事件に沈黙するマスコミと管理会社【悪用されたマスターキー②】/鹿児島ポスト
管理人の逮捕、県警が発表してもマスコミ各社は報道せず
管理会社幹部「水漏れの確認で下着を動かした」と擁護

【左】住居侵入及び窃盗未遂事件として発表した鹿児島県警のウェブサイト(2024年6月2日、被害者撮影)【右】マンションの管理人が持ち歩いていたマスターキー。写真下の「2015 New Master」と記載された鍵を使って被害者の部屋に侵入した(被害者に開示された事件記録より ※鍵の形状を伏せるために一部でモザイク加工をしています)
110番通報をして1分ほどで、最寄りの鹿児島中央警察署から警察官がマンションに駆けつけた。
自宅の部屋に留まっていた妻は、次々と部屋に入って捜査を始める捜査員たちに圧倒されながら、現場検証や指紋採取の様子を見守った。そして、刑事から事情聴取を受けた際に、事件後の対策として、「すぐに引っ越した方がいい」と助言された。
それと並行して、1階の管理人室にも警察官が駆けつけた。だが、管理人を見張っていた夫は自宅に戻るように指示をされ、その後、管理人がどのようになったのかを見届けることはできなかった。

玄関近くで指紋を採取する鹿児島県警の捜査員(2024年6月1日、被害者撮影)
管理会社幹部「緊急事態で部屋に入ったのだと思う」
自宅での現場検証や事情聴取は5時間ほど続き、部屋から警察官が去ったのは午後2時すぎだった。
その後、妻はマンションを管理する不動産会社「ロンフレ」の幹部と電話で話し、事件の状況を詳細に伝えた。それに対し、幹部は「管理人は水漏れで焦り、緊急事態だと思って部屋に入ったのだと思う」と言った。さらに、下着が荒らされた押入れは、水回りとは全く関係がない部屋にあるにもかかわらず、「下着を動かしたのは、水漏れを確認するためだったと思う」とも言って、マスターキーで留守宅に侵入した管理人を擁護し続けた。
また、妻からは管理会社への要望として、「玄関のカギを替えてほしい」「すぐに引っ越しをするので、引っ越し費用を負担してほしい」「敷金を返してほしい」と伝えた。
被害夫妻、報道に期待もマスコミは沈黙
その一方、鹿児島中央署に任意同行を求められた管理人は2024年6月1日、住居侵入と窃盗未遂の容疑で逮捕された。そして翌6月2日には、事件について鹿児島県警のウェブサイトでも発表された。
「住居侵入及び窃盗未遂被疑者の逮捕について【鹿児島中央警察署】1日、鹿児島市内の被害者方に入り込み、窃盗の目的を遂げなかった男(64)を逮捕しました。」

住居侵入及び窃盗未遂事件として発表した鹿児島県警のウェブサイトの一部(2024年6月2日、被害者撮影)
スマートフォンで県警の発表を確認した夫妻は、自分たちが被害に遭った事件が公表されたことで、マスコミの報道によって、マスターキーの適切な管理を怠っていた管理会社の責任が追及されることを期待した。だが、その日の夕方も夜も、NHKやMBC南日本放送などのテレビ各局は、管理人が逮捕されたことを報じなかった。さらには、地元紙の南日本新聞をはじめとした新聞各社も、自社のニュースサイトや紙面で、マスターキーを悪用した事件について報道しなかった。
「マスターキーで住居侵入した管理人が逮捕されたのに、どうしてマスコミは全く報道しないのか?」
被害に遭ったショックに加えて、事件について沈黙を続けるマスコミにも、夫妻の心は深く傷つけられた。
報道発表に「マンション管理人」「マスターキーで侵入」の記載なし
それでは、なぜテレビや新聞は何も報じなかったのか?
実は県警は、管理人を逮捕したのちに、マスコミ各社が所属する県警記者クラブに報道発表をしていた。ただし、報道発表文に逮捕された容疑者がマンションの管理人であることや、マスターキーを使って住居侵入をした事実が記載されなかったため、どこの社も「軽微な事件」だと判断して、全く取材をしなかったのだ。
そして、夫妻が被害に遭った事件は、社会的には「何もなかったこと」になり、その後も管理会社のロンフレは沈黙を続けた。