【取材後記】屋久島町の補助金不正請求は「道義的な責任」なのか?/編集委員会
第三者による調査なく、業者に責任転嫁は不公正
鹿児島県屋久島町が「口永良部地区簡易水道施設整備事業」で国から補助金を受ける際に、うその「工事完成日」などを報告した補助金不正請求事件をめぐり、町は国から返還命令を受けた計約1670万円について、その全額を問題の工事をした業者に請求する方針です。一方、町自身については、不適切な報告などで町政に混乱を招いた「道義的な責任」があるとするに留まり、返還命令を受けた責任は業者側にあると主張しています。
町に法的責任はないのか?
そこで、「道義的責任」を辞書で調べると、次のように説明されています。
「道徳や人として行うべき道理などから生じる、任務を行うべきであるということ、あるいは、任務を行わなかったことによる責めなどを意味する表現」
つまり、今回のケースでいえば、町がしっかりと業者を管理監督せず、大幅な工事の遅れを招いた責任があるということです。そして、それはあくまでも「社会的な責任」であって、返還命令に至った「法的な責任」ではないと、町は言いたいのでしょう。
補助金適正化法に違反した責任は町に
しかし、果たして、そうでしょうか。今回、厚生労働省が返還命令を出したのは、町が補助金適正化法に違反したことが理由です。補助金申請の期限までに、工事が終わっていないにもかかわらず、町が「すべての工事が完成した」とうその報告をしたことに対して、違法だから返還命令が出されたのです。逆に言えば、問題の工事をした業者は補助金の申請手続きには一切関わっておらず、返還命令に対する法的な責任はありません。
町は地方自治法にも違反
一方、町は業者に「債務不履行」があったと主張しています。両者で結んだ工事請負契約で、2021年3月までに工事を終えると決めたのに、その約束を守らなかったというのです。
それでは、どうして町は同年5月28日、工事が終わっていないことを知りながら、すべての工事代金を業者に払い切ったのでしょう。契約上の「債務不履行」がある業者に2300万円もの大金を支払い、さらに業者の債務を増やしているのですから、町が不適切な予算執行をしたことは明らかです。
地方自治法の232条5項では、「普通地方公共団体の支出は、債権者のためでなければ、これをすることができない」と定められています。つまり、町は地方自治法に違反する形で、国の補助金を業者に前払いしていたのです。
第三者の調査なく、町の主張は不公正
これらの経緯を踏まえると、町が業者に対して、契約上の「債務不履行」を理由に全返還額を請求するのは、無理筋の主張だと思われます。そもそも補助金適正化法に違反したのは町です。そして、業者に契約上の「債務不履行」があることを知っているのに、さらに2300万円もの工事代金を前払いしたとすれば、その時点で町側に「債権」を取り戻す意志はなく、なにか別の理由があったと考えるのが自然です。
それでは、なぜ町は補助金適正化法だけでなく、地方自治法にも違反する形で、強引に行政手続きを進めたのか。
その真の理由を解き明かすには、専門家を交えた第三者による調査をするしか、ほかに道はありません。これまで、町は役場内で身内だけの調査しかしておらず、町幹部による「今回の返還は業者に責任がある」との主張は、町側の一方的なものです。
なぜ、予算の繰り越しをしなかったのか?
そんな不公正な調査だけで、地方自治体である屋久島町が、民間の業者に全責任を転嫁することがあってはなりません。こんな一方的な主張だけで、もし業者が民事提訴されるようなことになれば、この町の信頼は大きく損なわれることでしょう。
そして、そもそもですが、業者が契約どおりに工事を終えていないと分かった2021年4月の時点で、町が正直に国に報告して謝り、予算の繰り越し手続きをしていれば、返還命令は避けられたと思われます。それでも、屋久島町は業者に全責任があると主張し続けるのでしょうか?
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