遺族、長時間労働を否定するなら町は証拠を示すべき 町営牧場 過重労働死訴訟

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町、勤務管理せず推定で長時間労働を否定 → 遺族「長時間労働をさせていない立証責任は町にある」

【上左】屋久島町営長峰牧場の衛星写真(Google Earth より)【上右】鹿児島地裁(裁判所ウェブサイトより)【下】屋久島町役場

 2019年8月に屋久島町営の長峰牧場で町職員だった田代健さん(当時49)が公務中に死亡し、過重労働で心筋梗塞を発症したことによる公務災害と認定されたことを受けて、田代さんの遺族が屋久島町(荒木耕治町長)を相手取り、約7000万円の損害賠償を求めた民事訴訟――。

 この訴訟の第7回口頭弁論が2月25日にあり、原告の遺族は、田代さんに長時間労働をさせていないという立証責任は、使用者である被告の町にあると主張した。これまで遺族は、田代さんが亡くなる前の6カ月間における時間外労働の1カ月当たりの平均時間は、「82時間20分」だったと主張。それに対し町は、牧場職員の労働時間を管理していなかったが、独自の推定で「29時間15分」だったと反論し、田代さんの長時間労働を否定していた。

労働法専門家、タイムカードない場合は「同僚の聴取等で労働時間を推定すべき」
 鹿児島地裁に提出した準備書面で遺族は、労災や公務災害を認定する際の労働時間について、労働法が専門の東京大学社会科学研究所の水町勇一郎教授が「タイムカード等の記録がなく、労働時間を確定できない場合には、当該労働者や同僚等の関係者からの聴取等により、当該労働者の労働実態を可能な限り詳細に把握し、労働時間を推定した上で、評価を行う必要がある」との見解を示していると説明。この見解に沿った複数の判例を示したうえで、「裁判所は明確に計算できない時間外労働についても、労働実態から推定して労働時間を加算して認定をして業務起因性を認めている」とした。

遺族、労働時間の立証責任が労働者側だと使用者が有利
 さらに遺族は、もし労働時間の立証責任を労働者側に課すとすれば、労働時間の管理を怠った使用者が訴訟で有利な立場となり、「使用者は、自己の負う責任を軽減するため、労働者の業務の実情から目を遠ざけようとすることになろう」と指摘。使用者である町には、職員の労働時間を正確に把握する義務があることを踏まえ、「長時間労働をさせていないという立証責任は、むしろ使用者側にあるというべきなのである」と主張した。

町、元同僚が作成した作業日報は「信用性に欠ける」
 これまでの口頭弁論で町は、田代さんの元同僚が当時の記憶に基づいて記載した作業日報は、公務災害の認定を受けるために作成したもので、「潜在的に勤務時間を伸長して記載する心理が働いていた可能性も否定できないのであって、信用性に欠ける」と主張。町は田代さんの労働時間を管理していなかったが、死亡前の6カ月間における時間外労働の1カ月当たりの平均時間について、遺族が主張する「82時間20分」を否定し、独自の推定で「29時間15分」と反論したうえで、「恒常的な長時間労働は認められない」としていた。

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