誰が何を言った? フリーと独立メディアを排除する屋久島町議の発言録 議会取材拒否問題

yakushima-post

「誹謗中傷が起きてからでは遅い」「携帯音、失笑、ひそひそ話、大いにある」…

市民の「知る権利」より議員の保身を優先
議長と委員長2
屋久島町議会の石田尾茂樹議長(左)と議会運営委員会の日高好作委員長

 新聞社やテレビ局などのマスコミだけに取材の便宜を与えて、フリージャーナリストや独立メディアなどを議場から排除することを決めた524日の屋久島町議会の議会運営委員会。屋久島ポストはその議事録を入手した。「携帯電話の音で妨げてほしくない」「誹謗中傷が起きてからでは遅い」「携帯音、失笑、ひそひそ話、大いにある」──。そんな町議の発言が記録されていた。プレスの自由(Press Freedom)の根幹である「取材の自由」を制限し、「知る権利」を侵害する決定をめぐる議論では、町議の都合を優先する自己保身の姿勢がにじみ出ていた。なかには、マスコミに所属しない取材者はモラルや倫理感に欠けるという趣旨の差別的な発言をする町議もいた。

 町議会は67日、マスコミだけに取材を認め、フリージャーナリストや独立メディアなどを議場から排除することを正式に決定する。

屋久島ポスト「時代に逆行する決定」と批判

 今回の決定について、屋久島ポストの鹿島幹男共同代表は「多くの地方議会がネットで配信され、自由に取材が認められる流れが進む中で、時代に逆行する決定だ。マスコミに属さない取材者には『取材倫理がない』というような主張も極めて差別的で、社会における多様な職業のあり方を否定する考え方だ」と批判している。

 以下、524日にあった議運での各委員の主な発言のポイントを、議事録をもとに紹介する。審議では、まず取材の許可は議長権限とする屋久島町議会傍聴規則(*1)を改正しないことに決定。続いて、傍聴規則等取扱要綱の改正で取材許可の基準をマスコミに限定した(*2)


■各委員の主な発言のポイント
(敬称略、議席番号順、写真は「町報 やくしま」2021年10月号より)

岩川卓誉:主張を一転させ「取材の自由」認めず
01岩川卓誉

 まず、傍聴規則を改正して「どなたでも撮影できる環境をつくる」ことを主張した。だが、傍聴規則を改正しないことが決まり、要綱を改正する審議に入ると、一転して「取材の自由」を認めない案に賛同。マスコミに取材許可を限定する案は「これでいい」と認めたうえで、その基準に「議長が認める者」を加える修正案を出した。

中馬慎一郎:マスコミには「一定のモラルがある」

04中馬慎一郎
 6月議会から始まる議会の動画配信の状況を見て、傍聴規則は「段階的に検討すればいい」と主張。一方、自由な撮影については「携帯電話の音で妨げてほしくない」として、当面は「一定のモラルがある」とするマスコミに限定すべきだとした。

真辺真紀:ただ1人「取材の自由」に賛成、マスコミ限定は「時代錯誤で恥ずかしい」

05真辺真紀
 委員6人のうち、ただ1人だけ一貫して「取材の自由」に賛成した。今の時代にマスコミだけに取材許可を限定するのは「非常に時代錯誤で恥ずかしい」と批判。「一般も報道も区別する必要はない」として、名誉毀損や肖像権侵害などの問題があれば、「そのときに対処すればいい」と主張した。

榎光徳:マスコミには「しっかりとした倫理規程がある」

09榎光徳
 一般傍聴者が撮影をすると、その写真や動画を使って「誹謗中傷につながる」と危惧。一方、「日本新聞協会とかは日本を代表する団体であって、そこにはしっかりとした倫理規程がある」として、マスコミだけに取材を許可する案に賛成した。

緒方健太:屋久島町の最高機関として「携帯音、失笑、ひそひそ話」に苦言
10緒方健太
 多くの傍聴者に撮影され、「その映像を使って誹謗中傷されるかもしれない」と危惧。傍聴席での携帯電話の音や失笑、ひそひそ話が大いにあるので、「屋久島町の最高機関として、規律をつくりながら段階的に方向性を決めていくべきだ」と主張した。


大角利成:特に主張なく「取材の自由」に反対
15大角利成

「議会動画配信の動向を見ながら、傍聴規則の改正は考えてもいい」とだけ述べ、「取材の自由」に反対した。

 以上の主な発言のポイントは、「2022年第4回議会運営委員会会議録」の傍聴ルール改正に関する発言から、屋久島ポストがまとめた議事録要旨(*3)より作成した。

*1) 屋久島町議会傍聴規則 第9「傍聴人は、傍聴席において写真、映画等を撮影し、又は録音等をしてはならない。ただし、特に議長の許可を得た場合は、この限りでない」

*2) 議運で提案された3案と賛同者(敬称略)

①「日本新聞協会会員社、日本民間放送連盟加盟社及び専門新聞協会加盟社に属する者」=榎光徳、大角利成

②「日本新聞協会会員社、日本民間放送連盟加盟社及び専門新聞協会加盟社に属する者▽議長が認める者」=岩川卓誉、中馬慎一郎、緒方健太

③「自由に撮影と録音を許可」=真辺真紀

*日高好作町議は委員長のため採決に参加していない。

*3) 「2022年第4回議会運営委員会会議録」要旨(※傍聴ルール改正に関する発言)

日高好作委員長:まず、傍聴規則を改正するか否かについて意見を求める。

岩川卓誉委員:前回の議運でも言ったが、傍聴規則を見直した方がいい時期に来ている。(6月議会から)ユーチューブ配信も始まり、町民に開かれた議会になってきていることが浸透していくためには傍聴規則も見直して、どなたでも撮影できる環境をつくることで、町民が議会に親しみやすく感じてもらえると考える。

真辺真紀委員:撮影と録音の許可について、改正されているところが多い。報道と一般傍聴者を分けない議会もあり、報道と一般は全く同じ立ち位置だと思う。撮影や録音だけでなく、現状に沿った傍聴規則に改正する必要がある。

榎光徳委員:報道と一般の区別は、当然あっていいと思う。

中馬慎一郎委員:全国的に報道と一般の関係をなくす風潮はあるが、まだ、そんなに多くはない。現時点でユーチューブ配信をやって、予期しない問題が起きることもあり、いま傍聴規則を変えると大変なことが出てくると思う。取りあえず撮影に関して(傍聴規則等取扱)要綱で決めて、様子を見ながら段階的に検討すればいい。

緒方健太委員:仮に20人の傍聴者に携帯電話で撮影され、その映像を使って誹謗中傷されるかもしれないという課題もある。傍聴規則の変更はせず、要綱で定めればいい。

真辺委員(2012年に「開かれた議会を目指す会」が出した文書を示し)傍聴人は事前の許可を必要とせずに写真ビデオ等の撮影及び録音録画をすることができるが、議事進行の妨げとならないようにすること。また他の傍聴人に迷惑を及ぼさないこと。「開かれた議会」を目指すのであれば、こういった要綱を定めるべきだ。

緒方委員:傍聴席で携帯電話が鳴り出したり、失笑したり、こそこそ話が出たりというのが大いにある。屋久島町の最高機関として、規律をつくりながら段階的に方向性を決めていくべきだ

中馬委員:携帯電話の音で妨げてほしくないという気持ちがある。日本新聞協会などの加盟社は一定のモラルがある。今後はそういった方以外の方も入れて、段階的に開かれた議会を目指せばいい。

榎委員:一般の人が写真や動画を撮って誹謗中傷につながることもある。そこには倫理規程があり、それを守ればいいが、しばらくは動画配信の状況も見ながら、傍聴規則は改正しない方がいい。

大角利成委員:動画配信の動向を見ながら、傍聴規則の改正は考えてもいい。

※採決の結果、傍聴規則は改正せず。

日高委員長:要綱の改正について意見を求める。

※屋久島町議会傍聴規則等取扱要綱(改正案)

(撮影等の許可の基準)

8条「傍聴規則第9条に定める、写真、映画等の撮影及び録音等を議長が許可する基準については、以下のとおり定めるものとする。

(1)日本新聞協会会員社、日本民間放送連盟加盟社及び専門新聞協会加盟社に属する者」

真辺委員:もう2022年になり、今から定めるのに「日本新聞協会会員社、日本民間放送連盟加盟社及び専門新聞協会加盟社に属する者」と縛りをつけた要綱は、非常に時代錯誤で恥ずかしいことだ。

岩川委員:この基準が「(1)日本新聞協会会員社、日本民間放送連盟加盟社及び専門新聞協会加盟社に属する者」となっているが、今の「議長が認める者」よりも範囲が狭まるので、「開かれた議会」からは逆行する。(1)はこれでいいので、(2)として「議長が認める者」を加えたい。

緒方委員:私も「議長が認める者」とすれば、少し縛りが緩くなると思う。

真辺委員:「議長が認める者」で適切な判断基準があればいいが、現状はそれを明確にできない。そうであれば、皆さんに撮影と録音を許可するべきだ。根拠が示せない限りは、権力の乱用だと言われる。

岩川委員:段階的に進めることは納得しているが、その最初の段階で(1)だけでなく、(2)で「議長が認める者」といった表現ができないか。

緒方委員(1)に追加して「議長が認める者」を入れてはどうか。

榎委員(1)の日本新聞協会とかは日本を代表する団体であって、そこにはしっかりとした倫理規程がある。それを踏まると、最終的には(2)の議長の判断につながっていく。

真辺委員:今から定めるには、一般も報道も区別する必要はない。今の時代で傍聴規則を見直しているところは、ほぼ自由に撮影と録音を許可する方向だ。もし名誉毀損や肖像権を侵害されることがあれば、そのときに対処すればいい。

榎委員:誹謗中傷などが起きたときは、それでは遅いと思う。それが起きないように対処するべきだ。

真辺委員:誹謗中傷などから議員の身を守るために、撮影と録音をさせないという判断を議会がするのは非常にまずいと思う。

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