町議たちはその責務を放棄し、すべての判断を裁判所に丸投げしたのである。
屋久島町議会(議長・石田尾茂樹)に課せられた最大の責務は、荒木ら町幹部による町政運営を監視し、もし不正や不祥事などの問題があれば、それを正すことである。だが、この補助金不正請求事件への対応だけをみても、その責務を放棄していることは明らかである。
そして何よりも、いまの屋久島町議会は、荒木に寄り添うだけの「御用議会」であると言わざるを得ない。
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9月21日に投開票される屋久島町議選を前に、新たに選ばれる町議たちに期待を寄せながら、現議会の4年にわたる任期を振り返ります。
※この連載は敬称略で掲載します。