寄付金支出の違法性、原告は民法「信義則」違反を主張 屋久島町海底清掃事業・住民訴訟
総事業費1700万円、寄付者が使途を「環境保全」と指定した寄付金
➡ 町、総事業費の大半を観光ガイド冊子・動画の制作費に支出
【上左・上右】「屋久島町ふるさと納税」と屋久島町のロゴ(町ウェブサイトより)【下】屋久島町がJTBパブリッシングに業務委託して制作した観光ガイド冊子「るるぶ特別編集
屋久島」
ふるさと納税で「屋久島の自然を守って欲しい」と寄付された1700万円を活用して、屋久島町が2022年度に実施した海底清掃を主体とする環境保全事業で、総事業費の大半が海底清掃そのものではなく、屋久島の観光情報を紹介するガイド冊子や動画の制作費に支出された問題をめぐる住民訴訟――。
1月14日に開かれた第3回口頭弁論で原告の渡辺千護町議は、被告の町が総事業費1700万円の大半を観光ガイドの冊子や動画の制作費に支出したのは、寄付金の使途を「環境保全事業」と指定した寄付者の「期待を裏切る行為」で、民法第1条2項が定める「信義則(信義誠実の原則)」に違反していると指摘した。これまで町は、観光ガイドの冊子と動画の制作について、「環境保全事業にとって必須作業」と主張していた。
屋久島町が海底清掃事業で制作した観光ガイド冊子のグルメ情報ページ。「島のめぐみをいただきます」と題して、特定の飲食店を詳しく紹介している(モザイクは屋久島ポストが加工)
町、「寄附申込書」で寄付者が希望する使途を確認
鹿児島地裁に提出した準備書面で渡辺町議は、町は寄付金を受け付ける際に「寄附申込書」の提出を求め、寄付者が指定する寄付金の使途を確認していると説明。この事業に使われた寄付金は、寄付者が使途を「世界自然遺産をはじめとする地域の環境保全に関する事業」と指定したものだったが、実際には事業費の大半は観光ガイドの冊子や動画の制作に使われ、「寄附者が希望した環境保全事業には使われなかった」と主張した。
渡辺町議、町には寄付者の希望に従う「義務」がある
さらに渡辺町議は、町が提出を求めている「寄附申込書」は、町と寄付者の双方にとって「いわば『契約書』や『誓約書』にも相当する文書」であり、寄付者は自身の希望に沿って寄付金が使われることを期待していると説明。それゆえ、町には寄付者の希望に従って寄付金を使う義務があり、総事業の大半を観光ガイドの冊子や動画の制作費に支出したのは「寄附者の期待を裏切る行為」で、民法第1条2項が定める「信義則(信義誠実の原則)」に反する違法行為だとした。
屋久島町が寄付金を受ける際に提出を求めている「寄附申込書」では、寄付者は寄付金の使途を指定することになっている
町、観光ガイド冊子・動画の制作は「環境保全事業にとって必須作業」
前回の口頭弁論で町は、観光ガイドの冊子や動画の制作は「環境保全事業にとって必須作業だといえる」と主張。冊子や動画の制作費に一定の費用を支出することは、「『世界自然遺産をはじめとする地域の環境保全に関する事業』への支出そのものなのであり、寄附者の『環境保全事業』に使ってほしいとの意向に沿った正当な支出なのである」としていた。
民法第1条2項「互いに相手方の信頼を裏切らない」と規定
この事業への寄付金支出の違法性について、渡辺町議が法的根拠とした民法第1条2項は、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」と条文で規定し、「社会の一員として、互いに相手方の信頼を裏切らないように、誠意をもって行動しなければならない」ということを定めている。
住民訴訟で渡辺町議は、海底清掃事業への支出は、ふるさと納税の寄付金の使途を定めた「屋久島町だいすき寄附条例」に違反しているなどとして、町に対して、事業に支出した約1700万円を荒木耕治町長ら町幹部3人に賠償請求するように求めている。