海底清掃問題

【視点】海底ごみ、潜水1時間で「5000キロ相当」は桁違いの多さ 屋久島町・環境保全プロジェクト

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日本釣振興会、ダイバー1人当たり「13.5キロ」の実績 屋久島町、1人当たり「625キロ」は突出した量

業者提出の産廃管理票では1日「5000キロ相当」の処分記録
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【左】海底清掃を実施した業者が町に提出した「産業廃棄物管理票」。この1枚には2022年11月25日に1トン袋5個分(1000キロ相当)の廃棄物を搬出したことが記載されており、合計で5000キロ相当となる管理票5部が提出された【右】
海底清掃で回収されたごみの写真。屋久島町の委託業務として、業者が配信したウェブサイト記事に掲載されている(ocean+α「ふるさと納税で屋久島の海をきれいに! ダイバーたちが世界遺産の海を次世代に繋ぐ」より)

 潜水1時間で海底から5000キロ相当」のごみを回収したというが、果たして、そんなことが可能なのだろうか?

 ふるさと納税の寄付金1700万円を活用して、屋久島町が2022年度に実施した海底清掃事業で、そんな疑念が広がっている。

 清掃を実施した3日間のうち、同年1124日の活動には8人が参加して、海底に1時間ほど潜って清掃したところ、1トン袋5個分(5㎥・5000キロ相当)のごみが集まったという。わずか1時間で集めた量としてはかなり多い気がするが、清掃作業をした業者は、ごみを適正に処分したことを証明する「産業廃棄物管理票」を町に提出したというのだ。

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業者側が屋久島町に提出した11月25日付の産業廃棄物管理票の一部(※黒塗りは町が非開示とした部分。モザイクは屋久島ポストが加工)


ダイビングガイド「1時間で5000キロ相当はあり得ない」

 そこで、屋久島で潜水を続けるダイビングガイドに見解を求めると、「わずか1時間で5000キロ相当はあり得ない」という答えが返ってきた。このガイドは日ごろから、潜るたびに釣り糸やペットボトルなどを集めているそうだが、そもそも海底にあるごみは「少ない量」で、11回の潜水で回収できるのは、多くても数キロほどだという。

 それでは、全国各地で同様の活動をしている団体は、どれほどのごみを海底で集めているのだろうか。
NPO海未来
水中清掃活動について紹介するNPO法人「海未来」のウェブサイトの画面

NPO ボランティア、清掃1回「457キロ」1人当たり「21.7キロ」

 その一つとして、関西地方で「水中清掃活動事業」をボランティアで続ける大阪市のNPO法人「海未来」のウェブサイトをみると、活動を始めた2008年度以降の実績が掲載されていた。そのなかで最も多いのは2014年度で、19回の清掃活動に延べ400人が参加し、合計8690キロのごみを回収したという。活動1回で約457キロ、ダイバー1人当たりでは約21.7キロのごみを集めたことになる。
NPO海未来の実績
NPO法人「海未来」のウェブサイトに掲載された水中清掃活動の実績

日本釣振興会、清掃1回「465キロ」1人当たり「13.5キロ」

 さらにネットで検索したところ、全国で釣り場の環境保全活動などを続ける公益財団法人「日本釣振興会」(本部・東京)も、同じく水中清掃活動を続けていることがわかった。2006年以降の実績をみると、最も多いのは2014年で、62回の清掃活動に延べ2140人が参加し、合計28800キロのごみを集めたという。活動1回で約465キロ、ダイバー1人当たりでは約13.5キロのごみを集めたことになり、前記したNPO海未来と同程度の実績だった。
日本釣振興会の実績
公益財団法人「日本釣振興会」のウェブサイトに掲載された水中清掃活動の実績

屋久島町、1人当たり「625キロ相当」は他団体の30~40倍

 その一方で、町が20221124日に屋久島で実施した海底清掃はどうだろうか。活動に参加したのは8人なので、回収したごみとして産廃管理票に記録された「1トン袋5個」を5000キロ相当とすると、1人当たりで「625キロ相当」を集めたことになる。

 活動した人数や海域などが違うので、単純に比較はできないが、NPO海未来と日本釣振興会の実績にある1人当たり「約21.7キロ」や「約13.5キロ」と比べると、屋久島の「625キロ相当」は3040倍ほどもあり、突出した多さだ。また、屋久島の1回「5000キロ相当」も、両団体の「約457キロ」や「約465キロ」と比較すると、桁違いに多いことがわかる。
動画)海底清掃
屋久島町が制作したユーチューブ動画で紹介された海底清掃の様子

JTBパブリッシング、ごみの量と廃棄実費は未報告

 屋久島での海底清掃事業は、旅行大手JTBの出版部門を担う関連会社「JTBパブリッシング」(本社・東京)が企画を提案し、「特命随意契約」で町と業務委託契約を締結。実際の海底清掃業務は、潜水業務などを専門とする「オーシャナ」(本社・東京)に再委託されたが、回収したごみの量や廃棄実費は、事業が終了したのちも報告されていない。

 その状況を受けて、屋久島ポストはJTBパブリッシングに取材を申し入れたが、実際に集めたごみの量と廃棄実費について、具体的な回答が得られなかった。また、一部の町議会議員からの問い合わせに対しても、同社は明確な回答を避けている。

町、産廃管理票を根拠に1124日の回収分は「5000キロ相当」

 同事業を担当した観光まちづくり課によると、1026日の海岸清掃および同月27日の海底清掃で集めたごみの量は1トン袋5個分(5000キロ相当)で、1124日の海底清掃でも1トン袋5個分()だった。処分方法については、「漁網やウキなどのごみが多く、産業廃棄物として島外へ運ばれ、適正に処分されている」と説明し、オーシャナは産廃として最終処分したことを証明する産廃管理票を町に提出しているという。
11月24日の記録
【左上】海底清掃で回収されたごみの写真。屋久島町の委託業務として、業者が配信したウェブサイト記事に掲載されている(ocean+α「ふるさと納税で屋久島の海をきれいに! ダイバーたちが世界遺産の海を次世代に繋ぐ」より)【その他】業者側が屋久島町に提出した11月25日処理分の産業廃棄物管理票。合計で1トン袋5個分(5000キロ相当)を処理したことが記録されている(※黒塗りは町が非開示とした部分。モザイクは屋久島ポストが加工)


産廃管理票、1000キロ相当ごとに1部作成で計10

 それを踏まえ、屋久島ポストが町への情報公開請求で入手した記録文書をみると、産廃管理票は1トン袋1(1000キロ相当)ごとに1部が作成されており、計10部が町に提出されていることから、3日間で1万キロ相当のごみを回収して処分したことがわかる。そのうち、1124日に潜水1時間で集めたごみに対する管理票は計5枚。ダイバー8人が5000キロ相当を回収したうえで、産廃として最終処分したことが記録されている。

 全国各地で水中清掃活動を続ける他団体の実績と比べると、8人が1時間で5000キロ相当のごみを集めて処分したとする屋久島の記録は桁違いに量が多い。だが、町はオーシャナから提出された産廃管理票を根拠にして、1124日の海底清掃では1トン袋5個分(5000キロ相当)のごみを集めて処分したと説明している。

近く廃棄実費とごみの量が判明の見込み

 果たして、1時間の潜水で5000キロ相当のごみを海底から回収できるものなのか?

 同町の荒木耕治町長は311日の町議会で、海底清掃で集めたごみの廃棄費用について、事業を委託したJTBパブリッシングに確認したうえで、ごみの廃棄実費を報告する方針であることを表明。その回答が同社から得られれば、実際に回収して廃棄したごみの量も判明するとみられる。
荒木町長2
海底清掃事業について議会答弁する荒木耕治町長(2024年3月11日、屋久島町議会YouTubeチャンネルより)

総事業費1700万円の7割が広報費

 2022年度に実施された同事業をめぐっては、総事業費の約1700万円のうち、その約7割にあたる約1165万円が海底清掃そのものではなく、清掃活動を広報する動画と観光パンフレットの制作に支出されていたことが判明。また、実際に海底で清掃した潜水時間が合計で2時間だったことなどがわかっている。
記事と表紙
【左】海底清掃活動について紹介する観光パンフレット「るるぶ特別編集 屋久島」の記事【右】屋久島町の業務委託でJTBパブリッシングが制作した「るるぶ特別編集 屋久島」の表紙

【キーワード:産業廃棄物管理票】

廃棄物処理の流れを確認するための管理票。廃棄物の排出業者はこの管理票を使って、処理業者が最終処分をするまでの過程を確認することが、廃棄物処理法によって義務付けられている。管理票は複写式で、1部が「A票」「B1票」「B2票」「C1票」「C2票」「D票」「E票」の7枚つづりになっており、廃棄物の収集運搬から最終処分までの過程に従って、関わった各業者が運搬や処分をした年月日、ごみの量などを記載。7枚のうち「A票」「B2票」「D票」「E票」は排出業者に返送され、この4枚がそろうことで、排出業者は廃棄物が適正に処理されたことを確認する。

■業者側が送付した産業廃棄物管理票(計1万キロ分)
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