【取材後記】命を救う「SOS」を「雑談」と言い切る町役場 屋久島町営牧場 過重労働死問題
連続50日の労働、1カ月81時間の時間外勤務、半年で休暇は5日のみ・・・
こんな過酷な労働を強いられていたことに驚愕した。しかも、地方自治体である屋久島町役場が運営する牧場で・・・・・・。
2019年8月、屋久島町営牧場で働いていた男性職員(当時49)が公務中に亡くなった。それから3年半後の2月14日、地方公務員災害補償基金の鹿児島県支部が過重労働で心筋梗塞を発症したことによる公務災害と認定したのだが、その詳細な経緯を聴いて耳を疑った。
亡くなる3日前までの労働が連続で約50日間もあり、発症前1カ月間の時間外勤務は約81時間。さらに、休暇の取得状況として記録された休日数は、亡くなるまでの半年間でわずか5日のみだったという。約100頭も牛がいるのに、たった2人で飼育していたことにも驚いた。
亡くなる4カ月前に「予兆」
なぜ、こんな過重労働の果てに男性職員は亡くなったのか。そして、それを未然に防ぐことはできなかったのか。
実は職員が亡くなる4カ月前に、その「予兆」はあった。
一緒に働く別の職員が牧場を所管する産業振興課の課長を訪ね、「仕事がきついので、職員を増やしてほしい」と要請していたというのだ。だが、課長は「予算がなくて、すぐには無理だが、考えておく」と言ったまま、その後はなにも対応しなかったという。
そして、その4カ月後に男性職員は亡くなり、相方の同僚も過労がたたって肝炎を発症。2人はぎりぎりの極限状態で働いていたのだ。
現場職員の増員を要請されてから、職員が亡くなるまで4カ月。その間に増員や応援職員の派遣など、なんらかの対応をしていれば、人命が失われるという最悪の事態は避けられた可能性が高い。
町の主張は「法的責任はない」?
ところが、牧場からの増員要請について、この課長は「雑談」だと思っていた。
屋久島町は同基金の鹿児島県支部に提出した文書で、「雑談のような形で行われたものであり、取り立てて何らかの対応が必要なものとの認識は無かった」と主張。さらに「正規での形での勤務条件に関する交渉や地公法上の措置要求ではなく」「その後も同様の申し入れ等がなされた事実も無い」と説明しているという。
つまり、牧場職員の増員要請は、法的には無効であり、その後に正式な申し入れをしなかったのであれば、屋久島町に「法的な責任はない」というのが、町の主張なのだろう。
その一方で、過酷な労働環境に苦しむ職員2人は町に助けを求めていた。そして、その声が聴き入れられず、尊い人命が失われてしまった。
切り捨てられた「最後の声」
その命を救う最後の機会だった増員要請について、町と課長は「雑談」だったと言い切るが、果たしてそうだろうか。亡くなった職員にとっては、町に救いを求めた「SOS」であり、命をつなぐ「最後の声」だったと言えるのではないか。
この過重労働死問題について、まだ町は公式の発表をしていないため、荒木耕治町長ら幹部の見解はわからない。公務災害が認定されてもなお、増員要請を「雑談」と切り捨てるのかどうかも不明だが、3月7日に開会する町議会で、なんらかの説明があるはずである。
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屋久島町のために尽力された男性職員のご冥福を心からお祈りいたします。
合掌
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