取材後記

【取材後記】荒木町長、深刻な「宿題」を抱えたまま出馬表明 屋久島町長選2023

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虚偽領収書、補助金不正、町長交際費、町営牧場の過労死問題など

すべて未解決のまま4選めざし出馬表明
取材後記)出馬表明

屋久島町議会の一般質問で、町長選への出馬を表明した荒木耕治町長(2023年6月7日、屋久島町議会YouTubeチャンネルより)

 まもなく任期を終える屋久島町の荒木耕治町長が、今年10月の町長選に出馬して4選をめざすことを表明した。もし当選すれば、旧上屋久町長だった父健次郎氏の3期を超える「大台」に乗ることになり、16年の長きにわたって屋久島町を治めることになる。

 それにしても、荒木町長の3期目4年間を振り返ると、その船出から自身を含む町幹部らによる出張旅費不正精算問題が発覚し、さらに補助金不正請求や町長交際費といった公金をめぐる問題などが続いた。どれも未解決の問題ばかりで、荒木町長はたくさんの「宿題」を抱えたまま4選に挑戦することになる。

 実にさまざまな宿題があるが、すぐに思い浮かぶのは次の5点だ。

虚偽領収書の発行経緯など未解明

 岩川浩一前副町長や岩川俊広元議長らによる虚偽領収書を使った出張旅費不正精算の問題は、実際の航空運賃より高額な領収書が発行された経緯などが未解明のままだ。岩川前副町長は「見積もり段階の領収書」、岩川元議長は「予約した時にもらった領収書」などと釈明したが、見積もりや予約で領収書が発行されることはなく、虚偽の説明をしていることは明らかである。

 そして、虚偽領収書の不正問題は一般職員にまで広がり、少なくとも計15枚の虚偽領収書が同じ旅行会社から発行されていたことが判明した。そのなかには、町役場の「金庫番」だった元会計課長による不正精算もあり、杜撰な公金管理の実態が明らかになった。

 しかし、町監査委員は虚偽領収書の発行経緯は「監査の対象外」と言って、まったく調査しなかった。さらに、町議会は不正を調査する百条委員会の設置案を計5回も否決して、一連の不正を有耶無耶のまま放置し続けている。

領収書
岩川浩一前副町長が出張旅費の精算で提出した虚偽領収書

補助金不正の住民訴訟

 水道工事が未完成の段階で、すべての工事が完成したとする虚偽の報告書を提出して、国から補助金を不正に受け取った問題も、その責任の所在が不明のままだ。国に返還した約1668万円について町は、工期内に工事が終えられなかった業者の責任だと主張。その一方で、工期内に工事が終わらないことを町は了承していたと反論する業者もいる。

 そしていま、その責任の所在をめぐる住民訴訟が続いているが、被告の町は、業者から聴き取りをした調査結果の公表を頑なに拒んでいる。原告の住民が証拠提出を求めても、町は「原告に有利な証拠は自らの責任で提出すべき」などと主張し続けている。

虚偽文書1
屋久島町が国に提出した虚偽の工事検査調書。工事が未完成の段階で、すべての工事が終わったとする虚偽報告をしていた

業者から補助金1460万円 未回収

 補助金不正をめぐる住民訴訟で、もし町に法的責任がないとする判決が出たとしても、国に返還した補助金を業者から回収するのは町の責任だ。すでに賠償に応じている業者もあるが、1業者が支払いに同意しておらず、約1460万円が未回収のままである。

 これを回収するには、町が業者を相手取って民事訴訟を起こす必要がある。だが、勝訴できるか否か、さらには勝訴したとしても実際に回収できるか否かは、まったく見通せていない。もし回収できなければ、その全額を町民の公金で負担することになる。

町長交際費の住民訴訟

 町長交際費で国会議員らに続けていた高額贈答についても住民訴訟になっている。特に問題となっているのは、自民党の森山裕衆院議員(鹿児島4)に対する少なくも計50万円分の贈答だ。高級焼酎やイセエビといった魚介類など、1件で数万円~10万円分の贈答が続けられており、原告の住民は「社会通念上妥当と認められる額を逸脱している」と主張して、荒木町長に返還を求めている。

 これらの贈答について、当初、荒木町長は不適切だったと認めて、金額や頻度を見直すと取材に答えていた。ところが、この問題が町議会の一般質問で取り上げられると、贈答で「町に大きなメリットがあった」などと述べ、一転して「妥当な贈答」だったと主張。住民訴訟でも同様の主張を続けている。

 それに対し鹿児島地裁は、なぜ森山衆院議員に高額な贈答を続ける理由があったのか、詳細に説明するよう町に求めている。

森山議員2
荒木耕治町長が森山裕衆院議員に高級焼酎36本を贈り、約10万円を支出した際に作成された交際費使用伺い

町営牧場 過労死問題

 20198月に屋久島町営の長峰牧場で公務中に亡くなった男性職員(当時49)の過労死問題も、町は他人事にように放置している。地方公務員災害補償基金の鹿児島県支部が今年2月、過重労働で心筋梗塞を発症したことによる公務災害と認定したにもかかわらず、荒木町長は詳細な結果報告を同基金から受けることもなく、町議会でお悔やみの言葉すら述べていない。公務災害が認められたとなれば、町は再発防止策を講じなくてはならないが、それも放置したままである。

 遺族の証言や同基金の報告などによると、亡くなった職員は町から指示を受け、雇用契約書で決められた週40時間の勤務時間に合わせる形で、勤務記録の改ざんを求められていた。だが、実際には長時間労働が続いており、亡くなる3日前までの労働は連続で約50日間もあり、発症前1カ月間の時間外勤務は約81時間だった。さらに、休暇の取得状況として記録された休日数は、亡くなるまでの半年間でわずか3日のみだった。

 そして、同基金は「時間外勤務を含めた業務配分を現場の職員に任せ、そもそも業務命令権者として主体的に勤務時間を管理する体制になっていなかった」と結論づけている。

 それにもかかわらず、荒木町長は沈黙を続けている。遺族にとっては、大切な家族を失った過労死の問題であり、このまま不問にすることはできないであろう。

長峰牧場
屋久島町営長峰牧場の衛星写真(Google Earth より)

 ざっと挙げただけでも、荒木町長は深刻かつ重要な宿題を、これだけ多く抱えている。今年10月の町長選までに、これらの問題を解決する気があるのか否かわからないが、4期目に持ち越すことは許されない。

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  1. 安房よかにせ

     屋久島ポストの記事にあるように、数々の未解決問題を抱えながら6月定例議会で4期目に向けて出馬表明をした荒木耕治町長…。
     今年10月29日の町長選挙ほど、屋久島町民の民度が問われる選挙はない、と心から思います。
    <参考>
     民度…人民の生活や文化の程度。(広辞苑)

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