「地域に根を張る市民メディア」がめざす不正や嘘がない町づくり/屋久島ポスト
屋久島ポスト、議会が見逃す町の不正に見て見ぬふりできず
第5回「調査報道大賞」奨励賞を受賞して

すぐれた調査報道を顕彰する第5回「調査報道大賞」(主催・報道実務家フォーラム、スローニュース)の奨励賞を「屋久島ポスト」(共同代表・鹿島幹男、武田剛)が受賞した。これまで続けてきた町長交際費問題や補助金不正請求事件など「屋久島町政をめぐる一連の調査報道」が評価され、大賞や優秀賞に輝いたNHKや全国紙、地方紙などの末端に、小さな市民メディアの名前を刻むことができた。
2021年に創刊して以来、屋久島ポストは「日隅一雄・情報流通促進賞2022」の奨励賞、「地域・民衆ジャーナリズム賞2024」をそれぞれ受賞してきた。一つひとつ、屋久島町政が抱える負の問題に目を背けず、地道に取材を続けた結果だと受け止めている。
ネットで「島から出ていけ!」 町議会は取材妨害
だが、その道のりは穏やかではなく、いまでも険しい。
屋久島ポストは行政監視に特化したメディアなので、その報道内容は自ずと町長や町役場に厳しいものになる。そのためインターネットの掲示板では、「島から出ていけ!」「みんな、鹿島と武田の人間性の悪さを知らない」などと、町長派の住民とみられる投稿者から誹謗中傷を受け続けた。
さらに、屋久島町議会からは心ない取材妨害に遭った。マスコミは議会取材を許可される一方、屋久島ポストは「報道でない」と断じられ、議場の傍聴席から記者とカメラが排除された。町長に不都合な事実を報じさせまいと、町長派の議長や町議たちが嫌がらせをしているとしか思えなかった。

議会取材を拒否する屋久島町議会の幹部と交渉する屋久島ポストの鹿島幹男共同代表(手前右)=2021年11月26日、屋久島町役場、武田剛撮影
ニセ領収書に虚偽報告、そして高額贈答
しかし、それでも屋久島ポストが取材を止めないのは、目の前にある不正や不祥事に見て見ぬふりができないからだ。
出張旅費不正精算事件では、実際より高額な航空運賃が記載されたニセの領収書が町幹部や一般職員らに出回っていた。
国庫補助金不正請求事件では、工事完成日を偽った実績報告書で国から1億1800万円を不正に受領していた。
町長交際費問題では、国会議員らに1回で数万~10万円の贈答を繰り返し、町民のお金が無駄に使われていた。
この他にも数多くの問題を報じてきたが、そのほぼすべてに対し、町長派の町議たちは無視または黙認してきた。そして、もし圧力に屈して、屋久島ポストが取材を断念していたら、それら数々の不正や不祥事は、いま現在でも続いていたことは明らかである。

出張旅費不正精算に使われていたニセの領収書を並べて、屋久島町の荒木耕治町長(右)に取材する屋久島ポストの鹿島幹男共同代表=2022年6月2日、屋久島町役場、武田剛撮影
江川紹子氏、地域に根を張るジャーナリストを評価
その一方、屋久島ポストの報道をきっかけに、一部の町議が町長ら町執行部を追及してくれたのには助けられた。また、住民有志が町長らの管理責任を問うため、住民訴訟で闘ってくれているのも大きな支えになっている。
その意味で、オウム真理教の取材などで知られるジャーナリストで、今回の調査報道大賞で選考委員長を務めた江川紹子氏の講評には、心から救われる思いがした。
「大手メディアが地方記者を削減する中、それぞれの地域に根を張って、人々の生活や人権、地方自治のあり方にまつわる問題を掘り起こしているジャーナリストたちの仕事が、とても頼もしく感じます」
屋久島ポストがめざすのは、この屋久島町を不正や不祥事、嘘がない自治体にすることだ。そして、限られた町の公費を大切に使い、広く町民の暮らしを豊かにすることで、だれにも平等に開かれた町になることを願っている。