議会取材の自由を守る訴訟

初弁論、原告席から望む法廷は「別世界」【議会取材の自由を守る訴訟】

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争点、石田尾議長が取材可否を判断する本会議と全員協議会に限定

原告2人で「1円訴訟」は実質「2円訴訟」に

 屋久島町議会(石田尾茂樹議長)が市民メディア「屋久島ポスト」の議会取材を拒否しているのは、「表現の自由」などを保障した憲法に違反しているとして、屋久島ポストが町を相手取って提起した「1円訴訟」――。

 この訴訟の第1回口頭弁論が8月6日、鹿児島地裁の第202号法廷で開かれました。原告の屋久島ポストからは共同代表の鹿島幹男と武田剛、被告の町からは代理人の新倉哲朗弁護士(和田久法律事務所)がそれぞれ出席。裁判官席には、裁判長の前原栄智判事ら3人の裁判官が座りました。

真正面に被告で「訴訟当事者」を自覚
 いつもは傍聴席で取材している私たちにとって、原告席から望む法廷は「別世界」でした。

 傍聴席では左右に原告と被告、そして真正面に裁判官が見えるので、自分自身は裁判官と同じく、原告と被告からは中立の立場にいるように感じます。しかし、いざ原告席に座ると、真正面に見えるのは被告の代理人であり、自分が訴訟の当事者であることを深く感じました。

 また、原告席から右手に見える傍聴席には、南日本新聞や読売新聞、共同通信の記者らが座っていました。これまでは私たちも、各社の記者と横並びで取材していたので、「この訴訟については、主観的な記事しか書けない」と、あらためて自覚させられました。

裁判長が話しかけてくる「不思議な感覚」
 さらに、何よりいつもの取材と大きく違うのは、裁判長が私たちに話しかけてくることです。訴訟の当事者なので当たり前なのですが、いつもは当然のごとく「裁判官とは何も話すことができない」と思っているので、これもまた不思議な感覚でした。

 そして、裁判長から投げかけられた最初の質問は、私たちが予想もしない意外なものでした。

「原告は損害賠償額を1円としているが、この訴訟では原告が2人いるので、1円を2人で分けて、50銭ずつ請求するのか? それとも、それぞれが1円ずつ計2円を請求するのか?」

 一瞬、何と答えればいいのか言葉を失いました。私たちが賠償額を1円にしたのは、この訴訟の目的が金銭的な損害を回復することではなく、マスコミ以外の取材を拒否する石田尾議長の判断について、その違法性を問うためです。でも、民事訴訟では賠償金を請求する必要があるので、設定できる「最低金額」として1円にしたのです。

 私たちがその旨を伝えると、通常は1円以下の端数が出ると切り上げて計算することから、裁判長は「それでは、それぞれ原告が1円ずつ請求することにします」と伝えてきました。ということで、私たちが提起した「1円訴訟」は、実質的には「2円訴訟」ということになりました。

「議会取材の自由を守る訴訟」の第1回口頭弁論が開かれた鹿児島地方裁判所=2025年8月6日、鹿児島市山下町

産業厚生常任委員長、取材拒否の違法性は問われず
 続いて、裁判長の質問は争点整理に移りました。

 訴状で私たちは、2021年12月7日に議会取材を拒否されてから約3年半にわたる経緯を詳細に記載しており、そのなかには本会議だけでなく、産業厚生常任委員会や全員協議会で取材を禁止された事例も含めています。それに対し裁判長は、「本会議、常任委員会、全員協議会のすべてについて、違法性を争うのか?」と質問してきました。

 本来であれば、すべての違法性を問いたいところですが、産業厚生常任委員会で取材の可否を判断するのは石田尾議長ではなく、委員長の緒方健太町議になります。この訴訟の主眼は、石田尾議長による判断の違法性を問うことなので、今回は常任委員会での取材拒否については争点にしない旨を伝えました。

 一方、全員協議会については、石田尾議長が取材の可否を判断しているので、本会議と並ぶ争点とする旨を伝えました。

裁判所・町代理人・原告宅を結ぶウェブ会議へ
 最後に今後の裁判の進め方について、裁判長から話がありました。

 私たちは訴状と一緒に上申書を出し、屋久島から鹿児島地裁に出向くには費用と時間がかかるため、ウェブ会議での審理を希望していました。この上申書を受けて、鹿児島簡易裁判所で実施するのか、それとも原告宅で対応するのかを検討した結果、原告宅でも十分に対応が可能であるとして、裁判所と町代理人の法律事務所、そして原告宅をネットで結ぶかたちで裁判を開くことになりました。

 提訴する前、私たちはとても不安でした。裁判の度に屋久島から鹿児島市まで出向いていたら、判決までにどのくらいの交通宿泊費がかかるのかと。その意味では今回、ウェブ会議での審理が認められたことは、とてもありがたいことでした。

次回9月18日は「弁論準備手続き」で争点整理
 以上を踏まえて、次回の期日は口頭弁論ではなく、争点や証拠の整理を行う「弁論準備手続き」となり、9月18日午後11時30分から開かれることになりました。

 その期日に向けて、裁判長から私たち原告に出された「宿題」は以下のとおりです。

 争点となる本会議と全員協議会を明確に示したうえで、約3年半にわたって議会取材を禁止されたことも含めて、それぞれが何の法律に違反し、その根拠は何なのかを具体的に主張してほしい、ということです。

 そして、答弁書に対する反論も含めて、私たちは9月8日までに準備書面を提出することになりました。

※「屋久島ポスト」は訴訟の当事者であるため、この【議会取材の自由を守る訴訟】については、記事の文体を「です、ます調」にしたうえで、主観を入れた体験取材記の体裁にしています。

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