フリーや独立メディアの排除ルールに待った 屋久島町議会取材拒否問題

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憲法違反の可能性の指摘受け、再検討に

石田尾議長は排除に固執、屋久島ポストは抗議文を提出

議長と委員長20220607
議会運営委員会で排除ルールの再検討が決まった後、議長室で取材に応じる石田尾茂樹議長(左)と日高好作委員長(2022年6月7日、屋久島町役場)

 フリージャーナリストや独立メディアなどを排除している屋久島町議会の議会運営委員会(日高好作委員長)が67日に開かれ、新聞社やテレビ局などのマスコミだけに議会取材の便宜を与える新しい傍聴ルールに待ったがかかった。委員から「表現の自由」などを保障する憲法21条や、法令に反する規則の制定を禁止する地方自治法15条に違反する可能性を指摘されたためで、法律の専門家から意見をもらうため、6月定例会からの適用は延期されることになった。議運は524日に日本新聞協会などの加盟社だけに取材を許可する排除ルールを決めたが、委員の指摘で再検討に追い込まれた格好だ。

 同議運が決めた排除ルールは、取材の許可を議長権限とする傍聴規則(*1)の判断基準を明記した「傍聴規則等取扱要綱」。これまで不明確だった判断基準を新たに定め、取材で撮影と録音を許可するのは「日本新聞協会会員社、日本民間放送連盟加盟社及び専門新聞協会加盟社に属する者▽議長が認める者」に限定されることなり、6月定例会から適用される予定だった。

真辺町議「法的な検討をするべき」と問題提起

 この日あった議運で、真辺真紀委員は排除ルールについて、「町民から強く指摘され、憲法や地方自治法などを踏まえた法的な検討をするべきだと考えている」と問題提起した。まず、傍聴規則の判断基準となる要綱で、取材をマスコミに限定して許可することを定めると、「知る権利」や「表現の自由」を保障する憲法21(*2)に違反する可能性があると指摘。さらに、もし憲法に抵触した場合は、法令に反する規則の制定を禁止する地方自治法15(*3)にも違反することになり、「法的に深い議論をしないまま、傍聴規則の判断基準を要綱で定めてはいけない」と主張した。

 その問題提起を受けて、日高委員長は「一般傍聴は許可しているので、何も知る権利を阻害しているとは思わない」として、排除ルールは決定事項として、町議会全員協議会で説明すると述べた。それに対し、真辺委員は、議運の協議では排除ルールが法令に違反しているか否かを精査していないと述べ、「多数決で決まっても、法令違反は許されないので、憲法や地方自治法の問題を見て見ぬふりはできない」と反論した。

議論低調 中馬委員「土日や夜間の議会開催も必要」と脱線、欠席者も

 一方、前回の議運で、マスコミだけに取材許可を出す排除ルールに賛成した委員からは、積極的な発言はなかった。

 岩川卓誉委員は「憲法は難しい話になるが、法令審査会などに(改正した)要綱を見てもらうことはできないか」とだけ述べた。また、議論から脱線する委員も。中馬慎一郎委員は「平等に開かれた議会にするなら、議会を土日や夜間に開催することも検討すべきだ。(撮影と録音の許可に関する)これだけ(の議論)だと視野が狭いので、もう少し根本的な検討をする方がいい」と発言すると、真辺委員から「法令に関する議論からそれないでほしい」とたしなめられる場面もあった。

 岩川、中馬の両委員と一緒に「日本新聞協会会員社、日本民間放送連盟加盟社及び専門新聞協会加盟社に属する者▽議長が認める者」に取材を許可する案に賛成した緒方健太委員は議運を欠席した。


石田尾議長は排除ルールに固執

 その議論を踏まえ、石田尾茂樹議長は「真辺委員の言うことは、よくわかる。(判断基準は)傍聴規則ではなく、要綱で定めたが、法律上それが正しいのかどうかを調べたい」と述べ、法律の専門家に意見を求める方針を明らかにした。日高孝之議会事務局長は「法律の専門家に確認する必要があるので、次の6月定例会には間に合わない」と伝えると、日高委員長は「間に合わない場合は、現状のまま(従来の傍聴ルール)6月定例会を行う」と述べた。

 議運の閉会後、石田尾議長は屋久島ポストの取材に「(排除ルールは)決定事項だと思っている」と述べ、マスコミ以外を排除するルールに固執する姿勢を示したが、「法的な根拠について確認する必要がある」として、613日に開会する定例会での適用は延期することを認めた。

   排除ルールは524日に賛成多数で一端は決まったが、同議運は今後、根本的に法的な議論をする必要に迫られており、委員の指摘で再検討に追い込まれたことになる。

抗議文20220607
屋久島ポストの鹿島幹男共同代表(右)から抗議文を受け取る石田尾茂樹議長(2022年6月7日、屋久島町役場)

屋久島ポスト「プレスの自由の根幹をなす『取材の自由』を破壊」と抗議

 屋久島ポストは67日、フリージャーナリストや独立メディアの取材を拒否する排除ルールの撤回を求め、石田尾議長と日高委員長に抗議文(*4)を提出した。

 屋久島ポストの鹿島幹男共同代表は、「屋久島町議会は自身が掲げる『開かれた議会』を放棄し、『閉ざされた議会』へと大きく舵を切った」としたうえで、排除ルールは「世界的な潮流に逆行する判断であり、プレスの自由の根幹をなす『取材の自由』を破壊するもの」だと主張。さらに、日本新聞協会などの加盟社だけに議会取材を許可する決定について、「マスコミ以外の取材や表現の活動を排除し、社会の多様な職業のあり方を否定するもの」だと批判した。

 抗議文では、排除ルールの撤回に加え、「取材の自由」を認める傍聴規則に改正することを要望し、2022617日正午までに文書での回答を求めている。

*1) 屋久島町議会傍聴規則 第9「傍聴人は、傍聴席において写真、映画等を撮影し、又は録音等をしてはならない。ただし、特に議長の許可を得た場合は、この限りでない」


*2)
憲法21「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」


*3)
地方自治法15「普通地方公共団体の長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定することができる」


*4)
屋久島ポスト「抗議文」全文

202267

屋久島町議会

議長 石田尾茂樹 殿

議会運営委員長 日高好作 殿

調査報道メディア・屋久島ポスト

共同代表 鹿島幹男、武田剛


抗議文

 屋久島ポストは調査報道に特化した地域メディアとして202111月に創刊して以来、町政に関する不正や不正義を明らかにしてきました。私たちの一連の活動は、国民の知る権利の推進や情報通信分野で活躍するメディア、ジャーナリスト、市民を顕彰している「日隅一雄・情報流通促進賞」を受賞するなど、対外的にも高く評価されています。

 2021年のノーベル平和賞がフィリピンとロシアの独立メディアの代表に贈られたように、ジャーナリズム活動において、フリージャーナリストや独立メディアは欠かせない存在になっています。

 しかしながら、貴議会は議会取材からフリージャーナリストや独立メディアを排除し、日本新聞協会などに加盟する新聞社やテレビ局などのマスコミにだけに便宜を与える方針を67日の議会運営委員会で正式決定しました。貴議会は自身が掲げる「開かれた議会」を放棄し、「閉ざされた議会」へと大きく舵を切ったと言えます。まさに世界的な潮流に逆行する判断であり、プレスの自由の根幹をなす「取材の自由」を破壊するものです。

 また、議会取材を日本新聞協会などの加盟社に限定する理由として、「日本新聞協会などの日本を代表する団体には、しっかりとした倫理規程がある」といった主張を挙げられています。これは言い換えると、マスコミに属さない取材者には「取材倫理がない」という極めて差別的な主張です。

 私たちが暮らす社会では、マスコミだけでなく、フリージャーナリストや映画監督、作家、フリーライターなど、様々な立場の人が表現活動を行っています。今回の貴議会の決定は、マスコミ以外の取材や表現の活動を排除し、社会の多様な職業のあり方を否定するもので、断じて認めることはできません。

 私たちは「プレスの自由」を侵害する行為に対しては毅然と対応し、ジャーナリズムを担うメディアとして、ここに強く抗議するものです。

 以下、申し入れます。2022617日正午までに、貴議会の具体的な見解を添えた形で、文書での回答を求めます。

①議会運営委員会で67日に決定した「議会傍聴規則等取扱要綱」の撤回を求めます。

②フリージャーナリストや独立メディアなどが自由に取材きるように傍聴規則の改正を求めます。

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