住民側「予定価格の設定を怠った違法な支出」と主張を追加 屋久島町海底清掃事業・住民訴訟
渡辺町議「町は適正な事業費を精査せず、業者の『言い値』で契約した」
【上】JTBパブリッシングが屋久島町に提出した見積書の一部【下左】海底清掃事業を請け負ったJTBパブリッシングが入るJTBグループのロゴとスローガン(Wikimedia Commons より)【下右】屋久島町役場
ふるさと納税で「屋久島の自然を守って欲しい」と寄付された1700万円を活用して、屋久島町が2022年度に実施した海底清掃を主体とする環境保全事業で、総事業費の大半が海底清掃そのものではなく、屋久島の観光情報を紹介するガイド冊子や動画の制作費に支出された問題をめぐる住民訴訟――。
この訴訟の第2回口頭弁論(11月5日)を前に、原告の渡辺千護町議は10月4日に準備書面を鹿児島地裁に提出し、町が予定価格を設定することなく委託業者のJTBパブリッシング(本社・東京都江東区)と業務委託契約を結んだのは、「予定価格の設定を定めた地方自治法と屋久島町契約規則に違反する支出だった」と主張した。
これで渡辺町議が指摘した町の違法行為は、次の3点になった。
➀屋久島町だいすき寄附条例違反(民法上の注意義務違反)
➁理由のない特命随意契約(地方自治法施行令違反)
➂予定価格の未設定(地方自治法および屋久島町契約規則違反)
鹿児島地裁に提出された準備書面を基に、屋久島ポストは渡辺町議が追加で主張した「予定価格の未設定」について、その詳細を以下に伝える。
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見積額がそのまま業務委託料に
屋久島町は2022年7月11日にJTBパブリッシングから見積書を取り、同社と業務委託契約を結ぶための契約伺い文書を作成。文書のなかで「標記の件について、見積書を徴した結果、別添のとおりの結果でした。見積価格が予算の範囲内でしたので、株式会社JTBパブリッシング代表取締役 社長執行役員■■■■と契約を締結してよろしいか」としたうえで、「契約金額」として、見積額と同額である1698万9918円と記載した。さらに、町は「業務委託料」を見積額と同額である1698万9918円と決めたうえで、7月13日に同社と業務委託契約を結んだ。
屋久島町がJTBパブリッシングと業務委託契約をする前に作成した契約伺い文書
予定価格の設定、地方自治法と町契約規則で規定
地方自治体が業務委託契約を結ぶ際には、業者から取った見積書を参考にして、契約額の上限となる「予定価格」を設定したのちに、その予定価格以下の金額を提示した業者と契約することが、地方自治法の第234条第3項で定められている。屋久島町においては、町契約規則の第11条で予定価格の設定を義務付ける規定があり、第24条と第25条に規定がある「随意契約」においても、同様に予定価格を設定することが定められている。
しかし、町は同事業の業務委託契約を結ぶ際に、地方自治法と屋久島町契約規則で定められた予定価格の設定を怠り、業務委託料として、JTBパブリッシングが提示した見積書と同額の1698万9918円で業務委託契約を結んだ。これはすなわち、同社が提示した見積額に対し、町が適切な金額であるか否かを精査することなく、同社の「言い値」のまま契約したことに他ならない。
JTBパブリッシングが屋久島町に提出した海底清掃事業の見積書
予定価格は「公共事業の支出を適正に抑えるため」
予定価格を決めるにあたっては、公共事業の支出を適正に抑えるために、複数の業者から参考見積もりを取るなどして、一般社会における適切な金額に設定することが求められる。それは今回のような特命随意契約でも同じであり、競争入札を実施しない場合であっても、業者が提示した見積額を精査する必要があるのは当然のことである。
また、町はJTBパブリッシングと業務委託契約を結ぶ際に作成した契約伺い文書のなかで、「見積価格が予算の範囲内でした」と記載して、同社と契約を結んだ。しかし、町が「予算の範囲内」と判断した根拠となる予定価格は設定されておらず、同社が提示した見積額がそのまま契約金額になったことは明らかである。
2024年度の海底清掃事業で屋久島町が作成した契約伺い文書。2022年度とは違い、予定価格に相当する委託設計額が定められた
一転、2024年度は予定価格を設定
2022年度の事業で予定価格が設定されなかった一方で、この事業から継続された海底清掃事業の3年目となる2024年度は、予定価格に相当する委託設計額が設定され、複数回にわたって入札をやり直し、事業費が大幅に抑えられる結果となった。
2024年度の海底清掃事業で、屋久島町は予定価格に相当する委託設計額を設定した(非開示部分は屋久島町が黒塗り加工)
町は2024年7月5日に町内の屋久島スキューバダイビング事業者組合から見積書を取ったが、事業費総合計の226万3800円(税抜き)が予定価格を上回ったため「不落」となり、再度の見積書を取った。
2024年度の海底清掃事業で、屋久島町が屋久島スキューバダイビング事業者組合から取った見積書。見積額が予定価格を超えたため、町は再見積もりを取ることになった
再見積書は同年7月24日に提出されたが、事業費総合計の128万400円(税抜き)が予定価格を超えたため再び不落となり、町は再々度の見積書を取った。
2024年度の海底清掃事業で、屋久島町が屋久島スキューバダイビング事業者組合から取った再見積書。見積額が予定価格を超えたため、町は再々見積もりを取ることになった
再々見積書は同年8月20日に提出され、事業費総合計の109万7800円(同)が予定価格を下回ったため、町は業務委託料を作業1回あたり30万1895円(※税込み)、海底清掃4回分の事業費総合計としては120万7580円(※同)と決めて、同組合に特命随意契約で業務を委託した。
2024年度の海底清掃事業で、屋久島町が屋久島スキューバダイビング事業者組合から取った再々見積書。見積額が予定価格を下回ったため、この見積額で町や組合と特命随意契約を結んだ
言い値で契約、事業支出1700万円は「屋久島町の損害」
2024年度は見積もりを3度やり直した結果、業務委託料が当初の226万3800円(税抜き)から109万7800円(同)に半減した。その一方で、2022年度は予定価格が設定されず、JTBパブリッシングの言い値であった1698万9918円(税込み)がそのまま業務委託料になった。この事実を踏まえると、2022年度に実施された同事業で町は、本来であれば契約前に決めるべき予定価格の設定を怠り、業者が提示した見積額を精査することなく業務委託契約を結んだということである。
よって、この事業で町がJTBパブリッシングと結んだ業務委託契約は、地方自治法および屋久島町契約規則に違反するもので、町は業務委託料として支払った1698万9918円は違法な支出であり、その全額が屋久島町の損害になっていることは明らかである。