【視点】首長の学歴調査で各自治体の「個性」浮き彫りに/鹿児島ポスト
南九州市や十島村など「法的根拠がないので確認する必要なし」→ 首長が自ら証明しては?
鹿児島43市町村、「確認済み」から「回答拒否」まで答え様々

静岡県伊東市の田久保真紀市長の学歴詐称疑惑を受けて、鹿児島ポストが鹿児島県で実施した全首長の学歴調査は、県内43市町村の「個性」を浮き彫りにするものだった。首長が公言する学歴の確認方法を尋ねる質問に対し、丁寧に説明する町もあれば、頑なに回答を拒む市もあり、その対応は市町村ごとに大きく分かれた。
各市町村の回答をまとめると、大まかに次のとおりとなる。
1 卒業証書または卒業証明書で確認済み
2 取材を受けて、卒業証書または卒業証明書で確認
3 卒業者名簿などで確認済み
4 自治体の元職員なので確認する必要なし
5 法的根拠がないので確認する必要なし
6 回答しない理由も含めて回答しない
そこで、それぞれの項目ごとに各自治体の回答を詳細に見てみたい。
まず、「5 法的根拠がないので確認する必要なし」と答えたのは、南九州市、十島村、大和村、宇検村、伊仙町の5自治体だった。
法的根拠なくても 伊東市政は大混乱
その具体的な理由について、南九州市は「公選法の規定において、立候補届け出に際し学歴を証する証明書の添付は求められておらず、また公正な選挙を経て就任しているため」という。つまり法的根拠がないから、首長に卒業証明書を提示する義務はないということである。
だが、それは伊東市の田久保市長も同じであり、市長選で公言していた学歴に詐称の疑いがあったために、市政が大混乱しているのである。これを田久保市長の属人的な問題だと片付けるのは簡単だが、実はどこの自治体でも起き得ることだ。
学歴詐称なら「個人の責任」では済まされない
また、十島村は「卒業証明の提示といったことは、首長の資格要件に該当しないものであって、何らかの場面で提示する場合は個人の責任においておこなうもの」と説明した。
しかし、伊東市議会の求めに応じて、田久保市長が「チラッと見せた」とされる卒業証書は偽物である可能性が極めて高い。もし、首長が提示した証明書に虚偽の情報が記載されていれば、それは有権者を裏切る行為である。首長としては、その資質に欠けることは明らかであり、もはや「個人の責任」で済まされる話ではない。

鹿児島県内にある全43市町村の地図=鹿児島県ウェブサイトより
学歴詐称は首長として致命的
その一方で、大和村、宇検村、伊仙町は「法的根拠がない」としながらも、住民から疑義があった場合は、首長が自ら説明責任を果たす意思があるという。
そもそもだが、首長になる要件に学歴は含まれていないので、「いちいち確認する必要はない」という意見があるのは理解できる。しかし、首長選で候補者の大半は自身の経歴欄に学歴を載せているし、新聞各社は必ず「○○大卒」や「○○高卒」などと書いて候補者を紹介している。さらに当選後には、市町村の広報誌やウェブサイトで首長の学歴が掲載されるケースは多い。
それゆえに、もしその最終学歴に嘘や偽りがあったとすれば、首長には大きな責任がのしかかる。違法かどうかに関係なく、住民に嘘をついたという道義的な責任は、首長にとっては致命的な問題となるのは言うまでもない。
公選法、学歴詐称で有罪の実例も
そして、最も問題なのは、法的根拠がないことを理由に、首長が公言する学歴を含めた経歴を鵜呑みにする自治体の姿勢だ。
首長に選ばれる人物は事実しか言わない、と信じているのだろうが、現実は違う。直近では田久保市長がそれに当たるが、東京都の小池百合子知事にも「カイロ大卒」の真偽をめぐる疑惑が付きまとっている。また首長ではないが、1992年の参院選で当選した国会議員にも学歴詐称の疑惑が浮かび、最終的に公職選挙法違反(虚偽事項公表罪)で有罪となっている。
一つ間違えば、公選法違反で有罪になるほど、選挙で公言する学歴は重要だということである。
聞くに聞けない自治体職員
そうは言っても、法的な根拠もないのに、自治体の職員が首長に「卒業証書を見せてください」と頼むのは、かなり気が引けるではないか。さらには、学歴詐称を疑っているのではないかと誤解されて、その後に不利な処遇を受けるのではないかと、心配になる職員もいるだろう。
そこで提案だが、まずは首長が自ら卒業証書や卒業証明書を自治体に示してはどうか。そして、それが次の首長にも引き継がれていけば、伊東市や東京都のように学歴詐称の疑惑に振り回されることは避けられるだろう。
10月12日、伊東市議選が告示された。不信任決議を突き付けられた末に田久保市長が市議会を解散した結果だが、もし市長当選の直後にしっかり学歴を確認していれば、この選挙は実施せずに済んだはずである。(つづく)
