【視点】不当な雇用条件を押し付ける法令違反の契約書 屋久島町営牧場 過重労働死訴訟

yakushima-post

賞与、通勤費、退職金「支給しない」+ 有給休暇「翌年へは繰り越さない」= 法令違反の雇用契約

町、再発防止策を講じず「過重労働はなかった」

【左】田代健さんが屋久島町と結んだ雇用契約書【右上】屋久島町役場【右下】屋久島町営長峰牧場の衛星写真(Google Earth より)


 2019年8月、屋久島町営の長峰牧場で公務中に死亡した田代健さん(当時49)は、町役場と雇用契約を結んで、町職員として牧場作業をしていた。田代さんの死因について、地方公務員災害補償基金の鹿児島県支部(支部長・塩田康一県知事)は、過重労働で心筋梗塞を発症したとして、民間の労働災害にあたる公務災害と認定。だが、町は「過重労働はなかった」と主張し、田代さんの遺族が起こした損害賠償請求訴訟で請求の棄却を求め、真っ向から争っている。

 そこで、遺族が裁判の証拠として提出した田代さんの雇用契約書に目を通すと、そこには複数の法令違反が疑われる条件が記載されていた。

田代健さんが屋久島町と結んだ雇用契約書の1ページ目

期末、通勤、退職の各手当の不支給 ➡ 給与条例に反する契約
 まず、賃金について定めた雇用契約書の第3条には、次のような記載があった。

「雇用に係る賃金は、月額239,000円とする。6月・12月の賞与分及び通勤費については、月額に含まれているものとし、支給しない。また、退職金支給しない

 田代さんは非正規の職員として働いていたが、町は2019年当時、給与などの条件を条例で定めないまま、非正規職員を雇用していた。そのため、田代さんには翌2020年度に施行される「会計年度任用職員の給与に関する条例」が適用されることになっており、その条例では、給与や各種手当などの条件は正規職員と同じになることになっていた。

 そのような状況のなかで、町は条例などの根拠もなく、なぜ「賞与」(期末手当)、「通勤費」(通勤手当)、「退職金」(退職手当)を「支給しない」と決めていたのか?

 そんな疑問を感じながら、町の「会計年度任用職員の給与に関する条例」の「期末手当」「通勤手当」「退職手当」に関する条文を見ると、「給与条例」(一般職の職員の給与に関する条例)の規定が適用されるとある。

 さらに一般職員の給与条例を見ると、まず「期末手当」については、第17条で次のように規定されている。

「期末手当は、6月1日及び12月1日(中略)にそれぞれ在職する職員に対して、それぞれ基準日の属する月の規則で定める日(中略)に支給する」

 続いて「通勤手当」については、第9条で「通勤手当は、次に掲げる職員に支給する」とあり、自宅から勤務地までの距離や公共交通機関の運賃などを基準に、各職員の通勤状況に応じて支給されている。

 最後に「退職手当」については、第16条で「職員が退職した場合はその者に、死亡した場合はその遺族に退職手当を支給する」と規定されている。

 これら町の給与条例にある規定を踏まえると、田代さんは「期末」「通勤」「退職」の各手当をもらえるはずだったが、町は2019年度まで非正規職員の給与条例を定めることを怠り、いずれも支給していなかった。つまり、町は何の根拠もないまま、本来であれば田代さんに適用される給与条例に反するかたちで、田代さんと雇用契約を結んでいたということである。

賃金について規定された第3条では、賞与と通勤費、退職金はそれぞれ「支給しない」と定められている(※赤線は屋久島ポストが加工)

有給休暇の翌年繰り越し禁止 ➡ 労基法違反
 さらに雇用契約書を見ていくと、第5条2項には次のようにあった。

「契約期間中に20日の有給休暇を与えるものとするが、翌年へは繰り越さないこととする」

 だが、賃金や有給休暇などの「時効」について定めた労働基準法第115条を見ると、こう書かれている。

「この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(中略)はこれを行使することができる時から2年間行わない場合においては、時効によつて消滅する」

 この規定に従えば、有給休暇の時効は「2年間」となり、その年に消化できなかった有給休暇は、翌年に繰り越せることになる。つまり町は、給与条例だけでなく、労基法にも反するかたちで、田代さんと雇用契約を結んでいたということである。

休暇などについ規定された第5条では、有給休暇は「翌年へは繰り越さない」と定められている(※赤線は屋久島ポストが加工)

また町職員の命が失われるかもしれない
 ざっと目を通しただけでも、給与条例と労基法に反する雇用条件がすぐに見つかったが、地方自治体が結んだ雇用契約書としては、極めて杜撰かつお粗末な内容である。さらに言えば、町の予算額に合わせるかたちで、労働者に与えられた権利を奪う身勝手な契約だった。

 こんな不当な条件を押し付けられた田代さんが気の毒でならないが、この法令違反の雇用契約書について、いまだに町は調査も検証もしていない。さらには、田代さんの過重労働死が認められても、町は「過重労働はなかった」と主張し、公務災害の認定事実を踏まえた調査をせず、再発防止策も講じていない。

 このままでは、また町職員の命が失われるかもしれない。田代さんが亡くなったあとの町の対応を見ていると、そう思わざるを得ない。

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事
これらの記事も読まれています
記事URLをコピーしました