屋久島町議選2025

無力な「忖度議会」、住民が自力で守った安房大ホール【御用議会の四年間】⑧/屋久島町議選2025

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南部の文化施設、町長の廃止方針を議会も容認 → 南部住民が直談判、町長が一転して存続決定

南部地域の町議3人も廃止に同調

屋久島町議会=2025年6月、屋久島ポスト撮影
 

 屋久島町にはいま、コンサートや演劇ができる大ホールを備えた文化施設が二つある。いずれも合併前の旧上屋久町と旧屋久町がそれぞれ建てたもので、両町があった島の北部と南部の両地域に位置しているが、二つとも老朽化で建て替えや改修などの再整備を迫られている。

 ところが、町は住民に広報しないまま、内々に南部地域の安房にある屋久島町総合センター・大ホールの廃止を決定。そのうえで北部地域の宮之浦に、コンサートや演劇、スポーツなどができる「ホール兼アリーナ」などを備えた「多目的交流センター」を建設することを決めていた。

老朽化で大ホールの利用が停止されている屋久島町総合センター=屋久島ポスト撮影

議会、大ホール存続を求める住民の陳情を不採択
 屋久島は山が多く、丸い島を囲むように各集落が点在し、どこに行くにも島の円周道路を通らなくてはならない。島を南北に縦断できる道はなく、南部地域から北部地域の宮之浦に路線バスで行くには、最大で一時間半はかかる。それゆえ、もし文化施設が宮之浦だけに集約されれば、南部地域の住民たちが不便になることは目に見えていた。

上空から望む屋久島の全景

 そのような状況のなかで、屋久島町文化協会の会長は2023年5月、老朽化で利用停止になっている安房大ホールの改修を求める陳情書を屋久島町議会(議長・石田尾茂樹)に提出。「廃止、取り壊し等によって安房地区から同規模の文化ホールが逸失することのないよう、お取り計らいください」と要望した。

 だが、町議会は2024年3月、この陳情書を反対多数で不採択にした。当初、議長の石田尾を含めない採決では反対7人、賛成7人の同数だったが、最終的に石田尾が反対に回り、陳情書は僅差で退けられることになった。

 反対した町議のなかには、南部地域に居住する日高好作、相良健一郎、緒方健太の名前もあった。もし、この3人が賛成していれば、町長の荒木耕治ら町幹部に対し、安房大ホールを守りたいという願いを届けられたとあって、南部地域の住民にとっては納得できない結果だった。

屋久島町総合センターの存続を求める陳情について、各町議の賛否を示した町議会YouTubeチャンネルの画面。反対7人、賛成7人の同数となり、最終的に石田尾茂樹議長が反対して不採択となった

南部住民、陳情書で町長と直接交渉
 この町議会の決定について屋久島ポストが報じると、それまで安房大ホール廃止の方針を知らなかった住民たちが声を上げ始めた。南部地域にある安房や平野など6地区の区長が荒木に陳情書を出し、安房大ホールの修繕と存続を求めたのだ。そして、もし安房大ホールを廃止するのであれば、これから建てる多目的交流センターは宮之浦ではなく、南北の中間地点に位置し、町役場がある小瀬田地区に建設して、「全町民が平等かつ公平に利用できる」ようにすることを要望した。

町長一転、大ホール「閉めることは考えていない」
 南部地域で暮らす住民の思いが詰まった陳情書は、その後に大きな力を発揮した。

 9月に荒木ら町幹部と住民の意見交換会が開かれると、町はそれまでの方針を一転。大勢の住民を前に、荒木は「これ(安房大ホール)を閉めることは考えていない」としたうえで、改修に1~2億円が必要になることから、「イスをそのまま使ったり、緞帳を簡易な幕にしたりして、やれるところから改修し、使える方向でやりたい」と述べたのだ。

屋久島町総合センター・大ホールの存続をめぐる意見交換会で、住民と向かい合う荒木耕治町長ら町幹部=2024年9月26日、屋久島町安房の安房公民館、屋久島ポスト撮影

町、住民に広報せず大ホール廃止を決定
 まずは町が、住民に知らせることなく安房大ホールの廃止を決定し、それを町議会が、町文化協会の会長から出された陳情書を退けて認めた。だが、それにもかかわらず荒木町長が方針を一転させたのは、住民が自ら声を上げたからだ。その過程で住民が町議会を頼ることはなく、すべて自分たちの力だけで、安房大ホールの存続を勝ち取ったのである。

 それでは、なぜ町議会は住民の声を聞かないまま、町が決めた安房大ホールの廃止を認めてしまったのか。もし、南部地域に居住する日高、相良、緒方の3人が陳情書の採択に賛成していれば、大ホール存続を求める住民の声は、すぐに荒木へ届いたはずである。

 ここからは推察になるが、町議会のなかで何らかの忖度が働いたのではないか。それも、一度は荒木が決めた安房大ホールの廃止について、それに反対する住民の声を聞くわけにはいかない裏事情が、町長を支持する町議たちにあったのではないか。

屋久島町総合センター・大ホールの廃止について答弁する荒木耕治町長=2024年6月11日、屋久島町議会YouTubeチャンネルより

町民の声より町長の意をくむ町議会
 いずれにしても、住民が町議会の力を借りることなく、自分たちが大切にしている文化施設を守り切った事実は極めて重い。なぜなら、住民のために存在しているはずの町議会が、結果として住民の声ではなく、荒木の意をくんでいたことがわかったからだ。

 民主主義の基本は多数決で、その根拠とすべきは住民の声である。だが、屋久島町議会の場合は、とても怪しい。町議選までは住民の多数決なのだが、そこで選ばれた町議たちの大半は、いつも荒木の顔色をうかがっているようにみえる。

◇     ◇     ◇

 9月21日に投開票される屋久島町議選を前に、新たに選ばれる町議たちに期待を寄せながら、現議会の4年にわたる任期を振り返ります。

※この連載は敬称略で掲載します。

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