【取材後記】取材の「モラル」と「倫理」はマスコミにしかないのか?/編集委員会
フリージャーナリストや独立メディアなどの議会取材を排除するのか、それとも認めるのか――。
その問題を協議する屋久島町議会の議会運営委員会(日高好作委員長)を取材していて、町民の代表が集う町議会で、こんなにも差別的な発言が出るとは思ってもいませんでした。
「マスコミにはモラルと倫理規程がある」
中馬慎一郎委員は「日本新聞協会などの加盟社は一定のモラルがある」
榎光徳委員は「日本新聞協会とかは日本を代表する団体であって、そこにはしっかりとした倫理規程がある」
こう言って、誹謗中傷などを未然に防ぎ、平穏に議会を運営するために、日本新聞協会などに加盟するマスコミだけに議場での撮影と録音を許可すべきだというのです。
つまり、これらの発言は、マスコミに所属していないフリージャーナリストや独立メディアなどには「モラル」や「取材倫理」がないので、議場で取材をしてもらっては困るということです。そして、委員長を除く委員6人のうち、なんと5人がその意見に同調して、マスコミだけに取材を許可することを決定してしまいました。
福島原発事故を詳報した日隅弁護士もフリージャーナリスト
しかし、本当にマスコミ以外の取材者を完全に排除してもいいのでしょうか。
本日6月12日、私たち屋久島ポストは、表現の自由や国民主権の促進などに貢献した個人や団体を顕彰する「日隅一雄・情報流通促進賞2022」の表彰式に出席しますが、この賞を創設した故日隅一雄弁護士(享年49歳)は、市民の知る権利を守る活動に尽力したフリージャーナリストでもありました。
2011年3月11日の東日本大震災で発生した福島第一原発事故の後は、連日にわたって東京電力本社で記者会見を取材し、放射能汚染水の海への放出などについて、マスコミが伝え切れない詳細な情報を報道しました。その取材が進むなかで、末期の胆嚢ガンと診断されましたが、それでも計110日間にわたって会見取材をしたほか、講演や執筆の活動も継続。日本が初めて経験した未曾有の原発事故について、独自のネットメディアなどを通じて、広く情報を伝え続けた末、2012年6月12日、志半ばで亡くなりました。
日隅氏に「あなたは報道ではない」と取材拒否できますか?
もし、いまも日隅氏がご健在で、「ぜひ、世界自然遺産・屋久島を預かる町の議会で、どんな議論をしているのか取材がしたい」と言われたら、屋久島町議会はどうするのでしょう。いまのまま、マスコミだけに議会取材の便宜を与え続けるのであれば、石田尾茂樹議長はこう言って、日隅氏の取材を断らなくてはなりません。
「日隅さん、あなたは日本新聞協会などの加盟社に所属していないので、報道とは認められません。取材は許可できないので、カメラと録音機を持って議場から出て行ってください」
そして、その理由は、議運の中馬委員と榎委員が発言したように、フリージャーナリストや独立メディアなどには、マスコミのような「モラル」と「取材倫理」がないためとなります。
【ライブ配信】日隅一雄・情報流通促進賞2022表彰式
※6月12日午後1時~
マスコミだけに取材許可は市民への差別
マスコミだけに議会取材を許可し、そのほかの取材者をすべて排除する屋久島町議会の決定は、この情報化社会のなかで時代錯誤であると言わざるを得ません。すでに、そんな時代ではありませんし、そもそも、マスコミだけに取材許可の便宜を与えることは、その人が所属する団体や組織によって、誰もが平等であるはずの市民を差別することになるのです。
しかし、それでも屋久島町議の皆さんは、フリージャーナリストや独立メディアなどを排除し続けるのでしょう。「モラル」と「取材倫理」がなく、「誹謗中傷」されてからでは手遅れになるとして。

