【取材後記】なぜ氏名を黒塗り？ お世話になった国会議員なのに／編集委員会

国会議員への贈答で「町に大きなメリット」なのに氏名は非開示

森山事務所「『町民の大事な公金』での贈答は常識の範囲内で」と要望

「なぜ黒塗り？　国会議員は公人中でもトップ公人」

「町長・副町長の言うように、町に多大な利益があったなら、町民全員がその国会議員に感謝の言葉を掛けなくてはならないのに、黒塗りだとできませんけど」

　読者から寄せられたコメントを読んで、ハッと気づかされた。

　屋久島町のために尽力している国会議員の氏名を、どうして町は黒塗りにして情報開示する必要があるか。

荒木町長、贈答で国会議員と「信頼関係」

 荒木耕治町長は贈答で国会議員と「信頼関係」を築き、交付金や地方債の恩恵を受けて「町に大きなメリットがあった」と言っている。それを踏まえると、その国会議員の氏名を広く町民に知らせて、町を挙げて感謝の気持ちを示さなければ、荒木町長の立場としては、かえって失礼になるのではないか。

 それにもかかわらず、荒木町長は「個人情報」を理由にして、町が「お世話になった」とする国会議員の氏名を黒塗りで隠している。それも町の情報公開条例や個人情報保護条例まで持ち出して、頑なに氏名の開示を拒み続けているのだ。


荒木耕治町長が衆院議員5人に焼酎を贈答した際に起票した「交際費使用伺い」の文書。「個人情報」を理由に全員の氏名が黒塗りされ、贈答理由も記載されていない

屋久島町、「個人情報」を理由に頑なに非開示

 読者への言い訳になるが、屋久島ポストはこの黒塗りを容認したわけではない。再三にわたり、町総務課に対して「国会議員は公人中の公人であり、個人名は開示されるべきだ」と主張してきた。だが、それでも町が拒むので、鹿児島県情報公開・個人情報保護審査会に不服申立てをしたが、同審査会も町の主張を支持して、黒塗りでの非開示を認めてしまった。


荒木耕治町長が国会議員に贈答した焼酎。左から「三岳」「三岳原酒」「無何有」「愛子」「水ノ森」

多数の地方自治体は個人名まで開示

　一方、全国の地方自治体を見わたすと、贈答先の個人名を開示しているケースが数多く見られる。その一例として、岐阜県は知事などの交際費の情報公開について、次のようにウェブサイト上に記載している。

「交際又は交渉等の相手方、支出区分、支出年月日、支出金額、支出理由の各事項について、ホームページ上で公開します」

　これと同様に、鹿児島県や鹿児島市なども同様の基準で個人名まで公開しており、交際費を含む予算の執行に対して、市民から疑念を持たれないように努めている。そして、相手先を非開示にするのは、病気見舞いなどプライバシーを守る必要があるケースに限られている。

　これは、ほかの自治体と比べて、特に屋久島町だけが個人情報を厳格に守るという条例を定めているわけではない。情報公開や個人情報保護の条例については、各自治体ともほぼ同じ内容であり、それにもかかわらず、屋久島町が相手先の氏名を一律に黒塗りしているのである。


荒木耕治町長が焼酎「三岳原酒」24本をまとめて贈答した際に起票した「交際費使用伺い」の文書。黒塗りされた贈り先は森山裕衆院議員で、森山事務所は「町長個人から贈答」との認識で、「名産品のPR用」として配ったとしている

森山事務所「(町長)個人からの贈り物」と認識

　それではなぜ、そこまで頑なに、贈答した国会議員の氏名を黒塗りにして隠す必要があるのか。

　もし、何らかの意図があるすれば、5年間で焼酎140本、少なくとも約50万円分の贈答を受けた森山裕衆院議員の事務所のコメントに、その答えが隠されているかもしれない。

 荒木町長からの贈答について、森山事務所は取材に「(町長)個人からの贈り物だとの認識だった」「屋久島の名産品のPRに努めている」と回答。さらに、「今後は『町民の大事な公金』での贈答品については、常識の範囲内での贈答につとめていただきたい」と要望している。

 つまり、森山事務所の見解は、荒木町長が「町民の大事な公金」で贈答しているのであれば、その内容は「常識の範囲」を超えており、今後は金額や頻度を改めるべきだということだ。

屋久島町長の交際費問題について答弁する荒木耕治町長(2022年9月13日、屋久島町議会)

「妥当な贈答」と森山衆院議員に言えますか？

　荒木町長が頼りにする森山事務所から、「非常識」と言われたも同然の贈答である。9月13日の町議会一般質問で、荒木町長は「(贈答は)妥当だと思っている」と答弁したが、政府与党とのパイプ役として頼りにする森山衆院議員の前でも、同じく「贈答は妥当でした」と言い切れるだろうか。

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