海底清掃問題

【視点】潜水1時間でごみ回収5トン相当は本当なのか? 屋久島町海底清掃事業・住民訴訟

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争点は予定価格の未設定などの違法性実際に回収したごみの総量

115日 鹿児島地裁で口頭弁論

法務事務専門員

【上左】屋久島町「ふるさと納税」のロゴ(町ウェブサイトより)【上右】鹿児島地裁(裁判所ウェブサイトより)【下】屋久島町役場

 ふるさと納税で「屋久島の自然を守って欲しい」と寄付された1700万円を活用して、屋久島町が2022年度に実施した海底清掃を主体とする環境保全事業で、総事業費の大半が海底清掃そのものではなく、屋久島の観光情報を紹介するガイド冊子や動画の制作費に支出された問題をめぐる住民訴訟――。

 この訴訟を提起した渡辺千護町議は、海底清掃事業への町の支出に複数の違法性があると指摘している。

JTBパブリッシングの「言いなり」で事業費を支出

 まず問題なのは、町が業務を委託したJTBパブリッシング(本社・東京都江東区)の「言いなり」になって、総事業費の1700万円を支出したことだ。

 公共事業を実施する際に、国や地方自治体は支出できる事業費の上限である「予定価格」を決めたうえで、業務を委託する業者と契約しなくてはならない。その理由は、複数の業者の見積もりを参考に適切な事業費を設定して、公金の支出を抑えるためだ。ところが町は、事前に予定価格を設定することなく、同社が提示した見積額と同額の約1700万円で業務委託契約を結んでしまった。

 これはつまり、予定価格の設定を定めた地方自治法および屋久島町契約規則に違反するという主張である。
再開示)見積書20231227
JTBパブリッシングが屋久島町に提出した海底清掃事業の見積書

「環境保全」の寄付金なのに「観光広報事業」に支出

 次に問題なのは寄付金の使い道だ。

 総事業の1700万円は、すべて「環境保全事業」に使ってほしいと寄せられたもので、寄付した人たちは寄付申込書で「世界自然遺産をはじめとする地域の環境保全に関する事業」を選択して、寄付金の使い道を明確に指定していた。だが、それにもかかわらず町は、1700万円の大半をガイド冊子や動画の制作といった「観光広報事業」に使った。

 これはすなわち、寄付金の使途を定めた「屋久島町だいすき寄附条例」に反した支出であり、その条例に違反した荒木耕治町長ら幹部には、民法上の注意義務違反があるという主張である。


【動画】屋久島町が環境保全の寄付金で制作した「海・山・川の繋がりで豊かな屋久島の自然を守るプロジェクト」の動画


出版が専門なのに海底清掃事業で特命随意契約

 そして最後の問題は、町が法的に定められた競争入札を実施することなく、この事業を提案したJTBパブリッシングと「特命随意契約」を結んだことだ。

 同社が独占的に町と契約できた理由は、これまで海底清掃事業を数多く手がけた実績があり、「余人をもって代えがたい業者」ということだった。しかし、同社は旅行大手JTBの出版部門を担うグループ会社で、専門は観光ガイドブックなどの出版事業だ。さらには、過去に海底清掃業務を請け負った実績もない。そうなると、特命随意契約を結ぶ条件を定めた地方自治法施行令に違反しているという主張である。
特別編集グルメ情報
屋久島町がJTBパブリッシングに制作を委託した観光ガイド冊子のグルメ情報ページ。「島のめぐみをいただきます」と題して、特定の飲食店を詳しく紹介している(モザイクは屋久島ポストが加工)

海底清掃事業に1700万円 ➡ 実際は潜水2時間のみ

 事業の違法性を問う裁判なので、これらの主張を根拠にして、渡辺町議は町と争っていくことになる。

 だが、違法かどうかは別にして、この事業で何よりも問題なのは、海底清掃がわずか2時間しか実施されていなかったという事実だ。1700万円もの寄付金を投じて、「海底清掃を実施する」と公言しておきながら、実際に海底に潜って清掃したのが2時間のみだったとなれば、浄財を町に託した人たちは「裏切られた」と感じるだろう。

潜水1時間、ダイバー1人で625キロ相当のごみを回収

 そして、さらに輪をかけて問題なのは、この事業で集めたとされる「ごみの量」だ。

 荒木耕治町長は町議会の一般質問で、20221124日に実施した1時間の海底清掃で集めたごみの量は、「1トン袋で5個分」だったと答弁している。だが、この日の清掃に参加したのは8人だけであり、たった1時間の潜水で5トン相当のごみが集まるとは思えない。単純に計算すると、1人あたり625キロ相当のごみを海底から回収したことになるが、どんなに経験豊かなダイバーでも、それだけ大量のごみを1時間で引き上げるのは不可能であろう。
業者撮影:ごみの写真5
海底清掃で回収されたごみの写真。屋久島町の委託業務として、業者が配信したウェブサイト記事に掲載されている(ocean+α「ふるさと納税で屋久島の海をきれいに! ダイバーたちが世界遺産の海を次世代に繋ぐ」より)

 この住民訴訟の審理が本格的に始まるのは、115日に鹿児島地裁で開かれる第2回口頭弁論からだ。まずは先に挙げた三つの違法性が争点になるが、それに加えて、実際に回収したごみの総量などが明らかになっていくことが期待される。

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