【展望2024】あえて市民の側に立つ「草の根メディア」の信条

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行政監視の報道で「権力ある町」と「弱い立場の市民」を平等に

市民の信頼を裏切る町と対峙する報道
2024展望

 
2024年の新年が明け、年頭の「筆」ならぬ「キーボード」をたたくにあたり、昨年12月に聞いた学生たちの声が忘れられない。屋久島ポストの記事を題材にした大学の講義で、ジャーナリズムを学ぶ若者たちが寄せてくれた感想や共感、そして厳しい意見の数々だ。

 そのなかでも特に印象に残ったのは、「性善説」に立った、この指摘だった。

<私たち市民は、税金は正しく効率的に使われているだろうという甘い想定があるので、わざわざ見積書を情報公開請求しようと思わないし、文書が黒塗りにされていることにさえ気づかないと思う>

 屋久島町が実施した海底清掃を主体とした環境保全事業で、総事業費1700万円の大半が海底清掃そのものではなく、清掃活動を広報する費用に支出されていたことを伝えた記事に対する反応だ。町から情報開示された見積書が全面黒塗りになっていたことに対して、屋久島ポストが「市民の知る権利を侵害している」として町に抗議したと、記事では伝えていた。

 まだ、社会経験が少ない学生がゆえの意見かもしれないが、実はそう考えている一般市民は多いに違いない。なぜなら、選挙で認められた「選良」の首長であれば、「私たち市民の公金を無駄に使うはずはない」と信じてしまい、疑うことが難しいからだ。

海底清掃

【左】海底清掃事業の請負業者が屋久島町に提出した見積書。町が開示する際に内訳をすべて黒塗りして全面非開示にした【右】海底清掃の広報として、屋久島町が制作したユーチューブ動画の一場面

「性善説」が成り立たない屋久島町

 しかし残念ながら、屋久島町ではその「性善説」は成り立たない。昨年末に掲載した【回顧2023】などにもあるとおり、屋久島ポストには町の不正や不祥事に関する記事がたくさん掲載されている。

 町幹部らによる虚偽領収書を使った出張旅費の不正精算。国に虚偽報告をして補助金の返還命令を受けた補助金不正受給事件。そして、町営牧場での職員の過重労働死をめぐる損害賠償請求訴訟・・・・・・。

 これが「選良」である町長が治める地方自治体なのかと、とても信じられないほど多くの不祥事が続いている。つまり屋久島町は、若い世代も含めて、多くの一般市民の信頼を裏切っているということである。

市民にとって「公平公正」な報道とは?

 その一方で、屋久島ポストの報道を疑問視する、次のような意見もあった。

<ジャーナリストだけでなく、市民という二つの立場から地域密着型のメディアでジャーナリズム活動を行うことは、(町と市民の)双方にとって公正公平な立場ではなく、思考の偏りを作るので、避けるべきなのではないかと考えた>

 それに対して、私たち屋久島ポストはこう答えた。

<私たちが主な取材対象としているのは町役場と町議会です。屋久島ポストの報道が「市民」の目線に偏っていたとしても、それは権力側である町と対峙するものです。そもそも圧倒的な権力を持つ「町」と、権力を持たない弱い立場の「市民」を、報道によって同じ土俵に立たせて、両者の不平等を「平等」にするものであり、私たちの報道に問題はないと考えています>

「権力の陰で埋もれている小さな声を大きくする」

 さらに、あえて市民の側に立って報道する信条については、こうも説明した。

<ひと言では難しいですが、あえて言うとすれば、「権力の陰で埋もれている小さな声を大きくする」ということです。権力側には自身の主張を広める力がありますが、その傘下で暮らす市民の声は、権力側によって無視されたり、かき消されたりすることが多々あります。ジャニーズ事務所の性加害問題や宝塚歌劇団のパワハラなどはその典型で、権力の陰で被害に遭っている市民を救うためには、あえて市民の側に立って報道することは、極めて重要だと考えています>

 約1時間半にわたってジャーナリズムを学ぶ若者たちと向かい合い、あらためて市民の立場で行政監視の報道を続けることの難しさを実感した。「公平公正」「中立」をキーワードにして、私たちの報道を疑問視する意見にも触れ、とても学ぶことが多い講義だった。

 私たち屋久島ポストは、市民が自ら調査報道をして行政監視をする市民メディアだ。その目的は、「市民の権利が侵害されていないか」「市民の公金が不適切に使われていないか」といった視点で報道をして、誰もが安心して暮らせる「公平公正な社会」を築くことにある。

 あらたに迎えた2024年の一年も、その信条をしっかりと堅持して、市民による「草の根メディア」として報道を続けていく。

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