【視点】裁判所も疑問「なぜ、海底清掃の実績がない業者が独占的に契約できたのか?」 屋久島町海底清掃事業・住民訴訟
JTBパブリッシング、海底清掃の実績ゼロ ➡ 町、海底清掃に「高い適格性を有している」➡ 裁判官「JTBパブリッシングである理由を主張せよ」
【上左】海底清掃事業を請け負ったJTBパブリッシングが入るJTBグループのロゴとスローガン【上中・上右】「屋久島町ふるさと納税」と屋久島町のロゴ(町ウェブサイトより)【下】2022年度の事業で海底ごみを回収するダイバーたち(屋久島町YouTubeチャンネルの動画「海・山・川の繋がりで豊かな屋久島の自然を守るプロジェクト」より)
なぜ、屋久島町が2022年度に実施した海底清掃事業で、旅行大手JTBの出版部門を担うグループ会社「JTBパブリッシング」(本社・東京都江東区)は、独占的に業務委託契約を結べたのか?
同社の専門は出版業で、過去に海底清掃事業を手掛けた実績は全くない。それにもかかわらず、町は複数の業者が参加する一般競争入札をすることなく、優先的に同社と特命随意契約を交わしてしまった。
町、海底清掃を遂行できる「信用と経験を有している」
その理由について町は、この事業に使った寄付金1700万円の支出の違法性を問う住民訴訟で、次のように説明している。
「迅速かつ円滑な海底清掃実施のための事業者の選定及び確保、清掃状況の撮影や適格なPR活動といった事業を遂行できる信用や経験を有している」
そう主張されても、全く納得はできない。
どうして、海底清掃事業を請け負った経験がないJTBパブリッシングが、「迅速かつ円滑」に海底清掃をする「事業者の選定及び確保」ができるのか。「PR活動」は得意かもしれないが、この事業の主目的は海底での清掃活動だ。何よりもまず、海底清掃をしっかり実施できるのかどうか、その「信用と経験」が問われることになる。
町、海底清掃を遂行できる「他の同種出版社はない」
ところが町は、住民訴訟でこんな主張もしている。
「海底清掃といった環境特化の事業を遂行できるだけの技術や信用を有する他の同種出版会社はなく、JTBパブリッシングは、他の同種業者との比較においても本件業務に高い適格性を有している」
いったい何を根拠にして、海底清掃を遂行できる「技術や信用を有する他の同種出版社はなく」と断言できるのか。さらには、なにゆえに他の出版社と比べて、「本件業務に高い適格性を有している」とまで主張できるのか。
独占的に結んだ特命随意契約が最大の争点
町が鹿児島地裁に提出した準備書面を、どれだけ読んでも、疑問は深まるばかりだ。
それは裁判所も同じようで、1月14日に開かれた第3回口頭弁論で町は、裁判官からこんな「宿題」をもらった。
「JTBパブリッシングでないと、この事業ができない理由を詳細に主張するように」
住民訴訟の争点は多岐にわたるが、この裁判官からの「宿題」を踏まえると、独占的にJTBパブリッシングが町と結んだ特命随意契約の違法性が、最大の争点になるとみられる。
裁判所の問いに対して、町はどのような主張をするのか。次回、4月15日に開かれる第4回口頭弁論に注目したい。