被告町、業者の見積書は「契約前の一資料にしかすぎない」 屋久島町海底清掃事業・住民訴訟
見積書で「ゴミ回収廃棄費用」「交通宿泊費」は実費精算と明記 ➡ 町、契約書に実費精算条項なく未精算のまま
【上左】屋久島町「ふるさと納税」のロゴ(町ウェブサイトより)【上右】鹿児島地裁(裁判所ウェブサイトより)【下】屋久島町役場
ふるさと納税で「屋久島の自然を守って欲しい」と寄付された1700万円を活用して、屋久島町が2022年度に実施した海底清掃を主体とする環境保全事業で、総事業費の大半が海底清掃そのものではなく、屋久島の観光情報を紹介するガイド冊子や動画の制作費に支出された問題をめぐる住民訴訟――。
この訴訟の第2回口頭弁論で被告の町は、見積書で実費精算することが明記されていた「ゴミ回収廃棄費用」と「交通宿泊費」について、未精算のまま約1700万円の事業費を支出したのは、業務委託契約書に「実費精算に関し一切の記載」がなかったからだと主張した。契約の前提となった見積書については、契約を結ぶ「前段階の一資料にしかすぎない」と説明。町が委託業者のJTBパブリッシング(本社・東京都江東区)と契約の交渉を進める際に、町側から同社に「後日の精算を求めることはない」と伝えていたとした。
JTBパブリッシングが屋久島町に提出した見積書。「ゴミ回収廃棄費用」と「交通宿泊費」については、「※下記は、終了後実費精算」と明記されている(黒塗りは屋久島町が非開示、モザイクは屋久島ポストが加工)
原告町議「実費精算を怠った不適法な支出」
訴状で原告の渡辺千護町議は、JTBパブリッシングが2022年7月11日付で町に提出した見積書のなかで、「ゴミ回収廃棄費用」と「交通宿泊費」については、「※下記は、終了後実費精算」と明記されていたと指摘。それにもかかわらず、町が実費精算を怠り、未精算のまま総事業費の1698万9918円を同社に支払ったのは「不適法な支出」だったと主張した。
JTBパブリッシングが屋久島町に提出した見積書の一部分。「ゴミ回収廃棄費用」と「交通宿泊費」について「※下記は、終了後実費精算」と明記されている(赤丸は屋久島ポストが加工)
町「契約書に実費精算に関し一切の記載がない」
それに対し、町は準備書面で「被告とJTBパブリッシングとの間で取り交わされた業務委託契約書には、実費精算に関し一切の記載がない」と反論。実費精算することが明記された見積書については、「本件契約を締結する前段階の一資料にしかすぎない見積書の記載内容が、直ちに本件契約の内容になるわけではない」とした。
町側から業者に「後日の精算を求めることはないと伝えた」
さらに、町は「本件契約締結段階においては、当初の見積書に記載されていた実費精算条項を当事者双方が敢えて実際の本件契約内容から外したとみるのが相当である」と主張。そして、この業務委託契約が実際の単価や数量に左右されない「総価方式」であることを理由に、契約の交渉をする段階で町側から「JTBパブリッシングに対し、ゴミ回収廃棄費用及び交通宿泊費について、後日の精算を求めることはない」と伝えていたことを明らかにした。
町法律顧問は「精算義務を定めたものであると解するのが妥当」と判断
この海底清掃事業の実費精算をめぐっては、渡辺町議が2024年3月の町議会一般質問で実費精算の必要性を指摘。その一般質問を前に、観光まちづくり課が町の法律顧問を務める河野通孝・法務事務専門員に相談したところ、河野専門員は「実費精算すべき」との見解を示していた。
<上記の「※下記は、終了後実費精算」との記載は、実際上契約内容についての変更があり得ることを前提にその場合における精算義務を定めたものであると解するのが妥当であるから、この記載は、本件委託契約の総額(総価)を算出するための見積書においては総額(総価)の算出根拠を提示し、それに基づいてとりあえずは(総価)契約金額を算出、提示し、その契約金額を前提に契約が締結されるものではあるが、事業終了後における「下記に掲げる経費」については実費精算手続きをとることを留保するもので、本件における海底廃棄物の収集数量に変更があった場合は実費精算する旨を明確に定めたものといわざるを得ない。>
海底清掃事業の実費精算について、町の法律顧問である法務事務専門員が観光まちづくり課に示した文書の一部。屋久島ポストの情報公開請求で町が開示した
住民訴訟では一転「実費精算する必要はない」
河野専門員の法的な判断を踏まえると、町はJTBパブリッシングに対して、実費精算を求める必要があった。また、補助金不正請求や町長交際費をめぐる住民訴訟と同様に、もし河野専門員が町の指定代理人を務めていれば、裁判でも実費精算の必要性を認めていた可能性があった。
だが、町が住民訴訟の代理人を鹿児島市にある弁護士法人「和田久法律事務所」の新倉哲朗弁護士に依頼したため、一転して「実費精算する必要はない」との判断に変わったとみられる。
この住民訴訟で渡辺町議は町に対し、海底清掃事業への支出はふるさと納税の寄付金の使途を定めた「屋久島町だいすき寄附条例」に違反しているなどとして、事業に支出した1698万9918円を荒木耕治町長ら町幹部3人に損害賠償請求するように求めている。