首長学歴調査

【視点】首長の学歴、取材を受けて積極的に確認する自治体も

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屋久島町など5自治体、法的義務なくても首長が自ら証明文書を提示

静岡県伊東市の二の舞いを防ぐには……

首長の学歴詐称疑惑で混乱する静岡県伊東市の二の舞いになるのを防ぐために、各自治体にはどのような対策が求められるのか――。

そんな思いで鹿児島ポストは今夏、鹿児島県内にある全43市町村がどのように首長の最終学歴を確認しているのかを調査した。すると全体の8割強が、今回の調査前に卒業証書や卒業証明書で学歴を確認していなかったことがわかった。そのなかには「法的根拠がないので確認する必要なし」として、学歴の確認に否定的な自治体もあった。

その一方で興味深かったのは、指宿市、屋久島町、龍郷町、徳之島町、天城町の5自治体が、今回の調査をきっかけに証明文書の提示を受け、各首長が公言する最終学歴を確認したことだ。

荒木町長、母校に卒業証明書の発行を請求

まず初めに動いたのは、鹿児島ポストが拠点を置く屋久島町だった。

他の自治体に先駆けて取材を受け、町総務課が荒木耕治町長に確認したところ、1995年に旧上屋久町議選で初当選してから現在まで、「公に学歴が確認できる書面を示したことはない」との回答があった。それを踏まえ荒木町長が、自身の最終学歴としている亜細亜大学に請求した卒業証明書を同課に示したことで、1972年に同大を卒業していることが確認できたという。

屋久島町の荒木耕治町長のプロフィールを掲載した「町報やくしま」(2023年12月号)の記事


指宿市、龍郷町、徳之島町、天城町の各首長も自ら確認に協力

これに続くかたちで、4市町もそれぞれの首長に確認を依頼し、順次メールで返信してきた。

指宿市:「(打越明司市長に)市役所に卒業証書をご持参いただき、直接確認しました」

龍郷町:「お問い合わせのメールを受信後、本人(竹田泰典町長)に照会しR7.8.22に卒業証書の呈示を受け確認。元役場職員であり、入庁の際に確認済と考えられることから今まで卒業証書の呈示を求めていなかった」

徳之島町:「原本確認済みです。9月5日に(高岡秀規町長の)卒業証書の原本を確認済みです」

天城町:「今回の取材のことを(森田弘光町長に)伝え、卒業証書の原本を確認させていただいた」

鹿児島県、全43のうち12自治体が証明文書で確認済み

ここで注目したいのは、自治体に首長の学歴を確認する法的な義務がなくても、首長が自らの判断で卒業証書や卒業証明書を示していることだ。学歴詐称疑惑で伊東市政が大混乱している現状を踏まえれば、各首長の判断はとても賢明だといえる。そして何より、一般市民に対して丁寧に説明する意思を感じる。

この5市町とは別に、今回の調査をする前から「確認済み」だったのは、枕崎市、薩摩川内市、霧島市、奄美市、さつま町、湧水町、南種子町の7市町だ。これによって、全43市町村のうち、計12市町が各首長の学歴を証明文書で確認していることになる。

鹿児島県内にある全43市町村の地図=鹿児島県ウェブサイトより


「法的義務ない」「回答を控える」など対応は様々

これ以外の自治体については、すでに関連記事で伝えてきたが、今回の調査で強く感じたのは、首長の判断によって自治体の対応が大きく変わるということだ。12市町のように積極的に確認するところがある一方で、「法的義務がない」として確認しなかったり、「回答を差し控える」と言ったりする自治体があり、その反応は様々だった。

もちろん、法的義務がないことなので、どう対応するかは自治体ごとの判断であり、取材に答えるかどうかも自由である。

だが、全43市町村に同じ質問をして、これだけ様々な反応ある事実を知り、あらためて首長の権限がいかに大きいかを痛感させられた。

伊東市に続き南城市も首長が失職の見通し

伊東市の田久保真紀市長(当時)は10月31日、5カ月間にわたる市政の混乱を経て、改選された市議会による2度目の不信任決議によって失職した。

セクハラ問題で追及を受ける沖縄県南城市の古謝景春市長も、改選された市議会が2度目の不信任決議を可決するとみられ、田久保氏と同じく失職は免れない見通しだ。

そして、群馬県前橋市の小川晶市長は男性職員との不適切な関係を疑われ、県知事や市議会などから辞職を求める声が上がっている。だが、小川市長は「退くのではなく掲げた公約を実現することが責任」などとして、いまも市長職に留まっている。

沖縄県南城市の古謝景春市長によるセクハラ問題をめぐる2025年11月10日付の朝日新聞記事(※著作権保護のため記事本文にモザイク加工をしています)

強大な権力の首長、法的義務なくても市民には丁寧に説明を

これらの事例からもわかるように、たとえ首長であっても「性善説」は通用しない。だが一方で、首長には幅広い裁量権が認められ、自治体の職員や一般市民に対して強い権限をもたされている。そして、その強大な権力は地方自治法などの法令によって、手厚く守られている。

つまり、一般市民によって選ばれた首長であっても、一度その職に就いてしまえば、一般市民の声が届かなくなる恐れがあるということである。

首長の学歴は就任要件に関係はなく、法的に確認する義務もない。だが、それでも一般市民から求めがあれば、自ら丁寧にその説明責任を果たしていく。

伊東市政の混乱から学べるのは、そんなリーダーのあり方ではないだろうか。(おわり)

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