入山協力金横領事件、被害額3100万円の弁済が完了
山岳部保全利用協議会の元職員、4月に1100万円を一括弁済 ➡ 事件発覚から5年で被害解消
町条例で収納する屋久島町「町に法的責任はない」
世界自然遺産・屋久島の自然環境を守る目的で、屋久島町が国内外の登山客から集めた入山協力金3100万円の横領事件で、事件を起こした屋久島山岳部保全利用協議会(会長・荒木耕治町長)の元職員が今年4月、横領した全額の弁済を終えていたことが、町役場の観光まちづくり課への取材でわかった。2019年2月に被害が判明した当初、町は寄付金の残高で被害額を補填するなどして批判を受けたが、事件の発覚から約5年を経て、すべての被害が解消されたことになる。
町条例で協力金を収納 事件当時は年6000万円
入山協力金は町の条例に基づいて、2017年度に導入された制度だ。町は環境省や林野庁、鹿児島県などと共につくる同協議会に収納業務を委託し、登山客から日帰りで1000円、山中泊で2000円を任意で収納。主に山小屋のトイレにたまったし尿の運搬や、登山道の整備などに役立てている。事件当時は、年間に約5万人が協力しており、寄付金の合計は年約6000万円だった。
町、通帳確認を怠るなど杜撰な管理体制
観光まちづくり課などによると、事件発覚から数カ月後に、元職員は被害額の半分ほどを弁済。その後は毎月10万円ずつ町に入金を続け、今年4月2日に約1100万円を一括で弁済し、被害額のすべてを完済したという。
この事件をめぐっては、協力金の会計業務を協議会の元職員1人だけに任せたり、町の担当課職員が協力金を管理する通帳の確認を怠ったりするなど、町の杜撰な管理体制に批判が集まった。
入山協力金の横領事件について、記者会見で謝罪する屋久島町の荒木耕治町長(左端)ら屋久島山岳部保全利用協議会の幹部(2019年2月25日、屋久島町役場)
国と県も入る協議会、任意団体を理由に「法的責任ない」
2019年2月に被害が判明したのち、協議会の会長を務める荒木町長は、環境省や林野庁、鹿児島県などの関係者を集めて臨時総会を開き、「任意団体の協議会に法的責任はない」ことを確認。協議会は町内会や市民グループなどと同じ任意団体で、法的な責任が取れない「権利能力なき社団」というのが理由だった。
町、寄付金の被害を寄付金で補填
その一方、町議会で管理責任を問われた荒木町長は、「協議会の職員が起こした事件なので、町には法的責任はない」と主張。さらに、被害額を町の一般財源から補填することなく、前年度までに残っていた寄付金の全額である約2700万円を使い、損失の穴埋めをした。
入山協力金横領事件を受けて、屋久島山岳部保全利用協議会は臨時総会を開き、任意団体であることを理由に「協議会に法的責任はない」ことを確認した。中央は荒木耕治町長(2019年3月15日、屋久島町役場)
全国から批判「世界遺産という金のなる木に群がる金の亡者」
町の条例に従って協力金を集める町、そして町から協力金の収納業務を委託された協議会が、そろって「法的責任はない」と主張する事態を受けて、町内外の批判は高まった。横領事件の記事が公開されたヤフーニュースには、「世界遺産という金のなる木に群がる金の亡者」「自然を商材にした商売島」といったコメントが1000件以上も投稿されるなど、町には厳しい非難の声が寄せられた。
町は現在、再発防止策として警備保障会社の集金管理システムを導入している。だが、協力金の収納業務については、事件前と同じく屋久島山岳部保全利用協議会に委託しており、法的に責任が取れない体制のまま協力金制度を続けている。
2019(平成31)年2月に発覚した、この入山協力金横領事件に対する当時の屋久島町の対応の仕方ほど、法令遵守意識の低さを露呈した事案はなかった、と私は今でも思っています。
その理由は、「世界自然遺産屋久島山岳部環境保全協力金条例」に違反して、被害額の一部を基金から支出しているからです。
その条例第10条は、基金の処分について以下のように規定していますが、(1)から(8)までの項目に、この事案に該当するものがありますか?
(処分)
第10条 基金は、次に掲げる事業に必要な経費の財源に充てる場合に限り、一般会計歳入歳出予算の定めるところにより、これを処分することができる。
(1) 山岳トイレの維持管理経費
(2) 携帯トイレブースの維持管理経費
(3) 登山道(トロッコ道も含む)の点検及び軽微な補修費
(4) 山岳地域の安心安全のための諸活動にかかる経費
(5) 奥岳をはじめ山岳地域の普遍的価値を損なわないマナーや利用ルールの啓発にかかる経費
(6) 協力金の収納にかかる経費及び事務局経費
(7) 町道荒川線のマイカー規制等に係る経費
(8) その他山岳部の自然環境を良好に保全する経費
参考までに、「世界自然遺産屋久島山岳部環境保全協力金条例」の全文です。興味のある方は、覗いてみてください。
https://en3-jg.d1-law.com/yakushima/d1w_reiki/H427901010031/H427901010031.html
最後に、町当局の条例違反をチェックできなかった当時の町議会も、同罪との謗(そし)りを免れないと思います。