【視点】ふるさと納税6億円超、住民訴訟で問われる屋久島町の使い道/屋久島ポスト
町、海底清掃の経験がない業者に海底清掃事業を委託 → 寄付金1700万円の大半、観光ガイド冊子と動画の制作に支出
2024年度、寄付金6億5114万円で過去最高

2024年度の「ふるさと納税」の寄付金が過去最高の6億5114万円になったことを伝える「町報やくしま」(2025年7月号)の記事
2024年度、全国から屋久島町に寄せられた「ふるさと納税」の寄付金は6億5114万円で、前年の5億3509万円に続き、過去最高額を記録した。そのなかでも、「地域の環境保全に使ってほしい」と寄付されたのは約2億円にもなり、多くの方々が屋久島の自然環境を守りたいと願っていることがよくわかる。
屋久島で暮らす住民としては、とてもありがたいことで、心から感謝したい。
海底清掃事業なのに潜水2時間だけ
だが、その寄付金を使う屋久島町役場の姿勢をみると、浄財を託していただいた多くの方々に申しわけない気持ちになる。2022年度、「環境保全」に使途が指定された寄付金1700万円で実施した海底清掃事業で、実際に海底に潜って清掃したのは、わずか2時間だけだったのだ。
それでは、多額の寄付金はどう使われたのか?
そこで深く取材すると、町が旅行大手JTBの出版部門を担う関連会社「JTBパブリッシング」(本社・東京都江東区)と優先的に特命随意契約を結び、寄付金1700万円の大半を、屋久島の魅力を伝える観光ガイド冊子と動画の制作に使ったことがわかった。表向きは「海底清掃事業」をすると言っておきながら、実際には寄付金の大半を「観光広報事業」に使ったとなれば、それは寄付した人たちを裏切ることになる。

屋久島町が海底清掃事業で制作した観光ガイド冊子のグルメ情報ページ。「島のめぐみをいただきます」と題して、特定の飲食店を詳しく紹介している(モザイクは屋久島ポストが加工)
海底清掃、JTBパブリッシングに請け負う「資格」なし
さらに取材すると、JTBパブリッシングには、それまでに海底清掃事業を請け負った実績が一度もなかったこともわかった。一般競争入札をせず、ある業者に優先的に業務委託をする場合は、その業者に「余人をもって代えがたい実績」などがなくてはならない。この事業でいえば、過去に何度も海底清掃をした実績がある業者に委託すべきであり、JTBパブリッシングにはその「資格」はないと言わざるを得ない。
つまり町は、本来は「環境保全事業」に使うべき寄付金1700万円を支出して、JTBパブリッシングが得意とする「観光広報事業」を実施したということである。
住民訴訟、原告「事業費1700万円は違法な支出」
そして今、この海底清掃事業をめぐる住民訴訟が鹿児島地裁で続いている。
原告の渡辺千護町議は、JTBパブリッシングに海底清掃事業を手掛けた実績がないことから、「町が同社と特命随意契約を結ぶ合理的な理由はなかった」と主張。事業費1700万円は違法な支出だったとして、その全額を荒木耕治町長らに賠償請求することを町に求めている。
町、海底清掃事業を委託した理由を説明へ
その一方、被告の町は「全国的に見て最大手の観光事業者であるJTBの関連会社であるJTBパブリッシングの知名度、組織力事業遂行能力等を利用することは、より合理性の高い判断であったといえる」などと反論。だが、海底清掃事業の実績がない同社が、なぜ海底清掃を主眼とする事業を請け負ったのか、その必要性を説明したことは一度もない。
それを踏まえ、鹿児島地裁は町に対し、JTBパブリッシングに業務を委託した理由と必要性を明確に立証するように求めているが、どこまで町は原告に反論できるのか。そもそもだが、海底清掃の経験がない同社に対し、同業他社を差し置いて、海底清掃事業を委託する理由があるとは、とても思えない。
町が反論する準備書面は、8月22日までに鹿児島地裁に提出される予定だ。この住民訴訟の行方を左右する重要な書面であり、注目して待ちたい。
