【視点】否定できない公務災害を否定する屋久島町 町営牧場 過重労働死訴訟
最高裁判決、労災に不服申し立てはできない ➡
町、公務災害で認定された過重労働死を否定
【上左】屋久島町営長峰牧場の衛星写真(Google Earth より)【上右】最高裁判所(裁判所ウェブサイトより)【下】屋久島町役場
雇用主は労災保険の支給決定に対し、不服申し立てはできない――。
2024年7月、最高裁判所は労働者の権利を守る判断をした。業務上の理由や通勤によって労働者が死亡したり、けがを負ったりした際に支給される労災保険について、雇用主はその支給決定を取り消す訴訟を提起できないとする判決を言い渡したのだ。
最高裁、雇用主が労災を取り消す権利を否定
この訴訟は、中小企業向けに労働中のけがを補償する特定保険サービスなどを提供している「あんしん財団」(本部・東京都)が国を相手取り、職員の労災認定を取り消すように求めたものだ。労働基準監督署によって労災が認められると、雇用する側には保険料が増額されるという不利益が生じるため、雇用主には労災認定の取り消しを求める権利があると主張。一審の東京地裁が訴えを棄却したのち、二審の東京高裁が一転して「権利がある」と判断したため、国が最高裁に上告していた。
もし国の上告が退けられていたら、労働者にとっては大変な事態だった。一度認められたはずの労災認定を、雇用主が不服申し立てによって取り消すことが可能になるからだ。長い時間をかけて労基署の審査を受けた末に、雇用主の訴えで「やっぱり労災は認められません」となれば、ただでさえ弱い立場の労働者は、さらに追い詰められることになる。
公務災害は地方公務員災害補償基金が認定
屋久島町営の長峰牧場で職員だった田代健さん(当時49)が公務中に亡くなり、過重労働による死亡だったと認められた公務災害は、民間であれば労災にあたる補償制度だ。職員が死亡またはけがをした際に、地方公務員災害補償法で設置が定められた地方公務員災害補償基金が公務災害を認定し、職員本人やその遺族を救済している。
その意味で今回の最高裁判決は、民間の労災だけでなく、地方公務員の公務災害についても、雇用主である地方自治体には「不服申し立てをする権利がない」と判断する根拠になるといえる。
町、公務災害の認定要因をすべて完全否定
ところが、田代さんの遺族が町を相手取り、慰謝料など約7000万円の損害賠償を求めた訴訟で、町は公務災害の認定理由を否定する主張を続けている。
月80時間超の時間外労働 ➡「平均で最大27時間」
連続50日間の連続勤務 ➡ 50日間のうち7日間は2時間勤務で「実質的に休日」
暑熱環境で「肉体的負荷は強度なもの」➡「過ごしやすい夏で暑熱環境がなかった」
「飼育業務を2人体制で行うことは困難」➡「週40時間で十分に業務を行える状況」
専門医師が死因と認めた心筋梗塞 ➡「死因不明」
専門医師「公務が有力な原因で心筋梗塞を発症して死亡」➡「高血圧症や長期の喫煙歴などが心筋梗塞の要因」
どれをとっても、基金が認めた過重労働死の要因に真っ向から反論しており、医師が判断した死因さえをも完全否定するものだ。この町の主張だと、過重労働の事実は一切なく、田代さんが亡くなったのは自分自身の健康上の理由ということになってしまう。そして、公務災害を認定した基金の判断は「到底認められない」ということになる。
地方自治体は不服申し立てができない制度
それならば、屋久島町は地方公務員災害補償基金に不服申し立てをするべきところだが、地方自治体には制度上それができない。さらには、今回の最高裁判決の趣旨を踏まえれば、一度認められた公務災害や労災を取り消すことはできず、雇用主は基金や労基署の決定に従って、再発防止策を講じなくてはいけない。
求められる労働者の権利を守る姿勢
損害賠償を求める訴訟なので、被告が反論して請求の棄却を求めるのは自由だ。だが、その被告が地方自治体や大企業などの社会的に重責を担った団体であれば、裁判での主張には一定の合理性や節度が求められる。自分の利益を守るためなら、何を主張してもいいわけではなく、そこには職員や社員の権利を守る姿勢が不可欠となる。
それゆえ、労働者の死亡が労災と認められると、遺族が提訴する前に和解をするケースも少なくない。
トヨタ自動車の労災、すぐに社長が謝罪して和解
トヨタ自動車の男性社員が上司のパワーハラスメントで自殺した問題では、社員の死亡が労災と認定とされたことを受けて、同社は2021年4月に遺族と和解。豊田章男社長(当時)が遺族に直接謝罪をして、解決金(金額は非公表)を支払ったうえで、人事制度を見直すなどの再発防止策を講じた。
荒木町長、公務災害は未公表で再発防止策もなし
その一方、屋久島町はどうだろうか。
2023年2月に過重労働による公務災害が認められたが、荒木耕治町長ら幹部は「町としては、過重労働はなかったという認識」と主張。公務災害が認定された事実を公表せず、再発防止策も全く講じていない。さらに公務災害の認定後、荒木町長らは遺族宅を訪問するなどして、田代さんの死に哀悼の意も捧げていない。
公務災害の否定で町の信用は失墜
地方公務員災害補償基金が公務災害と認定しても、裁判の司法判断が出ない限り、田代さんの過重労働死は絶対に認めない。そんな対応を続けていると、屋久島町の社会的な信用が失墜することは明らかである。
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「屋久島ポスト」さんのおっしゃるとおりです――。
我が町の町長は、これまでも数々の訴訟を起こされているのにもかかわらず、また裁判ですから、本当に学習しない御仁だと思います。
なぜこうなるのか。私は、問題が発生した時の初期対応のまずさが、次から次へと訴訟を起こされる最大の理由になっていると思います。
さて、この案件は、田代さんの遺族に謝罪し和解の道を選択することが最善の方法だと思うのですが、どうしてそれができないのか……。
また、弁護士費用として屋久島町の公金(約一千万円)を使うことに罪悪感はないのでしょうか?
この御仁の常識は、我々一般町民の常識とは違うのではないかという気がしてなりません。最後に、荒木町長にお願いです。これ以上「世界自然遺産の島」に、負の遺産を増やさないでください。