管理会社、社員が有罪になっても謝罪と補償は一切なし【悪用されたマスターキー⑤】/鹿児島ポスト
被害者夫妻「こんなマンションでは暮らせない」と転居 → 管理会社、有罪社員の「個人情報を守るため」に事件の事実を入居者に公表せず

【左】マンションの管理人が被害者宅に侵入する際に使ったマスターキー(被害者に開示された事件記録より ※鍵の形状を伏せるために一部でモザイク加工をしています)【右】鹿児島地方検察庁(同地検ウェブサイトより)
留守中にマンションの管理人に不法侵入され、女性下着を物色された被害者夫妻は、事件の日から怯える毎日を過ごした。現場を捜査した刑事からは、逮捕した管理人が妻に好意を寄せていた旨の供述をしていることを知らされたうえで、「盗聴器が仕掛けられている可能性があるので、部屋での会話は気をつけるように」と助言され、自宅にいても心が休まることはなかった。
夫妻、逆恨みによるストーカー行為の不安
「刑事裁判が終わったら、警察に通報されたことを逆恨みして、管理人がストーカー行為をするかもしれない」
そんな不安が頭から離れず、夫妻は「もう、こんなマンションでは暮らせない」と思い、事件から1週間が経った2024年6月8日、鹿児島市内の別のマンションに転居した。だが、マンションを管理する不動産会社「ロンフレ」からは、夫妻に対して謝罪や補償の話は何もなかった。事件のことを気にかけて、引っ越し費用は夫が勤務する会社が負担したが、新居の家賃と駐車代が上がり、毎月の負担は2万2000円ほど増えた。
妻、下着を触られ「辱めを受けたような恐怖感」
また、管理人が物色して触った下着を、妻は二度と身につけることができなかった。単に触っただけではなく、管理人が特定の身体部位に下着を密着させていたかもしれず、そう思うと妻は、「自分が辱めを受けたような恐怖感」に襲われた。それゆえ、すべての下着を捨てて、新たに買い直すしかなかった。

逮捕されたのち、管理人が警察の事情聴取で書いた被害者宅の間取り図。矢印で侵入経路が示され、押入れ内で下着を物色した箇所に「×」が書かれている(被害者に開示された事件記録より)
検察「住居の平穏を根こそぎ侵害する極めて悪質な犯行」
その一方、鹿児島地検は6月12日に管理人を住居侵入の罪で起訴し、8月には鹿児島地裁で刑事裁判が始まった。そして、管理人に対する論告求刑公判で、検察官は厳しい意見を述べた。
「被害者の妻の下着を発見してこれを手にして性的興奮を覚える等、唾棄すべき行為に及んだもの」
「単なるのぞき見事案ではなく、住居の平穏という保護法益を直接かつ根こそぎ侵害する極めて悪質な犯行」
「被害者夫婦の、気味悪さ・安全に守られるはずの住居においてさえこのような被害に遭ったことによる、今後も続くであろう衝撃、不安感等が甚大であった」
「被告人は、好みの対象とみていた被害者の妻が、住居という守られた空間の中で、どのように生活しているかを敢えて見知って楽しむために、本件犯行に及んだものであり、他人の迷惑を顧みないその動機・経緯に酌量の余地などない」
「規範意識の欠如が著しく認められることも明らかであり、特別予防の見地からも、被告人には厳罰を科す必要がある」
これら検察官の論告を受けて、鹿児島地裁は管理人に対して「懲役1年、執行猶予3年」の有罪判決を言い渡した。
管理人、懲戒解雇でなく穏便な「自主退職」
夫妻は刑事裁判を傍聴することはなかったが、管理人が有罪となったことを鹿児島地検からの連絡で知った。それを受け、妻は9月7日に管理会社ロンフレの幹部と電話で話したが、事件については「何もわからない」と言われ、それまでと同じく謝罪や補償の話はなかった。また、管理人が判決前の6月末に「自主退職」したことも知らされ、社員が罪を犯したにもかかわらず、懲戒解雇にしなかったロンフレの「穏便な対応」に、妻は大きな疑問を感じた。
謝罪ないまま管理会社からの連絡途絶える
さらに9月11日には、事件があったマンションの元住民で、有罪判決のことを知った妻の友人がロンフレの幹部に電話をかけて、「私の友人が事件に巻き込まれたことを、マンションの住民に報告する責任があるのではないか」と尋ねた。ところが、それに対し幹部は、「(元管理人の)個人情報を守る必要があるので、住民に知らせることはできないと、顧問弁護士から言われた」と伝えた。
その電話が最後となり、それからロンフレからは何も連絡はなかった。そして、事件の事実はマンションの入居者に報告されず、どのような再発防止策を講じたのかも公表されることはなかった。