町職員の過重労働死を黙殺する「非情の議会」【御用議会の四年間】⑥/屋久島ポスト

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町営牧場の職員が過重労働死で公務災害認定 → 議会、公務災害の認定理由を否定する町を追及せず

町営牧場過重労働死問題

屋久島町議会=2025年6月、屋久島ポスト撮影
 

 2019年8月、屋久島町営の長峰牧場で男性職員(当時49)が公務中に亡くなった。当初、死因は「不明」とされたが、遺族は過労死ではないかと疑い、民間の労働災害にあたる公務災害を申請した。その結果、地方公務員災害補償基金の鹿児島県支部は2023年2月、職員の死因について、過重労働で心筋梗塞を発症したことによる公務災害と認定した。

男性職員が公務中に死亡した屋久島町営長峰牧場の衛星写真=グーグルアースより

連続勤務50日 休日は半年で5日のみ
 同支部から送られてきた公務災害認定の理由書には、遺族の想像を絶する「過酷な労働」の実態が記されていた。

 死亡する3日前までの労働は連続50日間で、発症前1カ月間の時間外勤務は約81時間。休暇の取得状況として記録された休日数は、死亡するまでの半年間でわずか5日だったという。

 それにもかかわらず、屋久島町が職員と結んだ雇用契約の内容は、実際の労働実態とは大きくかけ離れていた。

 賃金は月23万9000円の定額で、勤務時間は週40時間と決められ、時間外労働賃金に関する規定はなし。6月と12月の賞与と通勤手当は月額賃金に含まれるものとし、支給しない。また、退職金も支給しない。年20日の有給休暇は翌年に繰り越すことができない。

屋久島町が男性職員と結んだ雇用契約書の一部

公務災害、町の杜撰な勤務管理体制を指摘
 これらの状況を踏まえ同支部は、屋久島町の勤務管理体制について、次のように判断した。

「時間外勤務が生じないことが所与の前提となっており、また、時間外勤務時間を含めた業務配分を現場の職員に任せ、そもそも業務命令権者として主体的に勤務時間を管理する体制になっていなかった」

 この決定を受けて、屋久島ポストは第一報を配信。続いて地元紙の南日本新聞も報じたことで、職員の公務災害は町内で広く知られるようになった。

屋久島町牧場の男性職員の死亡が公務災害に認定されたことを伝える屋久島ポストの記事

町「過重労働はなかったという認識」
 ところが、公務災害の認定理由に対し、屋久島町は「町としては、過重労働はなかったという認識だ」と主張。町長の荒木耕治は、公務災害が認定されたことはおろか、職員が公務中に死亡した詳しい状況も含め、町議会では一切の事実を明らかにしなかった。

 それに対し、一部の町議が事実関係の説明を求めたが、総務課長の岩川茂隆(現副町長)は「その原因が(地方公務員災害補償基金から)詳細に示されていない」として、町から公に報告する予定はないと説明。その後も同支部に対し、町から公務災害の認定理由書の送付を求めることはなかった。

公務災害についての質問に答弁する屋久島町総務課の岩川茂隆課長(現副町長)=2023年3月7日、同町議会YouTubeチャンネルより
【動画】https://youtu.be/LaVJQkLTHy8

職員の死に沈黙する町長派の町議
 公務中に亡くなった職員について、一切報告をしない荒木ら町幹部の対応は、町議会を傍聴する住民には非情に映った。

 だが、もっと非情だったのは、議場で沈黙を貫いた町長派の町議たちだ。職員の公務災害について一部の町議が荒木らに問いただす一方で、大半の町議は、まるで職員が公務中に死亡したことを知らないかのように、ただひたすらじっと黙っていた。

遺族、町を相手に7000万円の損害賠償請求訴訟
 町役場に突き放された末に、住民の代表である町議会にまで無視をされる。大切な家族を失った遺族にとっては、自分たちの命や暮らしを守ってくれるはずの屋久島町に見捨てられたも同然だった。

 そして、追い詰められた遺族は2023年10月、公務災害の認定理由を否定する荒木ら町幹部の管理責任を問うため、約7000万円の損害賠償訴訟を鹿児島地裁に提起した。記者会見で遺族の代理人弁護士は、職員の勤務時間を実際より短く記録していた町の「長時間労働隠し」を指摘し、公務災害とは別に、町として「過重労働があったのかどうか調査すべきだった」と批判した。

遺族の代理人弁護士が開いた記者会見には大勢の報道陣が集まった=2023年10月19日、鹿児島県庁記者クラブ、屋久島ポスト撮影

遺族「町職員の非情な態度、表情、行動を許せない」
 また、記者会見では遺族のコメントも読み上げられた。

「職員が過重労働で亡くなったことは、まぎれもない事実です。それにもかかわらず、町の幹部たちの態度は冷たいものでした。もし親身になって、しっかりと受け止めてくれていたら、誠意をもって対応してくれていたら、私たちの思いをくんで動いてくれていたら、私たちは、こんなに悲しい思いをしてはいませんでした。私たち家族は、荒木耕治町長をはじめ、屋久島町役場の職員たちの非情な態度、表情、行動のすべてを許すことはできません」

屋久島町営牧場の過重労働死訴訟について報じる南日本新聞の記事=2023年10月20日付(※著作権保護のため記事部分にモザイク加工をしています)

遺族ではなく、町長に寄り添う町議会

 ここまで遺族が追い詰められたのは、住民の代表である屋久島町議会(議長・石田尾茂樹)が、職員の死を黙殺したからだ。もし町議会が遺族に寄り添い、公務災害の事実を認めない荒木ら町幹部を追及していれば、司法の場で争うことはなかったかもしれない。だが、町長派の町議たちが寄り添ったのは、遺族ではなく、荒木だったということである。

 この損賠賠償請求訴訟は、2025年6月までに9回の口頭弁論を終えている。そして、いま鹿児島地裁が和解案を検討しているが、遺族が和解の席につくかどうかは見通せていない。なぜなら、町が公務災害の認定事実をすべて否定し、職員は大した労働もしておらず、単に自身の体調不良で死亡したという趣旨の主張を続けているからだ。

 屋久島町役場の一員であり、町の住民でもある職員が公務中に亡くなったのに、町議会で哀悼の意を捧げることができない荒木ら町幹部。そして、その荒木を支える町議会は、屋久島町の住民にとって「非情の議会」だと言わざるを得ない。

◇     ◇     ◇

 9月21日に投開票される屋久島町議選を前に、新たに選ばれる町議たちに期待を寄せながら、現議会の4年にわたる任期を振り返ります。

※この連載は敬称略で掲載します。

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