【回顧2023】屋久島町政めぐる訴訟に追われた一年
町営牧場の過重労働死、町長交際費、補助金不正受給はすべて法廷闘争
荒木町長は4選も 民意の過半数は「町政刷新」
屋久島町営牧場での過重労働死、町長交際費と補助金不正受給の住民訴訟、現職町議が有罪となった不法焼却事件・・・・・・。
2023年、屋久島ポストは屋久島町政の問題を主なテーマにして、1年間で308本の記事を配信しました。そのなかには、これまで続いてきた公金をめぐる不正などに加え、町営牧場で職員が過重労働で亡くなるという「人命」に関わる問題もありました。さらには、現職町議が廃棄物の不法焼却で罰金50万円の処分を受け、町政史上で初めて町議会議員が有罪となる事件も起き、屋久島町政としては、より深刻な問題を抱えた一年となりました。
その一方、10月末の屋久島町長選では、現職の荒木耕治氏が「町政刷新」を訴えた新人3人を破って4選を果たしました。住民訴訟を含めて3件の訴訟を抱えながら、さらに4年間、2027年10月までの町政運営を託されました。
これらのニュースを踏まえて、屋久島ポストが2023年に報道した主な問題をテーマごとにまとめました。
【町営牧場 過重労働死】
半年間で休日5日 連続勤務50日間
公務災害に認定も 町「過重労働があったという認識はない」
遺族、7000万円の損害賠償請求訴訟を提訴
【左】過重労働で亡くなった田代健さん(遺族提供)【右上】田代さんが働いていた屋久島町営・長峰牧場の衛星写真(グーグルアースより)【右下】屋久島町役場
屋久島町営の長峰牧場で2019年8月、町職員の田代健さん(当時49)が公務中に死亡した。
当初は「死因不明」とされていたが、遺族が民間の労働災害にあたる「公務災害」を申請した結果、地方公務員災害補償基金の鹿児島県支部は2023年2月14日、過重労働で心筋梗塞を発症したことによる公務災害と認定。同基金が出した報告書には、死亡する3日前までの連続勤務が約50日間で、亡くなるまでの半年間で取得した休日が5日だったことなどが記され、田代さんが過酷な労働を強いられていた実態が明らかになった。
ところが、雇用主の屋久島町は「過重労働があったという認識はない」「時間外勤務が必要だったという認識はない」などと主張。認定後に開かれた3月議会で、荒木耕治町長が哀悼の意を捧げることはなく、田代さんの死亡が公務災害に認定された事実も報告されなかった。さらに、町は同基金に報告書の送付を求めず、公務災害の認定理由を確認することもなかった。
そういった町の対応を受けて、田代さんの遺族は10月19日、屋久島町を相手取り、約7000万円の損害賠償を求めて鹿児島地裁に提訴。記者会見で遺族側代理人は、田代さんの勤務時間を実際より短く記録していた町の「長時間労働隠し」を指摘し、公務災害とは別に、町として「過重労働があったのかどうか調査すべきだった」と批判した。
この提訴に対し、町は請求棄却を求めて争う姿勢で、2024年1月に第1回目の口頭弁論が開かれる予定だ。
【町長交際費 住民訴訟】
森山衆院議員に焼酎180本など贈答で60万円
知人社長には焼酎121本や屋久杉万年筆などで38万円
町、社会通念に照らし「妥当」な支出
【左】屋久島町の荒木耕治町長【上】荒木町長が贈答した自民党の国会議員5人。(左から)宮路拓馬、小里泰弘、武部新、谷川弥一、森山裕の各衆院議員(自民党ウェブサイトより)【下】国会議事堂(Wikimedia Commons より)
屋久島町の荒木耕治町長が交際費で国会議員らに高額の贈答をしたのは違法な支出だとして、同町の住民が町を相手取り、荒木町長に贈答で使った約200万円を賠償請求するよう求めた住民訴訟が2023年2月6日、鹿児島地裁で始まった。
特に住民が問題視したのは、荒木町長が特定の国会議員や知人社長に続けていた「集中的かつ継続的」な贈答だった。2017~2021年度の5年間で、自民党の森山裕衆院議員(鹿児島4区)には高級焼酎180本やイセエビなどを贈り、町民の公金から約60万円を支出。また、知人社長には2019~2021年度の3年間で、焼酎121本や屋久杉万年筆などを贈り、同じく公金から約38万円を支払っていた。
それに対し町は、森山衆院議員への贈答は「これまでの助力、協力に対する謝意を示すとともに、今後とも一層の信頼関係、友好関係を維持、増進することを目的としてなされた」として、社会通念に照らして「妥当」な支出で、町長の裁量権の範囲を逸脱、濫用していないと反論。また、知人社長については、高額寄付を受けたことなど「多大な町への貢献に対して謝意を示す」ためだったと主張した。
これまで6回の口頭弁論が開かれ、そのなかで裁判官は、森山衆院議員への贈答に対し「内容と金額をみると多いという印象がある」と指摘。そして、荒木町長が公費とは別に、私費でも続けていると証言する贈答について、具体的な贈答内容の説明を求めた。それに対し荒木町長は、イセエビやマンゴーなど「ありとあらゆるものを送った」と証言したが、「財布から自分で払って頼んでいるから、領収とかは残っていない」として、私費での贈答を立証する領収書などの証拠は提出しなかった。
この住民訴訟は12月26日、すべての審理が終わって結審し、2024年3月5日に判決が言い渡される。
【新ごみ処理施設 入札】
意図的な無効入札 事前公表の予定価格を15億円超
参加2社のうち1社、予定価格99.5%で高額落札
公取委「競争が働いたと言い切れない」➡ 町長、ルール改正「考えていない」
【左】新ごみ処理施設建設工事の入札で、川崎技研が意図的に無効な入札をした問題について答弁する屋久島町の荒木耕治町長(2023年8月28日、屋久島町議会)【右】新ごみ処理施設の完成予想図(屋久島町提供)
屋久島町の新ごみ処理施設の建設業者を決める一般競争入札で、落札する意思がない川崎技研(本社・福岡市)が入札への参加を辞退せず、事前公表された予定価格を約15億円上回る無効な入札をしていたことが2023年1月、屋久島ポストの取材でわかった。
入札は2022年11月に実施され、川崎技研とテスコ(本社・東京都)の2社が参加。事前に公表されていた予定価格(税抜き)の24億6100万円に対し、テスコが24億4870万円を入札して落札した。落札率は99.5%で、予定価格に極めて近い高額での落札だった。
この問題を受けて、一部の町議が公正取引委員会に説明したところ、官房総務課の担当者が「競争が働いたと言い切れない」として、「町は入札業者(川崎技研)に対して、なぜ予定価格を超える入札をしたのか、事情を聴く必要がある」と指摘。その後、複数の町議が町に対し、川崎技研への聴き取り調査の実施を求めた。
ところが、町は川崎技研への聴き取りをしないまま、3月7日に開会した町議会定例会で、同施設の建設費の一部となる5億5000万円を盛り込んだ2022年度の補正予算案を提出。公共事業などの予算案は常任委員会で審議する必要があるが、町議会は委員会での予算審議を省略して、即日で予算を成立させた。さらに3月24日の定例会最終日には、同じく建設費が盛り込まれた新年度の予算案を賛成多数で可決した。
その後、8月28日にあった町議会の一般質問で、初めて荒木町長が問題の入札について答弁。川崎技研による意図的な無効入札について「残念に感じた」とする一方で、「企業戦略に基づく結果」だとして、問題がない入札だったと述べた。また今後、同様の無効入札を防ぐ対策を問われたが、入札ルールについて「改正は考えていない」と答弁した。
【町議 不法焼却事件】
屋久島町政で史上初 現職町議が有罪に
アパートのリフォーム廃材を不法焼却して罰金50万円
有罪確定受け、辞職勧告決議案が可決も続投を表明
【左】投棄されたアパートのリフォーム廃材(2020年9月14日、町民撮影)【中央】不法に焼却された廃材や畳など(2021年1月5日、町民撮影)【右】議員辞職勧告決議案の可決後、無言で議会を後にする岩山鶴美町議(2023年9月5日、屋久島町役場)
屋久島町議会(石田尾茂樹議長)の岩山鶴美町議(66)が鹿児島地検・屋久島区検に廃棄物処理法違反(不法焼却)の罪で略式起訴されたことが2023年7月21日、屋久島ポストの取材でわかった。岩山町議は自身が経営する賃貸アパートのリフォーム工事で出た廃棄物を不法に投棄、焼却したとして、2022年2月に刑事告発されていた。
その略式起訴を受けて、屋久島簡裁は8月16日までに罰金50万円の略式命令を出し、岩山町議の有罪が確定。屋久島町政としては史上初めて、現職町議が有罪となる事態となり、鹿児島県内のマスコミ各社が広く報道することになった。
ところが、この問題は単なる不法焼却事件では終わらなかった。実は2020年に廃棄物を不法に投棄、焼却する約1年前の町議会一般質問で、岩山町議は不法投棄をする町民が多いことを強く批判し、ごみのポイ捨てにも罰金を科する町独自の条例制定を荒木耕治町長に提案していたのだ。
岩山町議が刑事告発された直後の2022年3月、屋久島ポストはその際の議会動画を情報公開請求で入手し、岩山町議の一般質問について報道。岩山町議が「不法投棄は犯罪に当たるんですね。法律で禁止されていて、決して許されない行為のはずなんです」などと力説し、「世界に通じるきれいな屋久島を、大人も子供も目指していきましょうということで、どうですか町長」と訴えたうえで、罰金付き条例の制定を求める様子を伝えていた。
そして、有罪確定後の2023年9月5日、岩山町議に対する辞職勧告決議案が町議会定例会に提出された。提案した町議は金属片や畳などが燃え残った現場の証拠写真を示し、「美しい大自然を誇りとする世界自然遺産の屋久島を汚した」などと岩山町議を批判。また、2019年9月の町議会一般質問で、岩山町議がごみを捨てる町民が多いことを批判して、ごみのポイ捨てにも罰金を科す条例を提案した際の議事録の一部を読み上げ、岩山町議に速やかな辞職を求めた。
その後に採決が行われ、辞職勧告決議案は賛成多数で可決。それを受け、岩山町議は「決議案が出されたことや結果を厳粛に受け止める」とする一方、議員辞職するか否かについては「家族や支援者と相談し、冷静に判断したい」とコメントした。また、自然豊かな世界自然遺産の島で起きた不法焼事件で現職町議が有罪となり、辞職勧告決議案まで可決されたとあって、一部のテレビ局は全国ネットでニュースを伝えた。
それから3カ月後の12月6日、岩山町議は町議会の全員協議会に出席し、議員辞職はせずに続投する考えを表明。「進退については残りの期間をしっかりと務めていくことが、皆さんに対しての態度だと思うので、それ以上でもそれ以下でもなく、しっかりと務め上げていきたい」と述べた。
【補助金不正 住民訴訟】
補助金受給で国に虚偽報告 町長らに135万円賠償命令
町、工事遅れた業者側に賠償請求 ➡
一部業者、工事未完成で「無理に完成検査した町の責任」の声を受け住民訴訟に
町は一審判決に不服として控訴
【左】屋久島町が国に提出した虚偽の検査調書【右】屋久島町の荒木耕治町長
屋久島町が水道工事で補助金を受給する際に虚偽の「工事完成日」などを報告し、国から補助金の返還命令を受けたのは町幹部の責任だとして、同町の住民が町を相手取り、荒木耕治町長ら幹部3人に約1668万円を賠償請求するように求めた住民訴訟の判決で、鹿児島地裁は9月6日、町に対して、荒木町長ら幹部3人に連帯して約135万円を支払うように求めることを命じた。賠償請求額の大半は棄却されたが、不正調査や国への報告を一切しなかった荒木町長らの管理責任を認める判決が言い渡された。
この補助金不正受給問題は、屋久島ポストが2021年11月に報道して初めて明らかになった。報道を受けて、町は虚偽の検査調書などを提出していた事実を国に報告。厚生労働省は2022年3月に補助金の返還命令を出し、町が補助金と加算金を含む約1668万円を国に返納する事態となった。
だが町は、補助金返還となった法的責任について、工事を期限内に終えられなかった業者側にあると主張し、国に返還した約1668万円の全額を各業者に賠償請求した。それに対し、屋久島ポストは一部の業者を取材し、「工事が終わっていないことを伝えたのに、それでも無理に完成検査をやったのだから、すべては町の責任だ」などとする反論を報道。そういった業者側の声を受けて、住民有志が2022年8月に住民訴訟を提起した。
その後、住民訴訟は2022年11月に始まり、2023年8月までに5回の口頭弁論が開かれてきた。
そのなかで住民は、虚偽報告を町役場で内々に把握した段階で、荒木町長らはその事実を国に報告して、実際にどの程度の工事が完成していたのかを調査するべきだったと主張。さらに、報道で虚偽報告の事実が公に発覚するまで約7カ月間にわたり、国に何も報告せずに放置した法的責任は極めて重いなどと訴えた。
それに対し町は、返納した補助金は「もともと貰えなかったものを返還した」に過ぎず、町には損害や責任は一切ないと主張。また、虚偽報告を内々に把握した段階では、国の補助金で実施した工事は完成していたという認識で、「あえて県や国に対して報告する必要はない」と判断したなどと訴えていた。
一審判決を受けて、町は不服があるとして9月15日に控訴し、福岡高裁宮崎支部で審理が続いている。
【屋久島町長選2023】
荒木町長が新人3人を破り当選 訴訟3件を抱えて4期目へ
3期12年の実績踏まえ 3059票の安定した得票数を獲得
任期満了に伴う屋久島町長選は2023年10月29日に投開票され、自民党が推薦した現職の荒木耕治氏が4回目の当選を果たした。出張旅費不正問題や補助金不正受給などの不祥事が続くなか、新人3人がいずれも「町政刷新」を訴えて現職に挑んだが、3期12年の実績を誇る荒木氏に及ばなかった。
開票結果は以下のとおりだった(敬称略)。
当・荒木耕治(73) 現職 3059票
・岩川卓誉(36) 新人 2650票
・小脇清治(80) 新人 1388票
・矢野憲一(56) 新人 748票
3期目は町政政をめぐる不正や不祥事が目立つ4年間だったが、荒木氏は3000票を超える安定した得票数を獲得。最大の公約に掲げた屋久島空港の滑走路延伸を評価する町民が多数を占める結果となった。
その一方で、不正や不祥事が続く現町政を変えたいと願った町民も少なくなかった。
荒木氏の得票数3059票に対し、岩川氏の2650票、小脇氏の1388票、矢野氏の748票を合わせると4786票となり、荒木氏を1727票上回った。つまり、投票した有権者7894人のうち、その約6割が現町政の「継続」を望まなかったということである。
落選した3人の票を足したところで、荒木氏の勝利に変わりはない。しかし、屋久島町民の過半数を超える有権者が、「現町政の継続を望まない」という意思を示したことは、決して忘れてはならない。
荒木氏が3期目で抱えた「宿題」は山積みだ。
補助金不正受給をめぐる住民訴訟では、一審判決で一部敗訴となり、いま高裁で控訴審が続いている。
町長交際費の住民訴訟は2024年3月に判決が言い渡されるが、特定の国会議員に対する贈答について、裁判官から「内容と金額をみると多いという印象がある」と指摘されるなど、苦戦が続いた。
町営牧場で職員が過重労働で死亡した事件をめぐる損賠賠償請求訴訟は、2024年の年明けにも審理が始まる。また、すでに民間の労災にあたる公務災害が認定されていることから、民事訴訟に加えて、さらに刑事的な責任を問われる可能性もある。
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
2024(令和6)年の年明け早々、石川県能登地方でM7.6の地震が発生しました。一刻も早い余震活動の終息と復旧活動の始まりを願ってやみません。
町議会での論戦を聞いていて気になったことです。
一般質問のやり取りに於いて、荒木町長の口癖を真似して、課長たちまで「議員言われるように……」と言っています。
屋久島町長は一人しかいませんから「町長」でいいのでしょうが、町議は16名いるわけですから、「真辺議員言われるように……」と名前を付けて言うべきだと、私は思います。
さらに、細かいことを言うと、同じく一般質問の答弁で「……と考えてございます」という言い方をする課長がいますが、個人的には違和感があります。
これなども普通に「……と考えております」で良いのではないでしょうか。
→http://king-torakuma.com/Keigo-Mistake.html