首長学歴調査

【視点】首長の強大な権限に感じる地方自治法の限界/鹿児島ポスト

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奄美市や薩摩川内市など7自治体、首長が積極的に自身の学歴を証明 →「法的根拠なし」と確認しない自治体と対応に大きな違い

市町村の運営は首長の裁量次第

 静岡県の伊東市政を混乱させている市長の学歴詐称疑惑を受けて、鹿児島ポストは今夏、鹿児島県内にある全43市町村にアンケート調査をして、各自治体がどのように首長の最終学歴を確認しているのかを取材した。その結果、全体の8割強の市町村が、今回の調査前に卒業証書や卒業証明書で学歴を確認していなかったことがわかった。

 10月12日付の記事「【視点】首長の学歴調査で各自治体の「個性」浮き彫りに」では、「法的根拠がないので確認する必要なし」と回答した5自治体のケースを紹介。これに対し、この記事では「卒業証書または卒業証明書で確認済み」と答えた7自治体について伝える。

奄美市、質問送付から5時間後に「確認済み」と即答
「首長の最終学歴を証明する文書を確認されたことはありますでしょうか?」

 鹿児島ポストが8月15日に質問文を送ると、最初に返信メールを送ってきたのは奄美市だった。同市ウェブサイトの問い合わせフォームから質問をして、わずか5時間後のことで、メールには次にように記されていた。

「安田が市長に就任しました際(令和3年12月)に卒業証書コピーにて確認しております」

 安田壮平市長は初当選する前に同市議会議員を3期務めており、「東京大学法学部卒」という学歴は市民に広く知られていた。それでも2021年11月に当選したのち、卒業証書のコピーを市総務課秘書室に示したというのだ。

薩摩川内市や霧島市など7自治体、首長が自ら学歴を証明
 奄美市を含めて「卒業証書または卒業証明書で確認済み」と回答したのは、枕崎市、薩摩川内市、霧島市、さつま町、湧水町、南種子町の7自治体だった。

 薩摩川内市は「令和6年11月ごろ(日時詳細不明)市長本人から秘書に対し、卒業証明書の提示を受け、確認した」と回答。霧島市も「卒業証書(原本)を市長本人が提示。市長の卒業証書の確認は当選直後になります」という。

 7自治体、いずれも当選当初か2期目に確認しており、各首長が自ら積極的に卒業証書などを示している。

鹿児島県内にある全43市町村の地図=鹿児島県ウェブサイトより


なぜ、首長の就任要件ではない学歴を確認するのか?

 一方、10月12日付の記事で紹介した南九州市や十島村などの5自治体は、「法的根拠がないので確認する必要なし」としている。市町村は法令に従って運営されているので、法的義務がない学歴の確認はする必要はなく、この対応にまったく問題はない。

 それにもかかわらず、奄美市や薩摩川内市などの7自治体は、なぜ法的義務がないのに学歴を確認しているのか?

 それは、ひとえに7自治体の各首長に、広く市民に情報を届けようとする姿勢があるからだろう。学歴は首長の就任要件ではない。だが、自身が公言している以上は、法的な義務があるかどうかに関係なく、その事実をしっかり証明すべきだと考えているということである。

 鹿児島県内で取材しただけでも、各自治体の対応が大きく違うことに驚かされる。だが、それは裏を返せば、首長の裁量によって、自治体の運営はいかようにも変えられるということでもある。

学歴詐称疑惑で議会解散、公費6300万円を支出
 全国では首長の不祥事が相次いでいる。

 群馬県前橋市の小川晶市長は男性職員との不適切な関係を疑われても続投し、沖縄県南城市の古謝景春市長は自身のセクハラ疑惑を追及する市議会を解散してしまった。そして伊東市でも、田久保真紀市長が自身の学歴詐称を疑う市議会を解散したため、約6300万円もの公費が市議選に支出されている。

 いずれのケースを見ても、地方自治の法制度において、首長の裁量権が極めて大きいことがわかる。だが、これほど「危機的状況」が続くとなると、首長に強大な権限を与えている地方自治法に限界を感じずにはいられない。

 その意味で、法的要件ではない首長の学歴であっても、鹿児島県内の市町村には、その事実をしっかり確認する姿勢が必要ではないのか。(つづく)

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