「余罪」を追及しない検察と警察【悪用されたマスターキー⑦】/鹿児島ポスト
管理人のスマホに「たくさんの女性の下着の写真」→ 供述調書、管理人の「嘘と言い分」が記載され不問に
被害女性「事件の本質が歪められた」

左】鹿児島地方検察庁(同地検ウェブサイトより)【中】マンションの管理人が被害者宅に侵入する際に使ったマスターキー(被害者に開示された事件記録より ※鍵の形状を伏せるために一部でモザイク加工をしています)【右】鹿児島県警察本部(Wikimedia Commonsより)
住居侵入があった鹿児島市内のマンションを管理する不動産会社「ロンフレ」(本社・宮崎県小林市)は、事件後もじっと沈黙を続けた。自社で雇う管理人がマスターキーで留守宅に侵入し、その部屋で暮らす女性の下着を物色して有罪になったにもかかわらず、被害者に謝罪や補償の話をすることはなかった。さらには、約100世帯の入居者に対して、事件があった事実は伝えられず、再発防止策が講じられたのかどうかも、わからないままだった。
本人訴訟で民事裁判に臨む決心
「大きなマンションを管理する会社として、こんな無責任な態度が許されるのか。このままでは、再び同じような事件が起きるかもしれない」
被害に遭った女性は、民事訴訟でロンフレの管理責任を追及しようとしたが、相談した弁護士には「費用的にはトントンか赤字です」などと言われ、代理人を頼むことはできなかった。こうなると、残された選択肢はただ一つ。弁護士に頼らずに、「本人訴訟」で裁判に臨むしかなかった。
果たして、裁判の経験が全くない自分に本人訴訟ができるのか――。
そんな不安を抱えながらも、女性は法律関係の仕事をする友人に相談して、訴状の書き方を教えてもらうことにした。ただし、いきなり訴状を書くことはできず、まずは事件や裁判の記録を集めることから作業を始めた。
事件と裁判の記録、被害者であれば開示
住居侵入した管理人は2024年6月1日に逮捕されたのち、鹿児島中央警察署と鹿児島地方検察庁で事情聴取を受けていた。そして8月には刑事裁判が始まり、懲役1年、執行猶予3年の判決を受けて、有罪が確定していた。
民事提訴するには、事件や裁判の記録文書を証拠として提出する必要があるのだが、通常、これらの文書を一般人が目にすることはできない。ところが、事件の被害者であれば、そのすべてを見られることがわかり、女性は鹿児島地検に記録文書の開示を求めた。
「耐え難く、おぞましい」数々の供述
すると、供述調書や公判調書、実況見分調書など、百数十枚の文書が開示された。そして詳細に目を通すと、そこには、管理人が発した「耐え難く、おぞましい」数々の供述が記されていた。
「奥さんに、女性的な魅力を感じていきました」
「奥さんと接していくうちに、奥さんに対して強い興味を持っていきました」
「私は、その下着を見て、うわ、〇〇さんの奥さんの下着だと、性的に興奮した同時に、普段、見ることができない〇〇さんの奥さんの下着を見て、とても嬉しい気持ちになりました」
「手に取った下着をよく見て、〇〇さんの奥さんが履いていたということを想像をしながら、性的に興奮していたことを覚えています」
マンションの管理人を信用していた女性にとって、これらの供述は「身の毛がよだつ」内容であり、管理人から「辱めを受けたような恐怖」を感じた。だが、民事訴訟をするには、そのすべてに目を通す必要があった。そして読み進めていくと、検察や警察の事情聴取に大きな疑問を抱くようになった。
検察、スマホに記録された「たくさんの女性の下着の写真」を把握も追及せず
女性は警察の参考人聴取で、管理人が自分のスマートフォンに数多くの女性の下着の写真を保存していたと聞かされていた。そして、それらの写真は、スマートフォンの位置情報から、事件があった同じマンション内の複数の部屋で撮影されたこともわかっており、管理人に「余罪」の疑いがあることは明らかだった。
ところが、検察の供述調書を読むと、それらの「余罪」を疑うどころか、管理人を擁護するかのようなやり取りが記載されていた。
検察官:「あなたのスマートフォンに、たくさんの女性の下着の写真が記録されていて、これを見ると、あなたは女性の下着に興味があって、〇〇さんの奥さんの下着も盗もうとしたと考えることもできるのですが、そうではないということですよね」
管理人:「はい」
検察官:「あなたが、マスターキーを使って〇〇さんの夫婦の家に入り込んだのは、今回だけのことだったのですね」
管理人:「はい」
被害者の声なきまま事件に幕引き
さらに警察の供述調書を見ると、管理人の言い分が一方的に記載されていた。
「今回、逮捕された件以外で、〇〇さんの部屋に入ったことはありません」
「マンション内の〇〇さん以外の部屋にも、無断で入ったことは一度もありません」
これらの記録文書を読んで、女性は「事件の本質が歪められてしまった」と感じた。そこには管理人の「嘘や言い訳」が一方的に書かれてあり、被害に遭った自分の声は何もなかった。そして「検察・警察」対「被告」という構図のなかだけで、事件が幕引きされていた。