【取材後記】公務で職員が死亡しても他人事の恐ろしい町 屋久島町営牧場 過重労働死問題
公務災害の事実 自ら確認もせずに「原因不明で報告する予定はない」
一般論を並べて「過重労働の報告はない」とも
尊い命が失われたのに、屋久島町幹部の言葉はまるで他人事だった――。
2019年8月に屋久島町営牧場で男性職員(当時49)が公務中に亡くなり、その3年半後の今年2月に過重労働による公務災害と認定されたことを受けて、町議会3月定例会で町の労務管理に関する質問が町議から出された。
それに対して、町総務課の岩川茂隆課長はこう答弁した。
「職員の労務管理につきまして、特に本庁につきましては、入退庁管理、月ごとの職員の残業時間を把握しております」
まずは小瀬田の役場本庁舎で勤務する職員については、しっかり残業時間を管理しているということだが、その次が意外だった。
「出先については、ほぼ出張所については残業がないと思います」
過重労働で職員が亡くなったのに、「ほぼ残業時間がない」とはどういうことだろう。牧場の話をしているのに、「出先」を「出張所」に限っているのも疑問だ。
管理職が命令した労働が「時間外勤務」
さらに、岩川課長はこう続けた。
「残業する際には、まず管理職に届け出をして、時間外勤務命令が出たあとのものを時間外とします。そこで多くの過重がかかっているようであれば、総務課の方にも報告があると思いますが、今のところそういう報告はございません」
つまり、管理職が命令していなければ、それは時間外勤務にはならないということだ。そして、牧場の過重労働死については何も言及しないまま、早々に着席してしまった。
こんな一般論だけを聞かされて、肩透かしを食らわされたと感じたのだろう。町議からは「いつ公務災害について発表するのか?」と問いただされたが、この後に岩川課長は最悪の答弁をした。
「公務災害につきましては、ご遺族の方が直接申請をされて、認定されたという通知は町も受けております」
これでは、まるで公務災害の申請に町が関わっていないかのようだ。そして、公務災害を認定した地方公務員災害補償基金が原因を詳細に示していないとして、「町が認定について報告する予定はない」と言い切った。
連続50日勤務、半年の休暇5日などの過酷労働
同じ町役場の職員が公務中に亡くなったのに、雇用している町として、こんな他人事のような答弁が許されるのか。詳細な原因がわからなければ、町が基金に問い合わせればいいだけだ。実際、認定通知を受けた遺族は基金に依頼して、詳細な認定理由が記載された文書を手に入れている。
そして、基金が示した文書には、過酷な労働の実態が記されていた。
亡くなる3日前までの労働は連続で約50日間、発症前1カ月間の時間外勤務は約81時間。さらに、休暇の取得状況として記録された休日数は、亡くなるまでの半年間でわずか5日のみ・・・・・・。
これらの労働実態を基金が認めて、公務中の過重労働死だと判断されたのだ。つまりは、町が杜撰な労働管理をしていたために、今回の公務災害が起きたということである。
最後は「法的責任はない」で責任回避か?
それにもかかわらず、町は自主的に認定の理由を確かめることもせず、町議会では他人事のような態度を続けた。荒木耕治町長に至っては、公務中に亡くなった職員や遺族に対し、お悔やみの言葉を述べることもなく、じっと黙って町長席に座っているだけだった。
この日の町議会を傍聴しながら、屋久島町という地方自治体で暮らすことが恐ろしくなってきた。公務中に職員が亡くなっても、こんな対応であれば、例えば町道にあいた大きな穴に車がはまって大事故を起こしても、町はこんな言い訳をして責任を逃れるだろう。
「穴に気づかなかった、あなたが悪い」
そして、最後はいつもの決まり文句に違いない。
「町に法的責任はない」
町民として暮らすだけなく、観光客として訪ねるだけでも、本当に恐ろしい町である。
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