【取材後記】高額な代船運航費、鹿児島県がダメなら 国に救済を求めるしかない フェリー屋久島2運休問題
国と県も無策の想定外の緊急事態、離島住民が安心できる法律や制度の整備を願う
【左】鹿児島県庁(WikiMedia Commonsより) 【右上】運休が続いているフェリー屋久島2(折田汽船ウェブサイトより)【右下】屋久島町役場
故障で無期運休が続く「フェリー屋久島2」(折田汽船)の代船運航費が、最大で3億円になる可能性があるという。だが、その全額を人口1万1000人の屋久島町だけで負担しろというのは、あまりにも酷な話である。
今年度は余剰財源がないため、町は「貯金」にあたる財政調整基金を切り崩して予算を確保する。そうなると、もし最大で3億円を支出したら、昨年度末で約22億8700万円あった残高は、20億円を割り込むことになる。
台風や大雨による災害などに備えて、コツコツと貯めてきた貯金である。運航業者の折田汽船が適切な整備を怠った「つけ」なのに、その責任のすべてを屋久島町民が負わされるのは、極めて理不尽だと言わざるを得ない。
県は塩対応「屋久島町の生活となりわいの問題」
ところが、この代船運航費の問題について、町から相談された鹿児島県の対応は、とても冷たかった。町は県に対し、代船運航費の一部負担や、国に財政支援を求める橋渡しを頼んだが、県交通政策課長は「県は本件について主体になり得ない」「屋久島町の生活となりわいの問題である」と言ったという。
この「塩対応」には驚くばかりだ。これでは、屋久島町民は「鹿児島県民ではない」と言われたようなものである。県の傘下にある43市町村の住民は、あまねく鹿児島県民であり、その住民が窮地に陥っていれば、県が手を差し伸べるのは当然だろう。
もし、こんな冷たい対応が続くのであれば、昨年の県知事選で現職の塩田康一氏に投票した住民たちは、「屋久島町民は見捨てられてしまった」と落胆するに違いにない。
国への協力要請で荒木町長に期待
ここまで鹿児島県に期待できなければ、この先は国に助けを求めるしかない。
そこで荒木耕治町長が力を発揮できるのは、県選出の国会議員で、自民党の幹事長を務める森山裕衆院議員への協力要請だ。荒木町長とは長いつき合いがあり、町としては「町政の発展に多大な尽力をいただいてきた」とする森山衆院議員であれば、窮地に陥っている屋久島町民を放っておくはずはないだろう。
その他の自治体よりも、屋久島町だけが何か特別な扱いを受けるために、国会議員に働きかけるのは、決して好ましいことではない。だが今回は、町民のライフラインであるフェリーが無期運休となった緊急事態である。もし代船の運航がなければ、日々の町民の生活物資はもちろん、これから収穫の季節を迎えるタンカンの運搬も滞り、町の経済は計り知れない打撃を受けることになる。
フェリー老朽化で再び無期運休の可能性
「フェリー屋久島2」は1993年の就航から32年を迎え、老朽化が深刻となっているが、新造船の目途は立っていない。今回、うまく修理ができたとしても、再び無期運休になる可能性があり、その度に町が高額な代船運航費を負担していたら、やがて屋久島町の財政は破綻するに違いない。
今回の無期運休は、鹿児島県だけなく、国にとっても、想定外の事態なのだろう。法的にも、国や県の制度的にも、この緊急事態に対処する方策はなく、ただ屋久島町だけがその負担を背負っているのである。
屋久島町の緊急事態を全国離島の教訓に
今現在は急場をしのぐために、荒木町長には、森山衆院議員を通じて国に協力を求めてもらいたい。そして、再び無期運休になることに備えて、将来を見据えた法律や制度の整備を訴えてほしい。
島国の日本にとって、今回の屋久島町の緊急事態が教訓となり、多くの離島住民が安心して暮らせる救済制度が整うことを願っている。