海底清掃問題

【検証】JTB「るるぶ特別編集 屋久島」制作は環境保全事業なのか? 屋久島町・海底清掃事業

yakushima-post

公費で特定業者の詳細情報を掲載  紹介されない業者から「不公平」の批判

寄付金の使途「環境保全事業」なのに実態は「観光ガイドブック」

メイン写真
【左】屋久島町が「KADOKAWA」に業務委託して、観光促進のために制作している冊子
「屋久島。神秘の島でしたい63のコト」の表紙【右】寄付金を使った環境保全事業として、町が「JTBパブリッシング」に業務委託して制作した観光ガイド冊子「るるぶ特別編集 屋久島」の表紙

 ふるさと納税の寄付金の使途を定めた「屋久島町だいすき寄附条例」に従って、「環境保全に関する事業」に使うはずだった寄付金を、観光ガイド冊子の制作費に使うことは許されるのか。寄付した人たちは「屋久島の自然を守って欲しい」と願って、浄財を町役場に託したのに――。

 屋久島町が2022年度に実施した海底清掃を主体とする環境保全事業をめぐり、その事業支出は「条例違反」などとする住民監査請求が45日、町監査委員によって受理された。請求のなかで住民は、総事業費1700万円の大半が海底清掃そのものではなく、屋久島の観光情報などを伝える冊子や動画の制作費に使われたことを特に問題視している。

 今回の住民監査請求を受けて、屋久島ポストは町が制作した観光ガイド冊子を検証し、その詳細な内容を紹介する。

「屋久島の自然を守って欲しい」と寄せられた1700万円

 この事業で町は、旅行大手JTBの出版部門を担う関連会社「JTBパブリッシング」(本社・東京)と特命随意契約を結び、海底と海岸の「海洋清掃」および「動画・パンフレットの作成」の業務を委託。事業費にはふるさと納税の寄付金が充てられ、約1700万円が支出された。

 町はふるさと納税を受け付ける際に、寄付金の使い道として「環境保全」や「消防・防災対策」など、条例で定められた五つの使途を示し、寄付した人たちの希望を確認している。それらの使途のなかで、今回の寄付金は「世界自然遺産をはじめとする地域の環境保全に関する事業」に使うことが要件とされた。

 つまり、同事業に支出された1700万円は、全国から「屋久島の自然を守って欲しい」という願いを託された寄付金だったということである。そして、観光ガイド冊子の制作には、総事業費1700万円のうち、その3割に当たる約536万円が支出された。

申込書
屋久島町がふるさと納税を受け付ける際に提出を求めている申込書の一部。希望する寄付金の使い道を尋ねる欄には、「環境保全事業」や「消防・防災対策」など五つの使途が記載されている

市販の観光ガイドブックとほぼ同じ

 そこで、公費を使った環境保全事業の一環として、約2万部が発行された観光ガイド冊子を開いてみると、全12ページの大半が屋久島の観光情報で埋め尽くされていた。内容的には、同社が発行する全国各地の観光ガイドブック「るるぶ」に似ており、冊子のタイトルも「るるぶ特別編集
屋久島」。最初の見開きページでは、「屋久島ってこんなところ」と題して、九州最高峰の宮之浦岳(標高1936m)やウミガメの産卵地として知られる永田浜などが紹介されている。

02-03ページ
屋久島の見どころを紹介する「るるぶ特別編集 屋久島」のページ

 そして、さらにページをめくると、冊子の様相は、広く市販されている観光ガイドブックそのものになってくる。

 次の見開きページでは、「23日で屋久島を満喫!」の見出しで、おすすめのモデルコースを掲載。屋久島空港から出発して、町立の屋久杉自然館、国の有形文化財に登録された屋久島灯台、太古の原生林が広がる白谷雲水峡などをめぐる行程を紹介している。

 だが、ここで疑問なのは、特定の民間業者が営む飲食店や土産物店などの情報を詳細に掲載していることだ。これまでの屋久島町でもそうだが、地方自治体が公費で制作した観光ガイド冊子で地元料理や特産品などを紹介する場合、具体的な店の情報は掲載されないことが通例となっている。
04-05ページ
屋久島観光の「おすすめモデルコース」を紹介する「るるぶ特別編集 屋久島」のページ。特定の民間業者が経営する飲食店や土産物店などの詳細な情報が紹介されている

KADOKAWA」公費で制作の冊子、特定業者は紹介せず

 その一例として、町が出版社「KADOKAWA(本社・東京)に業務委託して、2020年度から発行を続ける観光ガイド冊子「屋久島。神秘の島でしたい63のコト」を開くと、一部の写真を除き、特定の民間業者だけを紹介する記事は一切みられない。「島の味」を伝える記事では、写真付きで「首折れサバ」や「トビウオの姿揚げ」「屋久鹿肉」などの料理名までは紹介するが、特定の飲食店の名称や連絡先などの情報は掲載していない。
カドカワ)料理
「KADOKAWA」制作の観光ガイド冊子で紹介されている「首折れサバ」や「屋久鹿肉」などの料理。特定の飲食店などの情報は掲載されていない

「るるぶ特別編集」飲食店などの詳細情報を掲載

 ところが「るるぶ特別編集
屋久島」では、おすすめコースのなかに特定の飲食店や土産物店などの詳細な情報が次々と出てくる。そして、ある飲食店の紹介文に目をとおすと、「その時期に一番
美味しい魚介を刺身、唐揚げ、煮付けなどいろんな調理法で提供」「種類豊富な定食や定番・旬を揃えたパスタまで多彩なメニュー構成が魅力」などとある。さらには、「とびうおひつまぶし1320円~」「トビウオの刺身780円」といったメニューに加え、電話番号や住所、営業時間、定休日、駐車可能な台数まで掲載されている。
特定飲食店
「るるぶ特別編集 屋久島」で紹介された飲食店の記事。店の電話番号や営業時間、メニューの金額などが詳細に掲載されている(モザイクは屋久島ポストが加工)

公費で特定業者「宣伝」に批判

 これでは、町の公費を使って民間業者の宣伝をしているようなものである。市販される「るるぶ」であればJTBパブリッシングの自由だが、公費で制作した冊子となれば、町が特定の業者だけを優遇しているとみられるだろう。そして、冊子で紹介されなかった町内の業者に取材をすると、不公平感を訴える声が複数あった。

 島北部で飲食店を営む店主は「なんで自分の店には声もかからないのか。どんな基準で特定の店を選んだのか知りたい」。また、島南部の別の飲食店主は「町の公費で紹介するなら、せめて町内で公募したうえで、抽選などで公平に選ぶべきだ」と訴える。さらに、島北部のダイビング業者からは、「通常の『るるぶ』には数万円も払って掲載してもらっているのに、町の公費で特定の業者を紹介するのは不公平だ」といった批判の声が聞かれた。
カドカワ)観光コース
屋久島の見どころが紹介された「KADOKAWA」制作の観光ガイド冊子のページ。記事では特定業者の情報はまったく紹介されていない

JTBパブリッシング「長年のノウハウを活かし編集」

 それら住民の声を踏まえ、屋久島ポストが取材でJTBパブリッシングに見解を求めたところ、同社ブランド戦略室からメールで次の回答があった。

「初めて屋久島に来る観光客が23日で滞在することを想定して、長年観光ガイドブックを制作してきたノウハウを活かし編集しています。限られた紙幅の中でカテゴリーが偏らないようバランスにも配慮し、掲載先については、屋久島町様にもご確認いただいております」

 つまり、長年にわたって培った観光ガイドブック制作の経験を活かし、紹介する民間業者を選んだということである。また、その業者の選定については、屋久島町役場も確認したうえで、掲載を認めたということだ。

公費で特定業者を紹介「格別問題があると認識していない」

 続いて、地方自治体が公費で制作する観光ガイド冊子で、特定の民間業者だけを紹介することについて尋ねると、同社は次のように回答した。

「格別問題があると認識していません。それ以上は回答を差し控えさせていただきます」

 しかし、そうは言っても、実際に「るるぶ特別編集
屋久島」を手にした住民からは、公費で特定の業者だけを紹介することに対して、「不公平」との声が上がっている。

 そして、続く見開きページ「島のめぐみをいただきます」と題したグルメ情報をみると、その「不公平感」はさらに高まっていく。

(次回につづく)

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