取材拒否され3年半、やむなく提訴するまでの経緯【議会取材の自由を守る訴訟】
2021年、国庫補助金 不正請求事件の取材を禁止 → 2025年、一転して許可も理由説明は回答拒否
石田尾議長、一部マスコミだけの取材許可に固執

フリーランスの記者や独立系ネットメディアなどの議会取材を拒否している屋久島町議会(石田尾茂樹議長)に対して、屋久島ポスト共同代表の鹿島幹男と武田剛は法的措置を取ることにしました。その理由は、同町議会が一部マスコミの報道機関に取材を許可する一方で、屋久島町民の有志が運営する屋久島ポストを議会取材から締め出しているからです。
なぜ、屋久島ポストは「議会取材の自由を守る訴訟」を提起せざるを得なかったのか。この記事では、屋久島ポストが取材拒否に遭ってから提訴するまでの経緯を紹介します。
*
屋久島ポストを「報道」と認めない議長(2021年11月26日 全員協議会)
屋久島ポストは2021年11月26日、屋久島町が国庫補助金を不正請求した問題を報道するために、屋久島町議会の全員協議会を取材しようとしたところ、石田尾議長から「議場内での撮影と録音を禁止する」と伝えられた。禁止する理由として、石田尾議長は「議会の傍聴については録音、画像(の撮影)は許可されていない。報道の方々については、議長が判断をして特別に許可している。地域メディア・屋久島(屋久島ポスト)については、いま記事を書いていることは知っているが、県庁記者クラブや日本新聞協会などに加盟しているのか。法人登録はしているのか、どうなのか?」と言って、屋久島ポストの取材を「報道とは認めない」という趣旨の発言をした。
それに対し、屋久島ポストは「近年では、首相官邸などの記者会見でフリーランスの記者も取材している。町民に開かれた議会を目指している屋久島町議会としては、時代の流れに逆行する判断ではないか」と反論した。さらに「国民の知る権利は憲法21条で保障されていて、日本新聞協会などに所属していないフリーランスの記者も報道の仕事をしている。議長が認めれば取材できるのに、それを禁止したら、町民の知る権利を奪うことになる」と主張した。
しかし、石田尾議長は取材許可の条件としては「報道機関」、それも日本新聞協会などに加盟するメディアであることを主張した。屋久島ポストと石田尾議長との間では、約20分間にわたって「町民に知らせたい」「取材は許可しない」との主張が繰り返された。そして、最終的に石田尾議長は「今回限りの特例」として、屋久島ポストの取材を認めた。
開会した全員協議会の冒頭で、石田尾議長は、屋久島ポストの主張に対して「知る権利を奪うということをおっしゃいましたが、そういうことではありません。議会は議会なりの、しっかりしたルールの判断の基で、今回は遠慮していただきたい、というふうに言いましたが、今回はどうしてもということで承諾しました。しっかり今後はルールづくりを早急にやるということを約束します」と述べ、傍聴規則を見直す方針を明らかにした。
■記事:石田尾議長が議場取材を妨害 屋久島ポストが抗議、一転容認http://blog.livedoor.jp/yakushima_post/archives/28027796.html
石田尾議長、排除の理由「議長判断です」(2021年12月7日 本会議)
屋久島ポストは2021年12月7日、国庫補助金の不正請求問題を報道するために、同町議会12月定例会の本会議を取材しようとしたところ、議長席に座った石田尾議長から「取材は許可しません。議長の判断です。退出してください」と伝えられた。一部の町議からは「理由は何ですか?」、「メディアの区別はどうしているのか?」との質問が出たが、石田尾議長は「傍聴規則です。議長判断です」とだけ答えた。
この議長判断に対し、屋久島ポストは「報道の自由を行使します。知る権利です」と主張したが、石田尾議長は「傍聴規則です。議長の判断です」と述べるのみで、取材を禁止する明確な理由を説明しなかった。そして、屋久島ポストは議場から退出して、町役場内の設置された議会中継用のモニター画面をビデオ撮影して取材をした。
この日の本会議で取材を認められたのは、南日本新聞とKTS鹿児島テレビの2社だった。
■記事:石田尾議長がまた取材妨害 屋久島ポストは抗議http://blog.livedoor.jp/yakushima_post/archives/28105574.html
緒方委員長も常任委員会から排除(2021年12月10日 産業厚生常任委員会)
屋久島ポストは2021年12月9日、国庫補助金の不正請求問題が取り上げられる同町議会の一般質問を取材しようとしたが、石田尾議長から取材を禁止されたため、町役場内の議会中継用のモニター画面をビデオ撮影して取材した。さらに、原告らは同月10日、補助金不正請求問題が議題の一つとなった同町議会の産業厚生常任委員会を取材しようとしたが、緒方健太委員長から撮影と録音を禁止された。常任委員会は議会中継されないため、原告らは同委員会の取材ができなかった。
■記事:取材妨害が続く屋久島町議会 どうして「マスコミ」だけに便宜?http://blog.livedoor.jp/yakushima_post/archives/28124966.html
広く撮影と録音を認める案に反対する議長(2022年2月21日 議会運営委員会)
同町議会は2022年2月21日に議会運営委員会を開き、傍聴規則の見直しについて協議した。当初、同委員会には「傍聴席での撮影と録音を一般町民も含めて自由に認める」と「日本新聞協会などの加盟社に限定する」の2案が提案される予定だった。しかし、同委員会の日高好作委員長と岩川卓誉副委員長(当時)、それに石田尾議長が出席した事前協議で、「傍聴席での撮影と録音を一般町民も含めて自由に認める」案については、石田尾議長が反対したために、「日本新聞協会などの加盟社に限定する」案だけが提案された。
当初の2案は、岩川副委員長が全国の地方議会の先行事例を調べて作成した。石田尾議長の反対で除外された「傍聴席での撮影と録音を一般町民も含めて自由に認める」案は、北海道白老町議会の傍聴規則の第8条を参考にしたものだった。
最終的に同日の議会運営委員会では、複数の委員から「議会動画をネット配信する予定なのに制限する必要があるのか」「一般町民も含めて自由に撮影や録音をしてもいいのではないか」といった意見が出され、結論は持ち越されることになった。
■記事:石田尾議長が「議会取材の自由」を認める案を除外、一転、議運に提案が見送りに
http://blog.livedoor.jp/yakushima_post/archives/28874973.html
傍聴要綱案で一部マスコミに許可限定を決定(2022年5月24日 議会運営委員会)
同町議会は2022年5月24日に議会運営委員会を開き、傍聴規則の判断基準を定める傍聴要綱の制定について協議した。当初の予定どおり、「傍聴席での撮影と録音を一般町民も含めて自由に認める」と「日本新聞協会などの加盟社に限定する」の2案が提案され、採決の結果、「日本新聞協会会員社、日本民間放送連盟加盟社及び専門新聞協会加盟社に属する者▽議長が認める者」に許可する案が採択された。
「傍聴席での撮影と録音を一般町民も含めて自由に認める」案に反対した委員からは、次のような趣旨の発言があった。
・榎光徳委員:一般傍聴者が撮影をすると、その写真や動画を使って誹謗中傷につながる心配がある。その一方で、日本新聞協会などは日本を代表する団体であって、そこにはしっかりとした倫理規程があるので、マスコミだけに取材を許可する案に賛成する。
・緒方健太委員:多くの傍聴者に撮影され、その映像を使って誹謗中傷されるかもしれない。傍聴席での携帯電話の音や失笑、ひそひそ話が大いにあるので、屋久島町の最高機関として、規律をつくりながら段階的に方向性を決めていくべきである。
・中馬慎一郎委員:6月定例会から始まる議会の動画配信の状況をみて、傍聴規則は段階的に検討すればいい。携帯電話の音で議事を妨げてほしくないので、当面は一定のモラルがあるマスコミに限定して許可すべきである。
これらの意見に対し、「傍聴席での撮影と録音を一般町民も含めて自由に認める」案に1人だけ賛成した委員からは、次のような趣旨の発言があった。
・真辺真紀委員:今の時代にマスコミだけに取材許可を限定するのは、非常に時代錯誤で恥ずかしい。一般も報道も区別する必要はなく、名誉毀損や肖像権侵害などの問題があれば、そのときに対処すればいい。
■記事:屋久島町議会がフリージャーナリストや独立メディアを排除 「閉ざされた議会」を選択
http://blog.livedoor.jp/yakushima_post/archives/29380885.html
■記事:誰が何を言った? フリーと独立メディアを排除する屋久島町議の発言録http://blog.livedoor.jp/yakushima_post/archives/29393262.html
マスコミだけに許可限定は「憲法違反」と指摘(2022年6月7日 議会運営委員会)
同町議会が2022年6月7日に議会運営委員会を開き、同年5月24日に決まった傍聴要綱の制定について最終の協議をしたところ、一部の委員から法的な検討の必要性を訴える意見が出された。真辺委員は、傍聴規則の判断基準となる要綱で、取材をマスコミに限定して許可することを定めると、「表現の自由」を保障した憲法21条に違反する可能性があるとしたうえで、もし憲法に抵触した場合は、法令に反する規則の制定を禁止する地方自治法15条にも違反することになると指摘した。そして、真辺委員が「法的に深い議論をしないまま、傍聴規則の判断基準を要綱で定めてはいけない」と主張した。
この意見に対し、石田尾議長は「真辺委員の言うことは、よくわかる。(判断基準は)傍聴規則ではなく、要綱で定めたが、法律上それが正しいのかどうかを調べたい」と述べて、法律の専門家に意見を求める方針を明らかにした。
閉会後、石田尾議長は屋久島ポストに対し、取材許可をマスコミに限定する案は「決定事項だと思っている」と言ったうえで、「法的な根拠について確認する必要がある」として、傍聴規則の要綱を6月定例会から適用することは延期すると伝えた。
■記事:フリーや独立メディアの排除ルールに待ったhttp://blog.livedoor.jp/yakushima_post/archives/29407098.html
法的根拠を確認しないまま取材拒否を継続
上記の議会運営委員会が開かれた2022年6月7日以降、傍聴規則の要綱について協議されることはなかった。そのため、屋久島ポストは町役場内に設置された議会中継用のモニター画面をビデオ撮影して、同町議会の取材を続けた。
■記事:屋久島ポストの取材拒否を継続http://blog.livedoor.jp/yakushima_post/archives/29482131.html
不法焼却事件、町議の説明も取材禁止(2023年8月28日 全員協議会)
屋久島ポストは2023年8月28日、岩山鶴美町議が罰金50万円で有罪となった廃棄物の不法焼却事件について、同町議が事件の事情説明をする同町議会の全員協議会を取材しようとしたが、石田尾議長から取材を禁止された。この事件は屋久島ポストの報道で広く知られるようになり、不法焼却の現場を目撃した住民が刑事告発したことで、同町議は有罪となった。そのため、原告らとしては、一連の報道を継続するためにも、議場での取材は必要不可欠であった。
そこで屋久島ポストは、通常は中継されない全員協議会の様子を議会中継用のモニター画面に映すように同町議会に求めた。これに対し、石田尾議長が「特例」で要望を受け入れたため、屋久島ポストはモニター画面をビデオ撮影して取材した。
同日の全員協議会には、南日本新聞、共同通信、KKB鹿児島放送、KTS鹿児島テレビの4社が取材に訪れ、石田尾議長は全社に議場での取材を許可した。
■記事:町議会、屋久島ポストの議会取材を拒否 屋久島町議アパート廃材・投棄焼却事件
http://blog.livedoor.jp/yakushima_post/archives/33145424.html
取材拒否され3年半、一転して取材許可(2025年4月18日)
屋久島ポストは2025年4月15日、同町議会に「議会取材許可申立書」を提出し、「議会に関する報道を正確にするためには、議場での撮影と録音が必要不可欠」として、議会取材を許可するように求めた。これに対し、石田尾議長は同月18日に書面で回答し、これまでの判断を一転して、議場での撮影と録音を許可すると伝えた。
■記事:屋久島ポスト、取材拒否の議長に「議会取材許可申立書」を提出http://blog.livedoor.jp/yakushima_post/archives/38356637.html
■記事:【速報】屋久島町議会、一転して「屋久島ポスト」の議会取材を許可http://blog.livedoor.jp/yakushima_post/archives/38377054.html
石田尾議長、取材禁止の理由や法的根拠を回答せず(2025年4月5月7日)
屋久島ポストは2025年4月22日、同町議会に「議会取材に関する質問状」を提出し、これまで屋久島ポストの取材を禁止してきた理由や法的根拠などを尋ねるため、次の質問をした。
・約3年半にわたって屋久島ポストの取材(撮影と録音)を禁止してきた具体的な理由、およびその法的な根拠をお示しください。
・屋久島ポストが2025年4月15日付で送付した「議会取材許可申立書」に対して、貴殿は同年4月18日付で出した回答書で、取材を許可する旨を伝えてきました。これまで禁止していた取材を、なぜ一転して許可したのか、その理由を具体的にご説明ください。
この質問状に対し、石田尾議長は同年5月7日に書面で回答したが、取材を禁止してきた具体的な理由や法的根拠は説明せず、次のように回答した。
・傍聴席からの撮影・録音等については、屋久島町議会傍聴規則第9条の規定により、議長の許可要件であることから、この規定により不許可及び許可の決定を行っております。
■記事:屋久島ポスト、議長に取材拒否の理由を問う質問状を送付http://blog.livedoor.jp/yakushima_post/archives/38404977.html
■記事:「なぜ、取材拒否するの?」に対し屋久島町議会議長、具体的な理由説明を避ける
http://blog.livedoor.jp/yakushima_post/archives/38531308.html
議会事務局長「議長は回答するつもりはない」(2025年5月7日)
石田尾議長からの回答を受けて、屋久島ポストは2025年5月7日に同町議会の議会事務局に電話をして、「議会取材を禁止した具体的な理由を説明してほしい」と伝えたが、応対した中村一久事務局長からは「石田尾議長はこれ以上の回答をするつもりはないと言っている」と伝えられた。
屋久島ポスト、やむなく国賠訴訟を提起(2025年5月17日)
議会取材を禁止した理由と法的根拠について、石田尾議長が実質的に回答を拒否していることを受けて、屋久島ポストは、話し合いによる解決は不可能であると判断。やむなく国家賠償請求訴訟の提起を決めて、2025年5月17日付で訴状を発送し、同月19日に鹿児島地裁で受理された。
■記事:【お知らせ】屋久島ポストの議会取材拒否問題で屋久島町を提訴しましたhttp://blog.livedoor.jp/yakushima_post/archives/38621187.html
■記事:「1円訴訟」で憲法が保障する「法の下の平等」「表現の自由」を守りますhttp://blog.livedoor.jp/yakushima_post/archives/38624487.html