犯罪被害者に寄り添わない冷淡な弁護士【悪用されたマスターキー⑥】/鹿児島ポスト
「余罪」追及しない警察 再発防止策を講じない管理会社 → 弁護士に相談も「訴えてもトントンか赤字」「あなたの気持ちは、私にはわからない」

警察の実況見分で使われた被害者宅の間取り図。管理人は写真中央右に記載された「押入れ」で女性用の下着を物色した(被害者に開示された事件記録より ※一部でモザイク加工をしています)
鹿児島中央警察署の参考人聴取で、被害に遭った女性は担当の刑事から聞かされていた。
逮捕された管理人のスマートフォンには、女性用の下着を写した写真が複数保存されている。さらに、それらの写真は、スマートフォンに記録された位置情報から、事件があった同じマンションの他の部屋で撮影されている――。
だが、そういった「余罪」の可能性について、警察が捜査をすることはなかった。女性は「全入居者に写真を見せて、自分の部屋かどうかを確認してもらってはどうか」と提案したが、刑事は「そこまでは、とてもできない」と断ってきた。
そして警察は、マンション内の女性以外の部屋に「無断で入ったことは一度もありません」とする管理人の供述に従って、それ以上の捜査はしなかった。

マンションの管理人が被害者宅に侵入する際に使ったマスターキー=下(被害者に開示された事件記録より ※鍵の形状を伏せるために一部でモザイク加工をしています)
事件を無視するマスコミ
警察は「余罪」の可能性に見て見ぬふりをする。事件について、報道するマスコミは一つもない。さらには、犯行に使われたマスターキーを保管していた管理会社のロンフレ(本社・宮崎県小林市)は、謝罪や補償の話を一切してこない。
犯罪の被害者として、女性は納得できなかった。再びマスターキーが悪用され、同じ被害者が出る可能性があり、このまま放置できないと思ったからだ。
そこで、女性は知人を介して、在鹿児島のテレビ局の関係者に相談し、事件の全容を説明して「なんとか取材してほしい」と頼んでみた。だが、その後は何も反応はなく、「完全に無視された」という。
被害女性、冷淡な弁護士の対応に絶望感
マスコミがダメなら、次は弁護士だと思い、知人に紹介された鹿児島市内の弁護士事務所を訪ねてみた。しかし、ここでも再発防止を願う女性の気持ちは届かなかった。相談をした男性弁護士は、「裁判を起こしても、費用的にはトントンか赤字です」「裁判では、盗まれた物やお金を返してもらうことしか主張できません」などと言って、民事提訴には消極的だった。

被害に遭った女性に弁護士を紹介した「サンエールかごしま」(生涯学習プラザ・男女共同参画センター)=鹿児島市ウェブサイトより
それなら女性弁護士であれば、下着を物色された女性の気持ちを理解してくれるのではないか。そう期待した女性は、鹿児島市が運営する「サンエールかごしま」(生涯学習プラザ・男女共同参画センター)で紹介された女性弁護士に相談してみたが、やはり取り付く島はなかった。何をどう相談しても「あー、そうですか」と言うばかりで、何も建設的な意見が返ってこないのだ。
もどかしさを感じた女性は言った。「女性の弁護士だったら、もっと寄り添っていただけると思っていたのですが……」。だが、女性弁護士から返ってきたのは、「女性も男性も関係ありません」という言葉で、警察が「余罪」を追及しないことについても、「法律とはそういうものです」と冷淡に言うだけだった。
そこで、心の行き場を失った女性は、声を振り絞るように「ご自分が同じような目に遭っても、そんな淡々とできるのですか?」と尋ねた。それに対し、女性弁護士からは「あなたの気持ちは、私にはわかりません」と一蹴され、女性は誰からも支援が受けられない絶望感を味わったという。
「ここで諦めるわけにはいなかい」
だが、ここで諦めるわけにはいかなかった。事件があったマンションには約100世帯の入居者が暮らしているが、管理人が住居侵入で逮捕された事実を、誰も知らされていなかったのだ。管理会社のロンフレが再発防止策を講じ様子もなく、このまま放置すれば、また同じ事件が起きる可能性があった。