共同通信社の情報誌、「屋久島ポスト」の紹介記事を掲載

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「屋久島発、新たな市民メディア ブログを駆使して行政監視」

不正が続く屋久島町政に対する調査報道の活動を伝える

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共同通信社が発行する「Kyodo Weekly」の表紙(左)と「屋久島ポスト」の活動を紹介する記事(2022年9月19日号)

 屋久島の住民有志が運営する調査報道メディア「屋久島ポスト」の活動を紹介する記事が919日、共同通信社が発行する週刊情報誌「Kyodo Weekly(2022919日号)に掲載された。「屋久島発、新たな市民メディア ブログを駆使して行政監視」と題して、屋久島ポストの共同代表が執筆。不正や不祥事が絶えない屋久島町政の問題を背景に、住民が調査報道を始めたきっかけや、「島民記者」による取材活動の様子などを伝えている。

 記事の全文は以下のとおり。

「屋久島発、新たな市民メディア ブログを駆使して行政監視」(Kyodo Weekly 2022919日号)

 樹齢数千年の巨大杉が鎮座する鹿児島県の屋久島町で昨秋、調査報道メディア「屋久島ポスト」が創刊した。世界自然遺産の島で、なぜ調査報道なのか? 背景には、島を預かる町役場での絶えない不正がある。幹部がニセの領収書などで出張旅費を着服しても、調査もせずに不問にしてしまう。そこで、世界自然遺産にふさわしい島にするため、島民がブログで行政監視を始めた。

「出張で普通運賃の航空券を払い戻し、格安の高齢者割引で買い直して、差額を着服したことはあるか?」

 2019年末の町議会で、荒木耕治町長は町議から問われ続け、平然と3回、「ありません」と否定した。

荒木町長2

航空券の高齢者割引の利用を否定する荒木耕治町長。その半月後、この発言は虚偽答弁だったと認めて謝罪した(2019年12月10日、屋久島町議会)

 フリーの取材者として傍聴していた私は驚いた。事前取材で着服の情報を得ており、定番の「記憶にございません」という答弁を予想していたからだ。

 実はこの時点で、着服額は200万円近くになっていた。それゆえ、私やマスコミが追及を続けると事態は一変。町長は記者会見を開き、それまでの完全否定を一転させて謝罪した。

荒木町長会見1
出張旅費不正問題について記者会見で謝罪する荒木耕治町長(2019年12月26日、屋久島町内のホテル)

 その後、町の出張記録を開示請求すると、副町長、議会の議長、副議長が実費より高い航空券代が書かれたニセの領収書で精算していたことも判明。町長はじめ町のトップ4人に不正が広がる前代未聞の事態となった。

 だが、町議会の大半は町長派だ。ニセの領収書について、副町長は「見積もりの領収書」、議長は「予約の領収書」と釈明。町議会は不正調査の百条委員会設置案を3回も否決し、町長らによる一連の不正を不問にした。

領収書

岩川浩一副町長(当時)が不正精算で使ったニセの領収書。実費より高額の料金が記載され、但し書きの経路も虚偽の内容だった

 一方、住民団体は町長ら4人を告発し、詐欺の容疑が認められた。だが、減給などで社会的制裁を受けたとして起訴猶予となり、真相は明かされなかった。

 その後もニセの領収書はさらに見つかり、一般職員にも不正が及んでいることが判明。だが、ニュースの旬は過ぎ、マスコミはどこも取材しなくなった。

 「自分たちで不正を報道する市民メディアをつくりましょう」

 昨年夏、不正を追及しても取材されなくなった住民団体の鹿島幹男代表が、私に声をかけてきた。島民が記者となり、私がデスクとして記事を書く。不正が続く島では名案だと感じた。

 すぐに有志6人が集まり、誰でも簡単に使えて読めるように、無料のブログで情報発信することを決めた。そして、広く親しまれ、覚えやすい名称として、「屋久島ポスト」と名づけた。

取材)屋久島ポスト

補助金申請で虚偽の報告書を出した問題について、荒木耕治町長(左)に取材する「屋久島ポスト」の鹿島幹男・共同代表(2021年12月1日、屋久島空港)

 取材を始めると、島民記者の実力はすごかった。移住者にはかなわない人脈があり、続々と情報が入る。そして、初の特ダネは、町の水道工事をめぐる補助金不正請求事件に決まった。

 住民から「年度末の工期なのに、お盆を過ぎても工事をしている」との情報を得て、町の工事記録を開示請求した。すると、補助金の受給要件に合わせるために、工事が未完成の段階で、「全工事が終わった」とする虚偽の報告書を国に提出していたことが判明。さらに、工事代金を前払いした違法支出も発覚した。

虚偽文書1

屋久島町が国に提出した虚偽の検査調書。工事が未完成でありながら、「契約図書に基づき良好に施工されている(合格)」などと記載されている

 初報を出すと、沈黙していた町が動き、国に虚偽報告の事実を伝えた。続いて町議会は工事の決算を認定せず、国は補助金適正化法違反を認め、町に1668万円の返還命令を出した。

 この取材では、厚生労働省の担当者から「屋久島ポストが参考になり助かった」と言われ、ブログの可能性を感じた。当初は信用してもらえるのかと不安だったが、新聞と違って字数の制限がなく、町議会の様子も詳細に伝えることで、ブログでも報道メディアになると確信した。


厚生労働省
厚生労働省が入る合同庁舎(厚労省ウェブサイトより)

後を絶たない不正の連鎖

 旅費不正問題では、かつて開示請求した16千枚の出張記録を調べ直し、ニセ領収書の検証記事を連載。さらに現職町議や元会計課長らの不正精算も見つかり、9月議会では、5回目となる不正調査の百条委設置案が提案される予定だ。

 だが、風当りは強い。人口1万2千の全町に私たちを誹謗中傷するビラがまかれ、ネットには「武田、鹿島の人間性の悪さを知らなさすぎ」「島から出て行け」と投稿された。町議会は私たちの議場取材を拒否している。

石田尾議長制止

「屋久島ポスト」を議場から排除する理由を質問する町議に対して、発言を制止する屋久島町議会の石田尾茂樹議長(2021年12月7日、屋久島町議会)

 一方、表現の自由や国民主権の促進に貢献した活動を顕彰する「日隅一雄・情報流通促進賞」が6月、屋久島ポストに贈られ、情報公開制度とブログを駆使した報道が高く評価された。

 小さな町にマスコミの目は届かず、住民が行政監視をするしかないのが現状だ。屋久島ポストがモデルケースとなり、全国の地域社会に新たな「ポスト」が広がることを願っている。
南日本新聞記事4
屋久島ポストの「日隅一雄・情報流通促進賞2022」奨励賞の受賞について報じる南日本新聞記事(2022年6月14日付)

■「Kyodo Weekly」掲載記事(PDF)

掲載記事

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  1. 小脇清保

    共同通信社は言うまでもなく、日本の中心的な報道機関ですよね。
    屋久島ポストの日頃の地道な報道活動が評価されて、目に止まった結果です。
    ネットに関心の薄い人やお年寄りまでも、浸透する素晴らしい機会の到来と喜んでいます。
    確実な取材と、真実を偽りなく記事にする姿勢はどんな横槍も入り込む隙はありません。
    この事に自信を持って更なる活躍を期待いたします。

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