一般住民は「モラルが低い」と排除する「密室議会」【御用議会の四年間】⑨/屋久島町議選2025
多数派町議、一般住民の誹謗中傷を恐れて議場での撮影を禁止 → 議長、マスコミ取材はOKなのに屋久島ポストは排除
屋久島ポスト、違憲性を訴え国賠訴訟を提訴

議員席から取材を拒否する理由を問われた後、手を出して町議の発言を制止する屋久島町議会の石田尾茂樹議長=2021年12月7日、屋久島町役場議会棟
きっと、町の不都合な事実を広く住民に知らせたくないのだろう。
屋久島町議会(議長・石田尾茂樹)の議員たちの発言を聞いていると、そう思わずにはいられない。マスコミだけに議会取材を許可する一方で、屋久島ポストを議場から排除する理由として、こんな主張を複数の議員がしているのだ。
榎光徳
一般傍聴者は誹謗中傷する心配がある
「一般の傍聴者が撮影をすると、その写真や動画を使って誹謗中傷につながる心配がある。その一方で、日本新聞協会などは日本を代表する団体であって、そこにはしっかりとした倫理規程があるので、マスコミだけに取材を許可する案に賛成する」
緒方健太
携帯電話の音や失笑、一般傍聴者には大いにある
「多くの傍聴者に撮影され、その映像を使って誹謗中傷されるかもしれない。傍聴席での携帯電話の音や失笑、ひそひそ話が大いにあるので、屋久島町の最高機関として、規律をつくりながら段階的に方向性を決めていくべきである」
中馬慎一郎
一般傍聴者の携帯電話の音が議事を妨げる
「議会の動画配信の状況をみて、傍聴規則は段階的に検討すればいい。携帯電話の音で議事を妨げてほしくないので、当面は一定のモラルがあるマスコミに限定して許可すべきである」
一般住民に負のレッテルを貼る住民代表たち
この3人の発言をまとめると、次のような趣旨になる。
屋久島ポストを含めた一般傍聴者はモラルが低く、議会で撮影した映像を使って誹謗中傷したり、携帯電話の音で議事を妨げたりするので、議場での撮影と録音はマスコミだけに許可する――。
実に失礼な話である。
自分たちを町議会議員に選んでくれた屋久島町民に対し、「あなたたちはモラルに欠けるので、議場で撮影し映像を悪用して誹謗中傷するかもしれないから、議会での撮影はマスコミだけに許可する」と断言して、一方的に負のレッテルを貼っているのだ。
屋久島ポスト-1024x587.jpg)
国庫補助金不正請求事件について屋久島町の荒木耕治町長(左)に直接取材をする屋久島ポストの鹿島幹男代表=2021年12月1日、屋久島空港、武田剛撮影
屋久島ポスト、補助金不正と町議不法焼却の事件を報道
この発言があった議会運営委員会が開かれたのは2022年5月で、屋久島ポストは主に二つの問題について報道を続けていた。
一つは、町が水道工事の国庫補助金を申請する際に虚偽報告をして、国から補助金1668万円の返還命令を受けた補助金不正請求事件。もう一つは、現職町議の岩山鶴美が賃貸アパートのリフォーム工事で出た廃棄物を焼却処分した不法焼却事件(2023年8月に罰金50万円で有罪確定)。
いずれも屋久島ポストの取材で発覚した事件で、国が補助金の返還命令を出したという「発表情報」を除き、マスコミの報道は皆無だった。そのなかで屋久島ポストは、議会取材を禁止されながらも徹底的に報道し、国を動かす結果につなげていた。

岩山鶴美町議の不法焼却事件について伝える屋久島ポストの初報記事(2022年2月1日付)
議長による議会の「私物化」
それにもかかわらず、議長の石田尾は「屋久島ポストは報道ではない」と断じて、議場での撮影と録音を認めなかった。その一方、マスコミには取材を許可しているのだが、これらの事件が議題となった町議会の傍聴席に、新聞とテレビの記者はいなかった。
議会取材をしないマスコミに取材許可を出す一方で、町の不正や不祥事を取材する屋久島ポストは議場から締め出す。なんとも理不尽な対応だが、これが石田尾の議長判断であり、町長の荒木耕治を支持する多数派の議員たちも、その決定に従っているということである。
こんな恣意的で自分勝手な議会運営は、これ以上は許されるべきではない。これでは石田尾による議会の「私物化」であり、このような事態を放置すれば、屋久島町議会は住民不在のまま運営を続けることなる。

屋久島町議会定例会の閉会後、町執行部と一緒に記念撮影をする町議たち=2025年8月27日、屋久島町役場議会棟、屋久島ポスト撮影(※石田尾茂樹議長は2025年4月、それまで約3年半にわたって禁止してきた議会取材について、同年9月末までの期限付きで、一転して許可した)
すべては町長の思いどおりに進む町議会
そんな危機感を抱いた屋久島ポスト編集委員会は今年5月、町議会を所管する屋久島町を相手取り、国家賠償請求訴訟を提起した。約3年半にわたって屋久島ポストを議会から排除した石田尾の対応が、「法の下の平等」や「表現の自由」を保障した憲法に違反するとして、その違憲性について司法の判断を仰ぐためである。
4年ごとの選挙で、屋久島町議会の議員たちは住民から負託を受ける。だが、ひとたび当選してしまうと、その先に待っているのは、固く住民に閉ざされた「密室議会」だ。そして、一部の議員が異論を呈しても、その声は多数決でかき消されてしまい、何事もなかったかのように、すべては町長の思いどおりに進んでいくのである。
屋久島町議選が投開票される9月21日を過ぎれば、その流れを少しは変えられるのか。立候補予定の16人のうち、新人はわずか4人。新たな風を期待しつつ、どうか健闘を祈りたい。(おわり)
◇ ◇ ◇
9月16日に告示される屋久島町議選を前に、新たに選ばれる町議たちに期待を寄せながら、現議会の4年にわたる任期を振り返りました。
※この連載は敬称略で掲載しました。