海底清掃問題

【展望】寄付金を増やす宣伝に 多額の寄付金を使っていいのか? 海底清掃事業・住民訴訟/屋久島ポスト

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海底清掃事業の主目的は「海底清掃」か? それとも「ふるさと納税の拡大」か?

海底清掃の実績がない業者が独占的に町と随意契約

JTBが運営するふるさと納税サイト「ふるぽ」のロゴと屋久島町役場

 屋久島町がふるさと納税の寄付金1700万円を投じた海底清掃事業をめぐる住民訴訟が大詰めを迎えている。

 この事業の受託業者を決める際に、なぜ町は複数の業者が参加する一般競争入札を実施せず、優先的にJTBパブリッシング(本社・東京都江東区)と特命随意契約を結んだのか?

 当初は複数あった争点が、ほぼこの1点に絞られたからだ。

原告町議「海底清掃の実績がない業者と契約する合理的な理由はなかった」
 裁判で原告の渡辺千護町議は、事業の主目的である海底清掃が実施されたのは計2時間のみで、町は総事業費1700万円の大半を海底清掃ではなく、屋久島の観光情報などを伝えるガイド冊子と動画の制作費に使ったと指摘。JTBパブリッシングには海底清掃事業を手掛けた実績がないことから、「町が特命随意契約を結ぶ合理的な理由はなかった」として、この事業に使った1700万円は違法な支出だったと主張してきた。

町、寄付金の増額による利益が「究極の目的」
 これに対し町は、JTBパブリッシングは「企画のコーディネーターとしての経験が豊富」で、屋久島町ふるさと納税の中間業者であるJTBの子会社であることから、JTBと連携して「ふるさと納税の拡大に繋げることができる立場にあった」などと主張。この事業が町に与える利益を考えた場合、「JTBパブリッシングとの契約のみがその究極の目的達成に合致する業者だったといえる」と反論している。

ふるさと納税で集まった寄付金の報告をする「町報やくしま」(2023年8月号)の記事

随意契約「余人をもって代えがたい業者」であればOK
 地方公共団体が一定程度の金額を超えた公共事業を実施する際には、事業費を必要最小限に抑えるために、複数の業者が参加する競争入札を実施することが法的に定められている。ただし例外があり、「その性質又は目的が競争入札に適しない」事業であれば、競争入札をすることなく、特定の業者と随意契約が結べることになっている。

 要するに、その事業を担える経験や技術などが豊富で、「余人をもって代えがたい業者」であれば、競合他社を差し置いて、地方公共団体と独占的に業務委託契約が結べるということである。

海底清掃の実績が重要なのだが「実績なし」
 それでは、この「例外規定」を同事業にあてはめると、どうなるのか。

 まず、今回は海底清掃を主目的とした環境保全事業なので、町が優先的に業務委託契約を結べるのは、海底清掃事業の実績が豊富な業者となる。それも、「屋久島の環境を守って欲しい」と託された寄付金を事業費に充てていることから、海底清掃業務に長けた業者に担当してもらい、寄付者の期待に応える必要がある。

 ところが、町が特命随意契約を結んだJTBパブリッシングには、それまでに海底清掃事業を手掛けた実績が一度たりともなかった。そして、この点については町も認めており、原告と被告の間では争いがない事実となった。それゆえに渡辺町議は、同社には独占的に町と特命随意契約を結べる「合理的な理由はなかった」と主張し続けてきたのである。

ふるさと納税で集まった寄付金について報告する「町報やくしま」(2023年8月号)の記事。寄付金の使い道ごとに事業内容や金額が紹介されているが、「ふるさと納税の拡大」を目的にした使途は記載されていない

町、寄付金の増額で「大きな利益をもたらした素晴らしい事業」
 そこで、この事業の「究極の目的」として、町が強く主張を始めたのが「ふるさと納税の拡大」である。JTBパブリッシングの親会社のJTBが屋久島町ふるさと納税の中間業者であることを理由に、海底清掃事業の成果を広報することで、さらに多くの寄付金が集まり、「町にとって大きな利益をもたらした素晴らしい事業だった」というのだ。

 その一方、町の主張に海底清掃に関わるものは、ほとんどみられない。一つだけ、「海底清掃作業に適した外部専門家」に海底清掃業務を再委託した旨の説明をしているが、その「外部専門家」にどれほどの実績があるのか、具体的に立証されることはなかった。

JTBが運営するふるさと納税サイト「ふるぽ」の画面

事業の主目的で対立する主張、裁判所の判断はいかに
 ここまで審理が進むと、訴訟のゆくえをシンプルに展望できるようになる。

 まず、この事業の主目的について、原告の渡辺町議が「海底清掃活動」とするのに対し、被告の町は「ふるさと納税の拡大」であるとして、それぞれの主張が大きく分かれている。そして次に、この主張の隔たりを裁判所がどのように判断するのか。

 もし、主目的が「海底清掃活動」となれば、町の主張に理由はなくなり、この事業への寄付金の支出は違法となる可能性がある。

 一方で、主目的を「ふるさと納税の拡大」としても問題ないとなれば、町にはJTBパブリッシングと特命随意契約を結ぶ合理的な理由があったことになる。

環境保全の寄付金を「ふるさと納税の拡大」のために使う違和感
 しかし、よくよく考えると、町の主張に違和感はないだろうか。

 「環境保全事業に使ってほしい」と使途が指定された寄付金を使う主目的が、「ふるさと納税の拡大」ということになれば、より多くの寄付金を集めるための宣伝に多額の寄付金を使うことなる。

 そもそもだが、寄付金とは、寄付金を増やすために集めるものではないはずだ。その辺り、鹿児島地裁の裁判官がどのように判断をするのか注目される。

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