観光ガイド冊子と動画の制作は「環境保全事業」なのか? 屋久島町海底清掃事業・住民訴訟
寄付者「環境保全事業に使って欲しい」と指定 ➡
被告町、「動画・パンフレットの制作」も条例が定める「環境保全に関する事業」
荒木町長は議会答弁で「地域活性化支援事業」との認識だったが・・・・・・
【上左】屋久島町「ふるさと納税」のロゴ(町ウェブサイトより)【上右】鹿児島地裁(裁判所ウェブサイトより)【下】海底清掃事業で制作した観光ガイドの冊子と動画について、「地域活性化支援事業」だったと答弁した荒木耕治町長(2024年3月11日、屋久島町議会YouTubeチャンネルより)
ふるさと納税で「屋久島の自然を守って欲しい」と寄付された1700万円を活用して、屋久島町が2022年度に実施した海底清掃を主体とする環境保全事業で、総事業費の大半が海底清掃そのものではなく、屋久島の観光情報を紹介するガイド冊子や動画の制作費に支出された問題をめぐる住民訴訟――。
この訴訟の第2回口頭弁論で被告の町は、今回の事業は「海底清掃及び動画・パンフレットの制作」を目的とした「世界自然遺産をはじめとする地域の環境保全に関する事業」であり、寄付金の使途などを定めた「屋久島町だいすき寄附条例」には違反していないと主張した。原告の渡辺千護町議は訴状で、寄付金は「環境保全事業に使って欲しい」と指定されたもので、寄付金の大半を観光ガイドの冊子や動画の制作費に使うことは、同条例に違反する支出だと訴えていた。
屋久島町が海底清掃事業で制作した観光ガイド冊子のグルメ情報ページ。「島のめぐみをいただきます」と題して、特定の飲食店を詳しく紹介している(モザイクは屋久島ポストが加工)
「屋久島町だいすき寄附条例」で五つの使途を規定
「屋久島町だいすき寄附条例」の第2条は、ふるさと納税で集まった寄付金の使途として、次の五つを定めている。
(1) 世界自然遺産をはじめとする地域の環境保全に関する事業
(2) 子育てや教育に関する事業
(3) 人口減少の抑制及び交流人口増加に資する事業
(4) 地域の活性化を支援する事業(産業支援、集落支援、創業支援等)
(5) 地域の消防・防災対策に関する事業
海底清掃2時間、総事業費の75%超がガイド冊子と動画の制作費
この規定を踏まえて渡辺町議は、今回の事業に支出された寄付金は、「(1)環境保全に関する事業」に使うことが指定されていたもので、「事業費の大半は海底清掃に使われるべきであり、活動報告にかかる支出額は最小限度にする必要があった」と指摘。だが、実際に海底清掃で潜水した時間は計2時間のみであった一方、「総事業費1698万9918円の75パーセント超が本件事業の主目的ではない観光ガイド冊子と動画の制作などに使われた」として、この事業への寄付金の支出は同条例に違反していると主張した。
町「海底清掃の費用に比べて、映像・パンフレット制作費は高い」と認識
それに対し、町は「事業費について、海底清掃の費用に比べて、映像・パンフレット制作費が高くなっている」と認めたうえで、この事業の目的は「海底清掃の実施のみならず、その実施結果を映像やパンフレットにより全国的に周知することで、屋久島の自然環境保護に対する意識向上を図ることができ、また、屋久島の魅力のPRをすること」だと説明。海底清掃によって「相当量のごみが回収されている」ことからも、同条例が定める「(1)環境保全に関する事業」のために「1698万9918円を支出したことは明らかである」と反論した。
【動画】屋久島町が制作した「海・山・川の繋がりで豊かな屋久島の自然を守るプロジェクト」(屋久島町YouTubeチャンネルより)
「浄財を託した寄附者を裏切る行為」
また、訴状で渡辺町議は、「ふるさと納税の寄附者に対して、海底清掃を主目的にした環境保全事業を実施すると広報しておきながら、実際には観光ガイド冊子や動画の制作を目的にしていたとなると、それは屋久島の自然を守りたいと願って浄財を託した寄附者を裏切る行為」だと主張した。
事業の目的は「海底清掃及び動画・パンフレットの制作」
それに対し町は、この事業の目的が「海底清掃及び動画・パンフレットの制作」であるとして、「事業費の大半を海底清掃に充てるべきであり、活動報告の情報発信にかかる支出額は最小限度にする必要があったとの原告の主張に理由」はないと反論した。
荒木町長、事業の目的は「環境保全」と「地域活性化支援」
寄付金の支出が同条例に違反するか否かをめぐっては、2024年3月11日に開かれた町議会一般質問で、渡辺町議が荒木耕治町長に対し、寄付金を観光ガイドの冊子と動画の制作費に使うことは「屋久島町だいすき寄附条例に違反しているのではないか」と問いただしている。
この質問を受けて、荒木町長は「本事業につきましては、屋久島町だいすき寄附条例第2条、事業区分において、第1号の『世界自然遺産を始めとする地域の環境保全に関する事業』だけでなく、第4号の『地域の活性化を支援する事業』にも該当する」と答弁。観光ガイドの冊子と動画の制作が「環境保全に関する事業」ではなく、観光振興などを含む「地域の活性化を支援する事業」にあたるとの認識を示している。
【動画 41分30秒~】海底清掃事業で制作した観光ガイドの冊子と動画について、「地域活性化支援事業」だったと答弁した荒木耕治町長(2024年3月11日、屋久島町議会YouTubeチャンネルより)
荒木町長の答弁は以下のとおり。
「本事業につきましては、屋久島町だいすき寄附条例第2条、事業区分において、第1号の世界自然遺産を始めとする地域の環境保全に関する事業だけでなく、第4号の地域の活性化を支援する事業にも該当するものであります。
御指摘の清掃活動の成果を広報する動画と観光パンフレットの制作費については、動画やパンフレットの作成及び配布が町外の人々あるいは全国的に屋久島についての関心をより高め、それにより観光需要が増加するなど、その効果は間接的であったとしても、それが屋久島の各地域の活性化につながることが明らかである以上、地域の活性化を支援する事業に該当するものであり、条例に違反するものではないというふうに思っております」