屋久島町議選2025

「森山先生」に焼酎180本、町長の高額贈答を止められない町議会【御用議会の四年間】④/屋久島町議選2025

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議会、国会議員らに5年で370万円の贈答を容認 → 住民訴訟後に大幅減、年126万円が16万円に

町長交際費の高額贈答問題

屋久島町議会=2025年6月、屋久島ポスト撮影

 屋久島町長の荒木耕治が特定の国会議員や知人の社長らに贈り物をして、1回に数万~10万円も支払っている。それも自分のポケットマネーではなく、屋久島町民の財布である町の公費からお金を出して――。

 そんな内容の記事を屋久島ポストが報じ始めたのは、2022年8月末のことだった。

 荒木が町長交際費を使い、過去5年間に支出したのは計370万円で、そのうち国会議員には計122万円。なかでも衆院鹿児島4区の選出で、現自民党幹事長の森山裕が最も多く、少なくとも60万円にもなっていた。

屋久島ポストが2022年8月29日に配信した町長交際費問題の初報記事

焼酎やイセエビなど屋久島の名産品を贈答
 どんな贈り物をしたのか細かく調べると、屋久島の名産品や幸があふれていた。

 焼酎では「三岳」「水ノ森」「愛子」などの人気銘柄に加え、熟成させたプレミア焼酎の「無可有」も。そして、ポンカンやタンカン、パッションフルーツと季節の果物に、イセエビやアサヒガニ、水イカなどの魚介類が続く。さらには、10万円以上もする「屋久杉 万年筆・ボールペンセット」などの高級品もあった。

屋久島町長が国会議員らに贈答した焼酎などの品々

町長「私の政治は情の部分が多かった」と反省
 続いて森山に贈った焼酎を1本ずつ数えてみると、その合計は180本。居酒屋から注文があったのかと思うほど多く、一般的な贈答とは思えないほどの量だった。

 そして、荒木は屋久島ポストの取材に、反省の念をこう語った。

「私の政治は情の部分が多かったかもしれない。今後は金額や頻度を改めていきたい」

町長派町議は完全無視 町長は「二枚舌」
 ところが、この報道を受けても、屋久島町議会(議長・石田尾茂樹)はまったく反応しなかった。一部の町議が問題提起をしたものの、町長を支持する多数派の町議たちは何事もなかったかのように沈黙し、この町長交際費の問題を完全に無視した。

 さらに町長に至っては、町議会の一般質問で耳を疑うような答弁をした。

 まず、町政を厳しく監視する真辺真紀が、森山事務所が屋久島ポストの取材に「(荒木町長)個人からの贈り物という認識だった」とコメントしたことを受けて、「本来は公費で贈答すべきではなかったのではないか」と問いただした。すると荒木は、町が贈答先の個人名を非開示にしていることを踏まえ、「どこから、どう(森山議員を)特定したのかわからないが、それは屋久島ポストの想像でしかないと思う」と報道内容を一蹴。それに加えて、一連の贈答は町長の裁量権の範囲でなされたもので、「妥当な贈答だった」と主張したのだ。

屋久島町議会の一般質問で、町長交際費について答弁する荒木耕治町長=2022年9月13日、屋久島町役場議会棟、同町議会YouTubeチャンネルより

 取材では「反省」したはずなのに、町議会では一転して「妥当な贈答だった」と開き直る。同志の町議たちに囲まれて気が大きくなったのか、荒木の発言は完全なる「二枚舌」だった。だが、町長派の町議たちは素知らぬ顔で自席に座り、荒木を追及する真辺に一瞥をくれることもなかった。

高額贈答をめぐる屋久島町長の発言について伝える屋久島ポストの記事
【動画】https://youtu.be/ekDnmQRsmag

「高額贈答がずっと続く」と危惧して住民訴訟
「もう町議会はあてにならない。このまま高額な贈答がずっと続けば、さらに町民のお金が無駄に使われてしまう」

 そう危惧した真辺は2022年11月、町を相手取って住民訴訟を鹿児島地裁に提起し、贈答で使った交際費約200万円を荒木に賠償請求するように求めた。

 その後、訴訟は約1年4カ月間にわたって続いたが、2024年3月、真辺の請求は退けられた。住民訴訟の前提要件となる住民監査請求をした日が、訴訟対象となった交際費の支出から1年以上経過しており、法が定める「監査請求期間を徒過しており、不適法」と判断されたからだ。

 つまり、損害賠償を求めた大半の贈答について裁判所は、贈答の詳細な内容に踏み込んで法的な判断をしなかったということである。

町長交際問題をめぐる住民訴訟が提起された鹿児島地裁=屋久島ポスト撮影

裁判所、判決理由で高額贈答に疑問を示す
 その一方、判決理由では一部の贈答に対して、裁判官の意見が付された。

 まず、森山への高額な贈答については、「これらの贈答が社会通念上儀礼の範囲内のものであるかについては疑問の余地がある」と指摘。さらに、知人の社長への贈答に対しては、「同社長と荒木との私的な関係を背景に同社長を私的に優遇する趣旨のものではないか」という疑念を抱かせるとした。

訴訟後、交際費予算は3分の1以下に減額
 真辺の請求はすべて退けられたが、この住民訴訟は大きな成果をもたらした。

 訴訟が提起されたのち、国会議員らへの贈答はすべて中止され、最大で年126万円だった交際費の支出が、2023年度は年16万円にまで減ったのだ。さらに町は、例年100万円を計上していた町長交際費の予算を、その3分の1以下となる年30万円に減額した。

住民訴訟の提起後、町長交際費の支出が激減したことを伝える屋久島ポストの記事

町長派町議が見失う「行政監視」の責務
 それならば、最初から予算の支出を見直せばいいものを、なぜ住民訴訟までしなければ、町長交際費による高額な贈答を止められなかったのか?

 その最大の要因は、町長を支持する多数派の町議たちが、この問題を無視し続けたことだ。初めて高額贈答の問題が指摘された2022年9月の町議会で、多数派の町議たちが真辺の訴えに耳を傾け、一緒に荒木に交際費支出の見直しを迫っていれば、住民訴訟に発展することはなかったであろう。

 水道工事の補助金不正請求事件をめぐる住民訴訟で、荒木の賠償責任が認められたケースも同じだが、いまの屋久島町議会には、独自に町政の問題を解決する能力が欠如しているということだ。そして、その理由は町長である荒木に寄り添うあまり、町議会が「行政監視」という本来の責務を見失っているからである。

◇     ◇     ◇

 9月21日に投開票される屋久島町議選を前に、新たに選ばれる町議たちに期待を寄せながら、現議会の4年にわたる任期を振り返ります。

※この連載は敬称略で掲載します。

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