【視点】屋久島町、公務災害「認定OK」で「認定理由NG」の自己矛盾 町営牧場 過重労働死問題
荒木町長と町幹部、遺族に謝罪せず「過重労働はなかった」と主張
トヨタ社長、労災認定で遺族に謝罪し和解の例も
職員が過重労働で死亡した屋久島町営の長峰牧場(グーグルアースより)
屋久島町営の長峰牧場で非正規職員の田代健さん(当時49)が公務中に亡くなった死因について、地方公務員災害補償基金の鹿児島県支部は今年2月、過重労働が原因で発症した心筋梗塞だったとして、公務災害と認定した。
それに対し、雇用主の屋久島町(荒木耕治町長)は公務災害が認定されたことは受け入れる一方で、認定理由については「過重労働はなかったという認識」だとして、同基金の判断とは真っ向から対立。認定は「OK」なのに、認定理由は「NG」というダブルスタンダードの自己矛盾に陥っている。
「過重労働はなかった」は公務災害の否定
田代さんと遺族のためには、公務災害は認定してほしい。でも、町に不都合な認定理由は認めたくない。町民の暮らしを守る地方自治体としては、極めて身勝手な姿勢だが、近く遺族が提起する損害賠償請求訴訟で、町は「過重労働はなかった」と主張することは間違いない。
だが、ここで問題になってくるのは、「過重労働はなかった」とする町の主張は、公務災害が認定された事実の否定につながるということだ。認定された際には異議を申し立てないで、いざ訴訟になったら「過重労働はなかった」と主張しても、まったく筋が通らないことは言うまでもない。

屋久島町の職員が過重労働で死亡した町営長峰牧場の衛星写真(グーグルアースより)
労働者と雇用主から十分に事情を聴いて判断
公務災害とは、民間会社などで起こった労働災害と同じで、公務員が公務中に負傷または死亡したときに認められるもので、勤務管理をする雇用主は重い責任を負うことになる。そのため、公務災害と労働災害の認定にあたっては、労働者側だけでなく、雇用主側の言い分や主張もしっかり聴いたうえで、認定か否かが判断される。
今回の田代さんの公務災害でも、同基金は遺族と町の両者から十分に事情を聴き、最終的には医師の判断を踏まえて、過重労働が原因で発症した心筋梗塞で死亡したと認定している。つまり、遺族と町が訴訟で争ったとしても、その審理で大きな支えになるのは、同基金が公務災害だと判断した認定理由ということになる。遺族は同基金が認定理由を記載した文書を証拠提出するので、それを町が覆すことは極めて難しいとみられる。
トヨタは労災認定で和解し訴訟を回避
それゆえ、民間会社などでは、当初は労災か否かについて労働者側と争いがあったとしても、ひとたび労働基準監督署が労災を認定すると、会社側が訴訟を避けて、和解で解決するケースがみられる。
最近の大きな例では、トヨタ自動車が2021年4月、上司のパワーハラスメントで自殺した社員の遺族と和解したケースがある。遺族が労基署に申請した労災が2019年9月に認定されたことを受けて、トヨタの豊田章男社長(当時)が遺族と面会して直接謝罪し、会社側に上司の監督責任を怠るなどの安全配慮義務違反があったことを認めた。そして、トヨタが解決金(金額は非公表)を支払い、人事制度を見直すなどの再発防止策を講じて、訴訟で争うことなく和解した。
遺族に寄り添う豊田社長 無視する荒木町長
この和解について報じた朝日新聞の記事(2021年6月7日付)によると、遺族側は「豊田章男氏から弔問を受け、再発防止を約束していただいた。今後も注視していく」とコメントを出した一方で、トヨタは「再発防止策を推進し、風通しの良い職場風土を築くよう努力を続ける」としたという。
豊田社長が遺族と面会して直接謝罪したのは、日本を代表する大企業として、労災が認定された責任の重さを感じたからだろう。それを受け、遺族側もトヨタの真摯な対応を評価して、両者が争うことなく和解に至っている。
それに対し、屋久島町の荒木町長はどうか。
同基金が公務災害を認定しても、遺族に謝罪するどころか、町議会で報告すらせずに無視を続けている。さらには、同基金の認定理由を否定して、「過重労働はなかった」との主張を続けており、訴訟になった場合には真っ向から反論するとみられる。
トヨタ和解の遺族側弁護士が田代さん遺族の代理人
田代さんの遺族は10月19日、屋久島町を相手取り、約7000万円の損害賠償請求訴訟を鹿児島地裁に提起する。同日には原告側が記者会見する予定で、先に紹介したトヨタとの和解でも遺族の代理人を務めた立野嘉英弁護士(大阪弁護士会)が、訴訟の方針や見通しについて報道各社に詳細な説明をする。
■トヨタの労災和解関連記事
■屋久島町営牧場 過重労働死問題 記事一覧
