取材後記

【取材後記】訴訟への一本道を突き進む荒木町長 屋久島町長選2023

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公開の訴訟を回避せず提訴を促す町
無理筋の主張で和解金120万円に

体罰の謝罪もせず 山海留学生側と法的「全面対決」
【取材後記】訴訟の町①

【上】屋久島町山海留学の募集チラシ【下】大阪地方裁判所

 連載【訴訟の町】で、312年にわたる荒木町政で続いた6件の訴訟を振り返りながら思い浮かぶのは、「なぜ、訴訟になる前に問題を解決できなかったのか?」という疑問だ。

 そのなかでも特に疑問に感じたのは、山海留学で里親から体罰を受けた児童側との交渉で、訴訟になるのを避けることができたのに、あえて屋久島町が提訴される道を選択していたことである。

町教委に続き荒木町長も被害児童を「門前払い」

 この訴訟の詳細は、連載「竹刀と拳骨 体罰に砕かれた児童の夢【訴訟の町①】」に譲るが、20176月に児童の保護者が体罰の報告をした際に、町教委は「町は実施主体ではない」として何も対応しなかった。そこで、保護者は「二度と同じような被害者を出してはいけない」との思いで、同年9月に「謝罪、損害賠償請求、再発防止策等を求める連絡文」を町と里親に送付。それに対し、荒木耕治町長は「しかるべき法的手続き(訴訟手続き等)を経たのちに対応させていただく」などとする文書を送り、保護者も含めた児童側と法的に「全面対決」する判断をしてしまった。

せめて体罰に対する謝罪はすべきだった

 まずは、町教委の担当課長が「門前払い同様の対応」をしたのが問題ではあるが、その不手際を踏まえて送付された文書に対し、児童側と何も向き合うことなく、いきなり訴訟の提起を促したのは、町の対応としては最悪だったと言わざるを得ない。すでに里親は自身の体罰を認めており、いずれは法的な争いになるかもしれないが、この時点で、荒木町長ら町幹部が児童側と面会して、せめて体罰があった事実については謝罪すべきだった。

公開の訴訟で損なう屋久島町の信頼

 そして何より、できる限りの可能性をさぐって、民事訴訟に発展することを避けなくてはいけなかった。一度、この問題が提訴されれば、裁判は公開で行われるので、山海留学で体罰があった事実が広く知れわたる可能性がある。そうなると、せっかく好評を得ていた山海留学の悪評が流れるばかりか、屋久島町に対する一般社会の信頼を大きく損なうことなることは間違いない。

 その最悪の事態を避けるためにも、まずは荒木町長ら町幹部が、里親の体罰について謝罪する必要があった。そして、交渉が損害賠償の話に及んだ場合は、訴訟ではなく民事調停で和解すれば、町議会で認めてもらうこともできた。民事調停は非公開なので、マスコミによって広く報道される可能性も極めて低かった。

大阪地裁、町と里親の責任を認めて和解

 しかしながら、屋久島町は訴訟への一本道を突き進んでしまった。

 そして大阪地裁は、町にも一定の責任があると判断して、町と里親が解決金として計120万円を支払う和解が成立。体罰訴訟の結果や経過については、マスコミ各社によって報道され、山海留学と屋久島町の信用を貶める事態になった。

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山海留学の体罰訴訟が審理された大阪地方裁判所

町が募集 事業費も負担、それでも「町に法的責任ない」

 結果論であっても、訴訟の結果とその審理の過程は、重く受け止めて反省する必要がある。

 町は自身が山海留学の実施主体ではないことを理由に、「町に法的責任はない」との主張を続けたが、それはまったくの無理筋だった。山海留学の事業費は町の予算から支出され、留学生は町教委が窓口になって募集している。さらには、町は国土交通省に補助金を申請する際に、実施主体の欄に「屋久島町」と書いている。

 それらの事実を踏まえれば、実施主体である各校区の実施委員会と並んで、町も実質的な実施主体の一員であると判断されるのは当然である。

H31年度チラシ②
児童募集のチラシに示された山海留学実行委員会の連絡先。住所には「屋久島町教育委員会内」と記載されている

信じる人を間違えた荒木町長

 体罰を受けた児童側と真正面から向き合わず、法廷で対峙する選択肢しか持てなかった屋久島町には、心の底から失望する。そして、こんな判断や主張しかできなかった荒木町長には、なぜ、このような結果になってしまったのか、真摯に反省する姿勢が求められる。

 でも、おそらく荒木町長は内心で思うかもしれない。

この問題について、法的な判断をしたのは訴訟で指定代理人を頼んだ法務事務専門員なのだから、自分にそんなことを言われても困ると。

 つまり、荒木町長は信じる人を間違えたということなのだろう。

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