遺族、町の主張「暑熱環境がなかった」に「失当」と反論 屋久島町営牧場 過重労働死訴訟
町、死亡当時「夏にしては過ごしやすい気温」➡
遺族、熱中症予防指針「暑さ指数」で「危険」の状況下で肉体労働に従事と主張
公務災害認定で専門医師、暑熱環境を理由に「業務による肉体的負荷は強度」と判断
【上左】屋久島町営長峰牧場の衛星写真(Google Earth より)【上右】鹿児島地裁(裁判所ウェブサイトより)【下】屋久島町役場
2019年8月に屋久島町営の長峰牧場で町職員だった田代健さん(当時49)が公務中に死亡し、過重労働で心筋梗塞を発症したことによる公務災害と認定されたことを受けて、田代さんの遺族が屋久島町(荒木耕治町長)を相手取り、慰謝料など約7000万円の損害賠償を求めた民事訴訟――。
この訴訟の第5回口頭弁論で、田代さんが亡くなる前後の2カ月間の「暑熱環境」について、町が「夏にしては過ごしやすい気温であった」と主張していることに対し、遺族側は熱中症の予防指針となる「暑さ指数」では「危険」や「厳重警戒」の日が大半で、「暑熱環境そのものがなかったという被告の主張は失当」だと反論した。
町「平均気温は総じて27℃から28℃代で推移」
町は鹿児島地裁に提出した準備書面で、気象庁が公表した2019年7月と8月の気象データを根拠に、一番高い最高気温は8月23日の32度で「30℃を若干超える程度に過ぎず、平均気温は総じて27℃から28℃代で推移している」と指摘。それを踏まえ、「寧ろ夏にしては過ごしやすい気温であったのだから、暑熱環境そのものがなかった」と主張した。
遺族、冷房設備のない作業場「暑熱環境は著しいものがあった」
それに対し遺族側は、気温や湿度、日射などを基にした「暑さ指数」を調べると、田代さんが亡くなる前の約1カ月間において、すべての日が「危険(31以上)」または「厳重警戒(28以上~31未満)」だったと指摘。熱中症予防運動指針で「運動は原則禁止」とされる「危険」の状況下でも、「屋外作業、肉体労働(給餌の際は毎回、飼料準備及び運搬のため、20kg~80kgの飼料を扱う重筋労働に従事する。また母牛、仔牛の捕縛、移動、積込みも力を必要とする労働である。)を頻繁に」行っていたと主張した。さらに、屋内でも冷房設備のない状況で作業をしていたとして、「作業場における暑熱環境は著しいものであった」とした。
これらの労働環境から、遺族側は「暑熱環境そのものがなかった」という町の主張は失当であり、「湿度等も含めて熱中症等の予防・管理をすべき責務を負っている使用者の認識・主張としても極めて不合理かつ不適切である」と反論した。
専門医師、脱水で血栓ができやすくなり「心筋梗塞発症の要因」
2023年2月、田代さんの公務災害を認定した地方公務員災害補償基金の鹿児島県支部(支部長:塩田康一・鹿児島県知事)は、同基金の専門医師の「知見」として、「発症時期は8月で、連日気温の高い状況下で屋外作業を行っていたことから脱水も起こしやすく、脱水は血栓ができやすくなるため、心筋梗塞発症の要因にもなる」と説明。それを踏まえ、「本人の業務による肉体的負荷は強度なものであったと考えられる」と判断している。
環境省熱中症予防防止サイト
