「屋久島に浄財を託した寄附者を裏切る行為」 屋久島町 海底清掃事業・住民訴訟
「海底清掃事業」を装った「観光広報事業」で条例違反
渡辺千護町議が掲げる「住民訴訟の意義」
【左上】屋久島町「ふるさと納税」のロゴ(町ウェブサイトより)【右上】JTBグループのロゴとスローガン(Wikimedia Commons より)【下】屋久島町役場
ふるさと納税で「屋久島の自然を守って欲しい」と寄付された1700万円を活用して、屋久島町が2022年度に実施した海底清掃を主体とする環境保全事業で、総事業費の大半が海底清掃そのものではなく、屋久島の観光情報などを紹介するガイド冊子や動画の制作費に支出された問題――。
この事業への支出は、ふるさと納税の寄付金の使途を定めた「屋久島町だいすき寄附条例」に違反しているなどとして、同町議会の渡辺千護町議が町を相手取り、事業に支出した約1700万円を荒木耕治町長ら町幹部3人に賠償請求するように求める住民訴訟を提起した。
屋久島ポストは渡辺町議が裁判所に提出した訴状を入手し、その詳細な内容を複数回にわたって紹介する。初回は渡辺町議が提訴するにあたり、訴状に盛り込んだ「本件住民訴訟の意義」の全文を以下に掲載する。※中見出しと写真、丸ガッコ内は屋久島ポストが挿入。
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1700万円の大半、観光ガイド冊子や動画制作に支出
本件住民訴訟は、ふるさと納税で「屋久島の自然を守って欲しい」と全国から寄附された約1700万円を活用して、被告である屋久島町が令和4年度(2022年度)に実施した海底清掃を主目的とする環境保全事業において、総事業費約1700万円の大半が海底清掃そのものではなく、屋久島の観光情報などを紹介する観光ガイド冊子やユーチューブ動画の制作などに支出されたことを問題視して、屋久島町民の代表である原告(渡辺千護町議)が、住民訴訟として提起するものである。
屋久島町がJTBパブリッシングに制作を委託した観光ガイド冊子のグルメ情報ページ。「島のめぐみをいただきます」と題して、特定の飲食店を詳しく紹介している(モザイクは屋久島ポストが加工)
「環境保全」の寄付金を目的外利用 海底清掃は2時間のみ
本件事業を実施するにあたり、被告は「屋久島だいすき基金」から支出できる事業を定めた「屋久島町だいすき寄附条例」のなかで、5件ある事業区分のうち、「世界自然遺産をはじめとする地域の環境保全に関する事業」に使うことを目的として、同基金から約1700万円を支出した。また、この約1700万円は、被告が寄附金を集めた際に、寄附者が「環境保全事業」に使ってほしいと指定して寄附した約1億4000万円のなかから支出された。
つまり、本件事業に使われた約1700万円は、寄附者が「環境保全事業」に使ってほしいと明確に指定した約1億4000万円のなかから支出されたものであり、さらにその使途については、同条例で定められた「世界自然遺産をはじめとする地域の環境保全に関する事業」だけに使うことを目的に、同基金から支出されたということである。
しかしながら、被告は、総事業費約1700万円の大半を観光ガイド冊子や動画の制作に支出しており、これは寄附者が使途として指定した事業区分から大きく逸脱するもので、いわば寄附金の目的外利用にあたるといえる。また、海底清掃活動を「事業の看板」として掲げておきながら、実際に海底に潜って清掃したのは合計で2時間のみであった事実を踏まえると、本事業は「海底清掃事業」を装った「観光広報事業」であったことは明らかである。
理由なきJTBパブリッシングとの特命随意契約
また、本件事業が本来の目的であるはずの「環境保全事業」から大きく逸脱した要因として、業務を請け負ったJTBパブリッシングが提案した企画に対して、被告が同条例を遵守した形で、適切な指摘や判断ができなかったことがあると思料される。旅行会社大手JTBのグループ会社であるJTBパブリッシングは、主に観光ガイドブックの発行を手掛ける会社であり、海底清掃などの環境保全事業は専門外である。それにもかかわらず、海底清掃を主目的として事業を提案した背景には、まずは使途が「環境保全事業」に限定された寄附金を事業予算として確保したうえで、実際にはJTBパブリッシングの得意分野である観光広報事業に大半の事業費を支出するという企業戦略があったことがうかがえる。それゆえに、被告がJTBパブリッシングと締結した特命随意契約には、その理由がないと言わざるを得ない。
【左】ふるさと納税の寄付金で屋久島町が制作した観光ガイド冊子「るるぶ特別編集 屋久島」の表紙【右】海底清掃事業の支出内訳が記載されたJTBパブリッシング作成の見積書(黒塗りは町が非開示とした部分、モザイクは屋久島ポストが加工)
実費精算を怠る不適法な支出
さらには、被告がJTBパブリッシングと業務委託契約を結ぶ際に、その根拠となった見積書において、「ゴミ回収廃棄費用」と「交通宿泊費」については「※下記は、終了後実費精算」と明記され、事業終了後に実費精算することになっていた。それにもかかわらず、被告が本件事業の終了時に、当然にするべき実費精算を怠り、約1700万円の業務委託費をそのままJTBパブリッシングに支払ったのは、不適法な支出であることは明らかである。
ふるさと納税の寄附者に対して、海底清掃を主目的にした環境保全事業を実施すると広報しておきながら、実際には観光ガイド冊子や動画の制作を実際の目的にしていたとなると、それは屋久島の自然を守りたいと願って浄財を託した寄附者を裏切る行為であり、さらには理由のない特命随意契約を結び、見積書にしたがってなされるべき実費精算を怠って、業務委託費を支出したのは、いずれも不適法な行為だったといえる。
以上のことを踏まえ、原告は、被告が今後ふるさと納税の寄附金で事業を実施するにあたり、二度とこのような不適法かつ不当な支出をすることがないように防ぐ目的で、本件住民訴訟を提起するものである。