【展望】補助金不正請求事件、担当職員の処分は棚上げのまま/屋久島ポスト
職員、決裁受けず勝手に公印押して虚偽報告 → 町、工事業者に対する訴訟の判決を踏まえて処分検討
事件発覚から3年9カ月、再発防止策も講じられず

屋久島町が国に提出した水道工事の検査調書。工事が未完成だったにもかかわらず、「契約図書に基づき良好に施工されている.(合格)」と記載されている
あの事件は「すでに終わった」と、多くの住民は思っているだろう。屋久島町役場の幹部や職員に至っては、「もう終わったことにしたい」と切望しているに違いない。
だが、町の水道工事をめぐる国庫補助金不正請求事件は、まだ終わっていない。工事が未完成の段階で、すべての「工事が終わった」と国に虚偽の報告をした担当職員に対して、どのような処分を科すのかが決まっていないからだ。
町、業者が約束を破って工事が遅延
この工事は2021年3月末までに工事を終わらせることが、国から補助金を受け取る条件だったが、実際に町が工事の完成を確認したのは、その年の9月初めだった。それにもかかわらず、担当職員3人は3月末までに全工事が完成したとする虚偽の実績報告書を提出し、4月に国から約1億1800万円の補助金を受給した。
この事件は2021年11月に屋久島ポストの報道で発覚したが、その後に続く町幹部の説明は、実に意外なものだった。「3月末までの工事完成」を決めていたのに、その約束を工事業者が破ったというのだ。そうなると、町に法的責任にはないということになり、荒木町長ら町幹部は町議会で、「すべての責任は業者にある」と主張した。

屋久島町が国への実績報告書に添付した「工事目的物引渡書」には、虚偽の工事完成日が期されていた(※黒塗りは屋久島町、モザイクは屋久島ポストがそれぞれ加工)
住民訴訟で町、職員が虚偽報告書を「独断で提出」と主張
その後、国は補助金適正化法違反を認定して、補助金の一部と加算金を含めた約1668万円の返還を町に命令した。だが、それでも町は「補助金返還の法的責任は工事の遅延を招いた業者にある」と主張したため、この問題を追及していた元町議が住民訴訟を提起して、荒木町長ら町幹部の法的責任を追及する事態となった。
そして、いざ住民訴訟が鹿児島地裁で始まると、被告の町は、またもや意外な主張をした。担当職員が国に実績報告書を出す際に、荒木町長や副町長、担当課長の決裁を受けずに、「独断で提出した」というのだ。さらに町は、担当職員が決裁に必要な町の公印を勝手に押していたという趣旨の説明をしたうえで、荒木町長ら町幹部には法的責任はないと主張した。
地方公務員法違反の可能性
担当職員が国に実績報告書を出すにあたり、町幹部の決裁を受けずに、町の公印を勝手に押していたとなれば、地方公務員法に違反する可能性が極めて高い。だが町は、この事件に対する懲罰委員会を一度も開いたことはなく、不正な事務手続きをした担当職員の処分を棚上げしたままにしている。
そこで、屋久島ポストは8月22日、町総務課に取材で今後の対応について尋ねてみた。すると、総務課の三角謙二課長は「工事業者を相手取り、損害賠償請求訴訟を起こす予定なので、その判決を踏まえて、担当職員の処分を検討する」という。
町は国に返還した補助金の全額を6業者に賠償請求したが、そのうち1業者は賠償に応じていない。そのため、町は未回収となっている約1330万円の賠償を求め、近く民事訴訟を提起する予定なのだ。
自浄能力なき町の司法頼み
この事件が発覚して、すでに3年9カ月が過ぎたが、担当職員の責任が明確になるまでには、さらに数年はかかる見込みだ。そして、その判決が確定するまで、町は再発防止策を講じることができないということになる。
司法に頼らなくても、自分たちの力で問題を解決できないものなのか。この事件の取材を続けながら、屋久島町が自浄能力のある自治体になることを願うばかりである。